非接触バイオセンシングによる感染症スクリーニング

ByMedtec Japan編集部

医療現場では低侵襲や非接触で生体情報を検知するニーズが高いが、光学機器や画像処理の分野では様々な技術進歩がある。ニーズと技術が合流するこの領域で多くの研究者や企業が新たな機器開発に挑んでいる。

電気通信大学の桐本哲郎・孫光鎬研究室と首都大学東京の松井岳巳研究室が共同で、マイクロ波レーダーやRGBカメラと赤外線カメラ(サーモカメラ)を組み合わせてバイタルサインである体温、呼吸数、心拍数を非接触で計測するシステムを開発している。

目指すのは空港や病院などで感染症患者を見つけ振り分けを行うこと。現在、空港では赤外線カメラによって体表温度を計測することで発熱チェックが行われている。しかし、赤外線カメラは気温など環境の影響を受けやすく、感染症患者の検出率が30~70%と十分でないといわれている。

そこで、感染症では心拍数と呼吸数も上昇することから、非接触でこれらを計測し体温と組み合わせて検出精度を高めることを考えた。

現在、空港などで簡便に利用できるものとして開発しているのは、赤外線カメラとRGB画像を得られるCMOSカメラを組み合わせたシステム(下図)。体温は赤外線カメラ、呼吸数は赤外線カメラで鼻の下の温度変化(吸気では低温、呼気では高温)をもとに計測する。また、血中のヘモグロビンは緑色成分を吸収しやすいため、RGBカメラで顔をとらえ緑色光の吸収量の変化で脈動をとらえることにより心拍数を計測する。いずれのカメラでも1秒間で30フレーム撮影を行う。

Guanghao Sun, et al. Int. J. Infect. Dis. 2017から引用

2つのカメラで顔領域をトラッキングし、現状では10秒間程度で3つのバイタルの計測が可能。測定したバイタルから感染症の有無をロジスティック回帰分析で判別することができる。福島県の高坂クリニック(阿部重人院長)で行ったインフルエンザを検出する試験では、従来の方法より高い9割近い検出感度を示した。

今後カメラのトラッキング性能を高めれば、自動での顔領域の検知と一度に複数の人の計測が可能になる。近年、空港で使用されるカメラは高性能化しており、本システムでは既存のカメラを活用し(新たな機器の導入が不要)、ソフトウェア導入のみで利用可能になるのが大きな利点である。

また、孫氏はもともとマイクロ波レーダーを非接触生体情報計測に活用することを目指しており、マイクロ波レーダーとサーモカメラなどを組み合わせた感染症スクリーニングシステムも開発している。マイクロ波を発射し体動による反射波の変化を解析することで、呼吸数や心拍数を測定し、感染症の有無の判定には機械学習を活用する。

このシステムは電通大の国際共同研究の一環としてベトナムの病院での臨床研究が決まった。現地も視察した孫氏によると、デング熱など熱帯特有の感染症が多いにもかかわらず、十分な隔離対策ができていない病院もあるという。

まずは臨床現場で使ってもらい役に立ててもらえるものにしていきたいと孫氏。他にもマイクロ波レーダーをうつ病のスクリーニングや在宅見守りロボットに応用する研究も進めている。将来的には企業との連携などによる事業化も視野に入れる。

研究室HPhttp://www.radar.ee.uec.ac.jp/research/index.html
■ 個人HP:http://cargocollective.com/guanghao_sun

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