医療機器の放射線滅菌の現状と展望(2)

3.滅菌保証

医療機器の滅菌は、製品を生育可能な微生物が存在しない状態にするために、バリデートされたプロセスをいい、無菌性保証水準(SAL)=10⁻⁶が達成されることが定義されている2。つまり、100万個の製品中に生存している菌が1個以下であることを検証する必要がある。その滅菌プロセスの開発、バリデーションおよび日常管理の要求事項については、滅菌方法ごとに、JIS規格またはこれと同等以上の規格・基準により検証されている。

放射線滅菌は「ヘルスケア製品の滅菌-放射線-第2部:滅菌線量の確立 JIS T 0806-2:2014(ISO11137-2:2013)」の規格に基づき、滅菌線量を確立し、無菌性保証水準(SAL)=10⁻⁶を達成できる。

ISO11137は、1997年以降、多くの医療機器で製品実績がある。当社でも、この規格に基づき、多くの製品(医療機器他)の滅菌線量の決定を行ってきた。どの試験法で線量設定を行うかの、最初の因子は検体のバイオバーデン(菌数)測定が行えるかどうかにある。図4にどの試験法が適しているかをフロー図にまとめた。

検査法のフロー
図4 検査法のフロー

バイオバーデン測定が不可能な場合は、Method2を適用する。バイオバーデン測定が可能な場合は、Method 1およびVDmaxが適用できる。

滅菌線量設定のための試験は、Method 1、Method 2が広く使われていたが、2006年にVDmaxが追加され、以前の試験方法よりも検体数が少なく、比較的安価で滅菌線量が決定できるVDmaxが広く使われている。これまでのVDmaxは、15kGyおよび25kGyのみの滅菌線量に限定されていたが、滅菌バリデーション基準が改訂され、VDmaxSD法が適用されたことにより17.5、20、22.5、27.5、30、32.5、35kGyの適用線量が追加された。

次に各試験方法の詳細を述べる。

Method 1
図5 Method 1

・Method 1
Method 1は、バイオバーデン(菌数)の放射線抵抗性を、モデルケースの標準抵抗性分布と比較して線量設定を行う。図5に示す通り平均バイオバーデンの決定から検定線量を取得し、検定線量試験の実施および結果の判定を行う。

平均バイオバーデンの決定は、それぞれ独立した3つの製造バッチから少なくとも10個の製品試料を選び、平均菌数を算出する。次に算出された平均菌数に対応した検定線量を対応表から読み取る。検定線量は、SAL=10-2が得られる線量で行う。これは製品100個に1個菌が残る可能性があるレベルにあたることから、実際に検定線量を製品100個に照射する。照射後、製品ごとに無菌性の試験を行い陽性数が2を超えなければ、対応表からSAL=10-6を与える線量を求め、これが滅菌線量となる。

Method 2
図6 Method 2

 

・Method 2
Method 1およびVDmaxは、モデルケースの標準抵抗性分布を利用して滅菌保証を行うのに対して、Method 2は、図6に示す通り、菌数測定を行わず製品に付着している菌の放射線抵抗性から滅菌線量を設定する。

Method 2は、3つの製造バッチそれぞれについて、20個ずつの製品試料を最初の線量を2kGyとして、2、4、6kGy…のように、2kGy刻みで増加する少なくとも9水準の一連の線量で照射する。1水準の製品試料数は、1バッチ20個×3バッチ(計60個)必要となる。試験方法は、各線量の照射後、無菌性の試験を行い、連続した2水準で製品の無菌が確認された場合、検定線量(連続した2水準の低い方の線量)を100個の製品を用いて照射する。検定線量を照射後、陽性数が15個以下であれば陽性数に応じた滅菌線量を算出する。

VDmax
図7 VDmax

・VDmax
VDmaxは、実施面ではMethod 1と類似しているが、最終の滅菌線量を予め想定し、SAL=10⁻⁶が達成できることを検証する方法である(図7参照)。

特徴としては、他の試験法より使用する製品試料数が少なく、少量生産製品の滅菌線量設定に有用である。ただし、各製品の初期菌数は、25kGyで1,000個以下、15kGyで1.5個以下等、想定する滅菌線量によって条件がある。菌数測定に必要な製品試料数は、1バッチ10個×3バッチ(30個)である。検定線量は、平均菌数で決定され、この線量を製品10個に照射する。照射後の製品に無菌性の試験を行ない、陽性数が1個以下で予め想定した滅菌線量に設定される。

・線量監査
設定された滅菌線量は、線量監査を行い、滅菌プロセスの有効性を維持しなければならない。菌数測定(1カ月または3カ月毎)により製品に付いている菌数を、検定線量監査(3カ月毎)により菌の放射線抵抗性を監査する。

上記の説明で、菌数の測定のみの試験となっているが、JIS T11737-1:2013(ISO11737-1:2006)では、「バイオバーデンの微生物学的特性付け」が明記されている。今後は、菌数のみでなく、検出された菌の同定試験などをすることも必要となっている。菌の同定法には、従来の遺伝子同定の他、山北ら3)によれば現在、迅速同定も広く普及してきている。

4.医療機器の利用例

医療機器のガンマ線滅菌製品は、透析用中空糸、注射器およびランセットなど高分子のディスポ医療機器が中心となっている。また、替え刃メス、歯根、注射針のような金属製の医療機器でもガンマ線滅菌を行っている。これらの製品は、既に30年以上の実績があり、ガンマ線滅菌製品として浸透している。今後は、インプラント(人工股関節)や内視鏡のように金属と高分子を組み合わせた製品、再生系・生体由来医療機器の細胞を利用した製品で熱に弱く、また生理食塩水中で保管しなければならない製品が増えると考えられる。

一方、カテーテルなどの従来の医療機器は、製造コストの削減から汎用PPやPVCを多く使用している。そのため、ガンマ線照射すると劣化や有害なガスが発生するためガンマ線滅菌に向かないものが多くある。今後、安価な医療グレードの耐ガンマ線PPやPVCが普及すれば、これらの製品もガンマ線滅菌製品の対象となる。

5.まとめ

ガンマ線滅菌は、安全で確実な滅菌法として多くの医療機器で行われている。ガンマ線滅菌製品は、医療機器以外でも安全で確実な滅菌法として無菌動物用飼料、食品容器4)、化粧品原料5)、検査器具および衛生材料では30年以上前からガンマ線滅菌製品が広く普及している。現在、医療機器は、上で紹介した無菌性保証水準(SAL)=10⁻⁶適応が基本となっているが、佐々木6)によれば、SALが10⁻⁶より低い滅菌保証を許容する動きがあると述べている。

一方、医療機器に多く使用される汎用PPやPVCなど一部の高分子では、劣化の加速、分解ガスの発生および着色の問題がある。しかし、多くの材料メーカーが医療グレードとして耐ガンマ線材料を提供しておりその種類も増えている。今後、耐ガンマ線材料のコストが下がれば、より多くの製品への対応が可能となる。

現在、国内の医療機器は、市場規模自体が一定程度あり、従来製品については保守的な傾向が強い。しかし、青山7)によれば、現状の課題を指摘し、付加価値創造に向けた戦略構造の必要性を述べている。例としてインプラントは、輸入製品が多く流通しているが、国産化を目指し、多くの企業が最新の技術と素材を活用して低コストと高付加価値の製品製造に取り組んでいる。このような製品には、ガンマ線滅菌が最も適した滅菌法であり、今後の製品開発の参考になれば幸いである。

REFERENCES

  1. 工業統計資料編集委員会、“医器工統計資料2010年度(JMED statistics 2010)”、日本医療器工業会、 (2010)
  2. 厚生労働省、滅菌バリデーション基準、薬食監麻発 0330 第5号 (2010)
  3. 山北京由、河合政利、廣庭隆行「MALDI-TOF MSを用いた微生物迅速同定」、ジャパンフードサイエンス Vol.53 No.8 (2014)
  4. 河合政利、「包装資材のガンマ線滅菌」、軟衛協会報 2008年 下期号(vol.70)
  5. 成末泰岳、「ガンマ線による化粧品と化粧品原料の殺菌」、FRAGRANCE JOURNAL 2012年12月号
  6. 佐々木次雄、「滅菌機器の規格と現状、今後の展望」、日本防菌防黴学会誌、Vol.45 No.1 (2017)
  7. 青山竜文、「医療機器産業の市場環境と付加価値創造に向けた戦略構築の必要性」、群馬経済研究所・ぐんま経済、No.401 2016年11月

著者紹介

・河合政利:株式会社 コーガアイソトープ 営業部 課長
近畿大学理工学部原子炉工学科卒業後に株式会社コーガアイソトープ技術課に入社。医療機器、包装資材、検査器具など多方面の顧客にガンマ線滅菌の導入から商業照射への案内を行う。

・梅景 聡:株式会社 コーガアイソトープ 営業部
長浜バイオ大学バイオサイエンス学部バイオサイエンス学科卒業後、試薬・検査器具の販売会社で営業としての経験を積みながら実績を上げる。2016年に株式会社 コーガアイソトープ営業部に入社。現在、前職で蓄えた豊富な知識を活用し、全国の顧客回りと新規開拓にフレキシブルな対応とフットワークの軽さを武器に活躍中。

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