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欧州医療機器規則(MDR)発効後の状況と展望

欧州医療機器規則(MDR)発効後の状況と展望

欧州で流通する医療機器に関する新たな規制である「医療機器規則(Medical Device Regulation:MDR)」が5月26日に発効した。ドラフトが発効前から公開されており内容は予想されていたが、発効後数カ月の状況と今後考慮すべき点を、今年4月にも取材(関連記事)した株式会社サン・フレア リサーチ&コンサルティング部門コンサルタントの佐藤英樹氏に改めて伺った。

By:Medtec Japan編集部


製品ごとに移行期間の把握を

発効によって最終ドラフトから内容の変化はないが、新たな規制への移行スケジュールが年月日ベースで明確になった。CEマークを取得して医療機器を販売するすべての医療機器メーカーに対応が求められるが、今後の影響や負担の大小は業者によって異なるため、現在は各社が移行までに対応すべきことを確認、整理し、スケジューリングをはじめるべき段階だ。特に、CEマークのある製品を多数製造・販売している業者は、品目ごとにそれを行わなければならない。

大枠の移行期間は、第三者認証機関(notified body)に対する条項は発効日から6カ月、製造業者に対する条項は発効日から3年である。つまり、2020年5月26日をもって、現行の「医療機器指令(Medical Device Directive:MDD)」が無効になり新たにMDRが欧州に出荷される医療機器に適用される。

ただし、第三者認証機関による認証書は有効期間が5年であるため、2020年5月25日以前に現行のMDDに適合する第三者認証機関による認証を受けた場合、2020年5月26日以降でもこの認証による出荷が可能である。この場合、認証の有効期間は遅くとも2024年5月27日、また機器を欧州で流通させることができる最終期限は2025年5月27日とされている。

CEマーキングの方法として、クラスⅠ機器で製造業者が自ら規制への適合を証明する自己宣言と、クラスⅡa、Ⅱb、クラスⅢ機器で第三者認証機関による審査で認証を取得する2パターンがある。したがって、自己宣言のクラスⅠ機器では2020年5月26日からのMDRへの適合が求められる一方、第三者認証機関の認証による機器のすべてが2020年5月26日からMDRへの適合に切り替わるわけではない(最終の期限は上記の通り)。

また、欧州規制では、「市場への出荷」、「市場への提供」、「エンドユーザーの使用開始」といった概念が区別され期限が定められていることは注意すべきだ。こうした設定により、期限間際に欧州へ大量出荷されるような事態が起こるかもしれない。

様々な要素により期限が決まっているので、多品目を扱っている医療機器メーカーは品目ごとに移行日時を明確に把握し、それに向けてどのような対応をすべきかをスケジューリングしておくことが重要になる。また、認証の新旧で混乱があってはならないので、管理方法も計画的に準備しておく必要がある。

第三者認証機関に対する移行期間は6カ月であるため、早ければ本年末から第三者認証機関が新たなMDRのもとで認定を受けることができるとされる。しかし一方で認定には時間がかかるとも言われており、早めにMDRに適合するCEマーキングをしておこうと考えるメーカーにとっては、この動向にも注意が必要である。

新旧のギャップに注意を

スケジュールを考えるにあたっても、医療機器としての要件や位置づけに変化がないかは把握しておかなければならない。

たとえば、要件に大きな変化があるのはクラスⅠの手術器具である。これまでは自己宣言によるCEマーキングだったが、MDRでは、病院で滅菌して再利用可能な手術器具は、滅菌によっても性能や安全性が損なわれないという点について第三者認証機関による認証を受けることが必要になる。

手術器具でCEマークを取得している日本の医療機器メーカーは少なくなく、2020年5月26日以降は第三者認証機関による認証が必要になるため、該当する業者にとって課題になると考えられる。

また、医療目的を持たず医療機器に該当しない美容用途のヒアルロン酸やコンタクトレンズなども新たにMDRの規制を受けることになり、今後“common specification”で評価基準を示すとしている。このような評価基準を作成し管理する主体として“Medical Device Coordination Group:MDCG”が設置される。

PMSなど文書化への要求

MDRへの適合を示すための具体的な作業は、MDRの附属書であるAnnex Ⅰ・Ⅱを通じて様々な規格への適合などを示して医療機器への要求を満たしていくことである。特に新たに文書化が求められるのは市販後調査(PMS)に関してである。MDR第85条・第86条の規定や、市販後調査に関する技術文書について定めたAnnex Ⅲの規定によれば、市販後調査の計画書とそれに対する報告書を年次で作成することが求められる。

医療機器としての適合性を示していくという点ではMDDと変わらないものの、品質マネジメントシステム規格のアップデートに加え、近年発行された臨床評価ガイダンスへの適合や医用電気機器であればEMC(電磁的両立性)規格のアップデートなど現行法の下でもすでに対応すべき事項は多く、文書化作業も含めそれらの対応によりメーカーへの負担が増えるのは確実である。

UDIの義務化

米国で導入されている医療機器・包装へのUDI(Unique Device Identifier、機器固有識別子)表示がMDRでも義務化される。植込み機器およびクラスⅢ機器は2021年5月26日、クラスⅡa、Ⅱb機器は2023年5月26日、クラスⅠ機器は2025年5月26日とクラスごとに適用日が定められた。

これまで欧州では医療機器のデータベースは公開されていなかったが、UDIの登録先となる製品情報データベースが新たに民間に公開されるものとして今後整備が行われる。

臨床評価の厳格化

既報(関連記事)の通りMDRでは、臨床的な安全性・有効性を示す方法(臨床評価)について、クラスⅢ機器では臨床試験が原則必須とされており、厳格化が示されている。ただし今後“common specification”が規定され、一定の基準を満たす後発性の機器は臨床試験が不要となる方向性も示唆されており、上記のMDCGが発行することになる基準が注目されるところである。

近年、現行のMDD下で発行されたガイダンスでも臨床評価に対する要求は強化されているが、同等品が既に販売されている機器であれば、クラスⅢでも同等品で行われた臨床試験等を参照するという文献による評価方法で適合性を証明する余地がある。

臨床評価は現行のガイダンスでも必ずしも基準が明確に示されておらず、どこまで示せばよいか対応は難しいが、文献による評価が有効であれば臨床試験を行うよりは負担は少ない。MDRでの基準がどうなるかが今後も不透明であれば、クラスⅢ機器は現行のMDDで認証しておこうと考えるメーカーは増えるかもしれない。


サン・フレアでは、MDRやIVDRの参考和訳を提供しており、同規制を踏まえた欧州進出サポート、CEマーキングサポート、技術文書の英語翻訳サービスを行っている。

アジアや中東などの新興国との商談ではCEマークが手がかりになることが多く、海外進出の最初のステップとしてCEマーキングを目指す医療機器メーカーが増えている。同社では月1回のペースでCEマーキングに関する無料セミナーを開催している。

現在CEマーキングを進めている顧客に対しては、現行のMDD下でのサポートに加え、新たなMDRへの対応を準備するよう助言している。また、上記のように複雑さを増している臨床評価についてのコンサル依頼は増えているという。

臨床評価や“common specification”、製品情報データベースなど、MDRの実際の運用面は今後ガイダンスによって補足される部分も大きいため、スケジュールを把握し対応の準備を行うとともに、今後の発表を注視すべきと佐藤氏は締めくくった。

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