MEDTEC Online

異業種から医療機器業界へ参入

異業種から医療機器業界へ参入

—チャレンジ精神で治療系機器を開発し、世界をリード

先進国の高齢化や新興国の経済成長を背景に、世界の医療機器市場の成長 が見込まれ、異業種から医療機器業界への参入機運が高まっている。大手製造業者も次々と医療機器開発に乗り出しているが、リスクが高い分野だけに中途半端 なコミットメントではとても成功できない。

そんな中、大阪の小さい町工場からスタートし、今やPTCA(経皮的冠動脈形成術)ガイ ドワイヤー製造で国内トップ・シェアを誇る企業がある。朝日インテック株式会社(本社・愛知県名古屋市)だ。

もとも とは通信設備用プリンターや自動車のアクセル向け駆動用ワイヤーロープを作っていたが、その技術をさらに進化させ、日本で初めて、動脈硬化などで心臓血管 が100%閉塞した状態(CTO)を、外科手術ではなく、低侵襲のカテーテル治療で治せるガイドワイヤーの開発に成功。日本の循環器専門医が長年待ち望ん だ「指先の感覚が細長いワイヤーの先端部に伝わる」回転追従性に優れ、しなやかな操作性を持つガイドワイヤーを誕生させた。

「なぜ一番ハードルが高いといわれる心臓に関わる機器を選んだのかとよく聞かれるが、我々の技術があれば絶対出来ると信じて突き進んだ」と宮田昌彦社長。

その技術とは、ミクロンレベルの成形を可能とするワイヤーフォーミング技術、強度・線径をコントロールする伸線技術、高度な回転追従性を与えるトルク技術、 そして極薄膜コーティングを施す樹脂コーティング技術だ。この4つのコア技術は、1992年に朝日インテックが医療用具製造業の認可を受ける以前に、既に 産業機器向けの駆動用ステンレス極細ミニロープの製造で確立していたものという。

生命線となる4 つのコア技術

朝日インテックは、1976年に宮田社長の父親であ り現会長の宮田尚彦氏が、駆動用ミニロープの需要を見越して創業した会社。

自動車やコピー機、家電など約50業種800社向けミニロープを作る会社にまで 成長したが、このミニロープとはステンレス製の極細ワイヤーのことで、直径0.013〜0.5ミリの素線を何本か撚り合わせて製造する。この撚り合わせて ロープにする技術がワイヤーフォーミング技術で、さらに強度や耐久性を高めるために開発されたのがステンレス線をより細くより強く仕上げる伸線技術であ る。

そして、のちに細い血管の中を患部まで到達されるガイドワイヤーに不可欠な技術として大活躍することになるのが、トルク技術。これは簡単にいうとワイヤーの手元を回転させた際、もう一方の先端もスムーズに回転に追従させられるようにする技術で、直線上ではあまり 必要ないが、蜷局(とぐろ)を巻いた状態ではこのトルク処理を施していないと、手元の指先の動きが反対側の先端にうまく伝わらない。医者が体外から、クモ の巣の如く走る細い血管を通って体内の患部までワイヤーを送り込むには、正確な回転追従性がものをいう。

そして4つ めの技術が、工業用ワイヤー向けに開発した表面コーティング技術。これをカテーテル向けガイドワイヤー用に進化させ、ワイヤーの表面にテフロン加工や親水 性コーティングを施すことで、ワイヤーが血管内でより滑りやすく、より血栓がつきにくくできる。

しかし、同社はこれら4つのコア技術をすぐに医療用途に応用させたわけではなかった。きっかけは、内視鏡の性能改善のため操作用ステンレスワイヤーを作る会社を探していたオ リンパス株式会社から製造を受注したこと。

「当時、まだ無名の小さい会社だったが、それでも工場にかなり高額な引張 荷重試験機を導入しているのを見て、我々のもの作りへのこだわりを感じて任せてもらえたのだと思う。こうした医療機器向けの部材の提供やOEM生産を序々 に進めながら、医療の世界を少しずつ垣間見て、最終的にオリジナルブランドに至ったのがよかった」と宮田社長は語る。

また、ちょうど内視鏡用ワイヤーの供給を開始した80年代後半には、付加価値の高かった工業用ワイヤロープも価格競争に突入し、朝日インテックはコスト削減 と量産体制を敷くため生産拠点をタイに移すことを決定。そうすると国内事業が空洞化するので、日本で第二の事業を模索しようということになり、コアテクノ ロジーを生かしつつ、既存顧客(オリンパス社)の消化器系分野と競合しない血管系治療用のガイドワイヤーに目を付け、本格的に取り組むことになった。

厚 い壁を乗り越え、医療機器の世界へ

こうして心臓疾患の治療器具分野への進出を 決断したものの、社員は全員その道では素人。そこで、かつて大手医療機器メーカーで血管造影用カテーテルを開発した専門家を招き、国内初となるPTCAガ イドワイヤーの開発にゼロから取り組んだ。しかし、工業用の部品メーカーが異なる事業分野でもの作りを手がけることの課題は多かった。

まず直面したのは、「部品」であるロープ作りと「医療機器」であるガイドワイヤー作りの違いだった。開発者が医師のところに何度も出向き、アドバイスや指導 を受けて試作を繰り返すという開発工程そのものが今までにない経験だった。

また、当時国内のガイドワイヤーで7割の シェアを持っていた米ガイダント社(現アボット・ラボラトリーズ社)の特許が厚い壁として立ちはだかっていた。いくら操作性・トルク性で優る製品を開発し ても、ワイヤー先端部分の特許が邪魔をしている。朝日インテックはそこでも挫けず、さらに既存製品のスペックを上回る数々の技術を生み出した。そのひとつ がステンレスとプラチナの接合技術である。

ステンレスはX線画像に写らない為、コイル状になったガイドワイヤーの先 端にはプラチナが接合されているが、その「ねじこみ」と「ロー付け」によるコイル接合技術がガイダント社の特許となっていた。そこで朝日インテックは、プ ラチナとステンレスを溶接・研磨した後、伸線して1本の素線にすることで優れたトルク性と安全な操作を可能にする「ジョイントレス」ワイヤーを独自に開発。

さらに朝日インテックの強みであるトルク技術とガイドワイヤー表面への親水性コーティング技術も開発し、まさに 医師が望んでいた「指先の微妙な動きを先端に忠実に伝える」ワイヤーの製品化に成功し、素材の開発からアッセンブリ・滅菌処理まで一貫生産体制ができる医 療機器メーカーと生まれ変わったのである。

トップドクターが強い味方

単 に製品化に成功しただけでなく、1994年にPTCAガイドワイヤーを世に出してからおよそ2年で国内シェアの20%を獲得し、現在ではそのシェアは 50%を超える。また日本だけでなく、世界85の国や地域にも供給され、各国の平均シェアは20%という。

これだけ急速に普及した理由は、「ドクターとの連携体制」と宮田社長は断言する。特に慢性完全閉塞(CTO)をこじ開けるようなワイヤーの開発は不可能だと、海外 メーカーにいくら要望を出しても門前払いを受けていた日本の医師の望みをかなえたことが大きい。

誰も手を出したがら なかった分野で朝日インテックが製品化にこぎつけ、それを日本の医師が使用してCTOの低侵襲治療を次々に成功させた。医師がその結果を論文や海外におけ る学会で発表し始めると、いっきに製品への注目度があがりシェア拡大につながったという。

それでも、いきなり海外販 売をする力は同社には無かった。そもそも開発を依頼してきたCTOの第一人者である加藤修医師(CCTスーパーバイザリーディレクター)が独フランクフル トの心臓センターに行くことが決まり、朝日インテックのガイドワイヤーを使用したいと要請してきたのをきっかけに、まず欧州の許認可であるCEマーキング の認証を取得することとした。

その後、加藤医師がミラノとニューヨーク間をつなぐ衛星中継でCTO術者としてオペを 実施したのをライブで見ていた米国トップドクターのMartin Leon医師(現 米国コロンビア大学病院)から突然、米国にも是非導入してほしいと同社のメディカル工場にファックスが入る。その後、PL法や特許の問題などを検討し、5 年以上の歳月をかけ米国への導入も果たした。

「日本は薬も医療機器も外資主導で輸入に頼っているが、技術の高い日本 のドクターは、なぜ輸入品に頼らなければならないのかフラストレーションがたまっていると思う。CTO治療は、国産品による日本のドクターが主導した治療 方法として、日本の先生の強いバックアップを得られたのが大きい」と宮田社長は語る。今では、ほぼ毎月、朝日インテックがコーディネートし、日本の医師ら を海外各地に派遣し、この治療方法を伝授しているという。

また国内では常にエンジニアを医療現場に送り、医師や看護 師のきめ細かい要望に迅速に対応している。

「医療機器は医薬品と比べ、実際の医療現場を知らないと良い製品はできな い」と語る宮田社長は、「いかに現場のニーズを把握し、迅速対応する」かが成功の鍵という。

朝日インテック独自の生産プロセス(画像クリックで拡大)

品質管理に細心の注意

そ して、忘れてはならないのは生命関連産業としての厳しい品質保証体制の確立である。

ワイヤーロープなどの工業製品 も ガイドワイヤーなどの医療器具も高い精度が求められることに変わりはないが、治療系医療器具は、不具合が「人の命」に関わり、取り返しがつかないことにな りかねない。

もともと産業機器の製造工場としてスタートし、現在は朝日インテックの全製品の95%を製造している タ イやベトナムの工場は、国際規格であるISO13485はもちろん、国内薬事法QMS省令、欧州医療機器指令における品質システム要求(EN ISO13485)など世界最高水準の医療機器品質システムに適合している。また、タイ工場には約20名、ハノイ工場には約10名の日本人スタッフを常駐 させ、品質保証を統括管理する国内本社と専用線によるTV会議システムを活用して密に連絡を取り合っているという。

日 本発の医療機器を全世界へ

90年代の前半にわずか5-6名で医療機器の開発に着手した朝日インテックは、現在、工場ス タッフを含め従業員2,871名を抱える東証第二部上場企業となり、その売り上げの9割近くが医療関連製品である。

「今考えれば、あまりに無謀だったかもしれないが、現場の医師が求めているものを作らなければ、医療の進歩もなく、患者にとっても不利益となる」と宮田社長。

昨年1月には心臓から脳にまで患部対象領域を広げ、脳血管内治療用のガイドワイヤーも発売した。1年で35%の国内シェアを獲得し、今年からこの分野でも世 界に打ってでるという。

「日本人の器用さ、もの作りへのこだわりや、医師の高い技量を考えると、日本にも まだまだ チャンスはある」と社長は語るが、朝日インテックのように、自社保有技術に優位性を持たせ、医療現場と連携しながら、しっかりとした品質保証体制を確立し ないと、医療機器産業への参入は難しい。

「かなりリスクはあるが、医師からの厳しい要求に応えることで、機器も治療 も進化し、それによって現実に患者が助かることの意義は大きく、やりがいがある」と宮田社長は熱く語る。今後は、まだ充分な治療が受けられない BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)を中心とする新興国への供給にも力を入れていくという。

(取材、文責:編集部 安西)


朝日イン テック株式会社(本社・愛知県名古屋市)は、1976年に極細ステンレスロープの製造・販売会社として設立。

1991年より医療器具の研究開発を開始し、 翌92年に厚生労働省より医療用器具製造業の認可を受け、国内初の心筋梗塞治療用PTCAガイドワイヤー及びガイディングカテーテルの製品化に成功。

宮田 昌彦氏は、2009年より同社代表取締役社長。

 


朝日インテックは、MEDTEC Japanのブース番号509で同社の各種製品・サービスを紹介する。

創業以来の極細ワイヤー、ロープ、コイル、ガイドワイヤーな ど朝日インテッ ク独自の高度金属加工技術に加え、特殊樹脂加工技術(チューブ・コーティング)を強化してきた。これにより素材からの一貫生産という特徴を生かした金属製 品、樹脂製品の単品提供はもちろん金属と樹脂技術の融合によるASSY製品にも高度な技術で対応している。また、多種多様な医療機器アプリケーションに対 するワンストップソリューションを提供している。


 

 

 

 

カテゴリー: