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量研発ベンチャー、高輝度中赤外レーザーで非侵襲血糖値センサ実用化に挑戦

量研発ベンチャー、高輝度中赤外レーザーで非侵襲血糖値センサ実用化に挑戦

ByMedtec Japan編集部

8月18日、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(量研/QST)は、量子ビーム科学研究部門関西光科学研究所量子生命科学研究部レーザー医療応用研究グループの山川考一グループリーダーらが開発した高輝度中赤外レーザー(波長:6μm〜9μm)を用いた、採血なしで血糖値を測定する技術(非侵襲血糖測定技術)の実用化を目指すライトタッチテクノロジー株式会社(代表取締役社長兼任:山川考一)を、7月5日にQSTベンチャー第1号として認定したと発表した。

量研/QSTの認定を受け、ライトタッチテクノロジー株式会社は7月10日に正式に設立。同社の設立は、山川考一グループリーダーらの技術の事業化を目指した文部科学省の大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)の成果の活用でもあり、今後同社は、QSTが得意とする最先端レーザーをコア技術とした非侵襲血糖値センサーを事業展開し、QSTでの研究成果の社会還元を目指すという。

既存技術の状況

採血型自己血糖値センサ
図1 採血型自己血糖値センサ

採血型自己血糖値センサ(1)には、患者の煩わしさ、苦痛、精神的ストレス、感染症の危険に加え、穿刺針やセンサチップ等の消耗品のコストの問題がある。そこで、採血せずに非侵襲で血糖値を測定する技術開発はこれまで20年以上にわたって行われており、一部では既に製品化を目指した開発も行われているが、微侵襲で測定するものを除いて製品化に成功したものはない。これらには近赤外光を照射することによる生体透過光あるいは反射光を利用し、グルコースの光吸収を計測するものや、温度や血中酸素飽和度を測定することにより間接的に血糖値を求めるものが含まれる。

近赤外光を用いて非侵襲で血糖値を測定する場合、近赤外光は生体上皮の毛細血管まで到達しやすいものの、例えば波長1.5μmの光に対するグルコースの吸収に起因する光強度の変化率はわずか0.4%程度に過ぎない。このため、検出される光強度は、グルコース以外の各種血液中の物質(タンパク質、脂質等)の影響を大きく受ける。現在、複雑な計算を用いてグルコース成分だけを取り出す工夫が試みられているが、臨床に必要とされる十分な測定精度を得ることができていない。また、グルコース以外に起因する吸収は、環境条件(体温等)の影響を大きく受けることも実用化の妨げとなり、日本の厚生労働省や米国FDAの承認は得られていない。

一方、中赤外領域では、特定の物質のみに選択的に光エネルギーを吸収させることができるため、比較的容易にグルコースの吸収を計測することが可能だ。しかし、セラミックヒーターなどの従来光源の中赤外領域での輝度が極端に低いため、血糖測定に必要とされる十分な精度が得られなかった。

他方、皮下に挿入した専用のセンサーを用いて、微侵襲、非観血的に間質液中のグルコース濃度を連続的に記録する持続血糖値センサー(CGM)が、医師の指導の下、糖尿病患者の日常の診断に用いられている。しかしながら、一般的なCGMは間質液中のグルコース濃度と血糖値との間にはタイムラグが生じるため、アルゴリズムを用いてこれを解消するために採血による日々のキャリブレーションが必要となる。

本技術の特徴

山川考一グループリーダーらは、光パラメトリック発振(OPO)の共振器ミラーの反射率を最適化することにより、共振器長を大幅に短縮すると共に、OPOの波長変換効率を従来に比べて1桁向上することに成功した。このように、先端固体レーザーとOPO技術を融合することにより、手のひらサイズの高輝度中赤外レーザーを開発し(2)、一定の条件の下で承認医療機器に求められる国際標準化機構(ISO)が定める臨床応用に必要な測定精度を満たす非侵襲血糖測定技術を初めて確立した(3)。この技術を用いることにより、指に針を刺して採血することが不要になるのはもちろんのこと、CGMに見られるようなタイムラグも生じないため、日々のキャリブレーションも不要となる(1)。

イッテルビウム添加ヤグレーザーとパラメトリック発振器
図2 指先ほどの大きさのイッテルビウム添加ヤグレーザー(左)で波長1 µmの近赤外光を発振し、その光を同程度の大きさのパラメトリック発振器(右)で波長を変換し、高輝度中赤外レーザー(波長:6μm〜9μm)を発生。
非採血血糖測定イメージとクラークエラーグリッド分析法
図3 採血なしに指先で光に触れるだけで血糖値が測定できる。(左)クラークエラーグリッド分析法。クラークエラーグリッド分析においては、正確な測定であると認められる範囲(Aゾーン:最も望ましい範囲)、その他BゾーンからEゾーンまでの5つの領域に区分されます。図中の点線で囲まれた部分がAゾーン。(右)
表1 血糖値センサ比較表
血糖値センサ比較表

事業化への道のり

QST初のベンチャー誕生は、平成25年度文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)において、山川考一グループリーダーのプロジェクト「中赤外レーザーを用いた非侵襲血糖測定器の開発」が採択されたことでその第一歩を踏み出した。その間、本プロジェクトの事業プロモーターであるバイオ・サイト・キャピタル株式会社(代表取締役:谷正之)の事業化に向けた支援によって、ベンチャー設立の足掛かりとなった。一方、START終了後は、大阪商工会議所の医療機器開発促進プラットフォーム(産学医連携促進や事業化支援)の活動が、ベンチャー設立を加速する役割の一部を担った。大阪商工会議所は、今後も更なる事業展開をサポートする予定。

今後の事業展開

まずは臨床研究に求められる、より小型の試作器を開発し、大学病院等で糖尿病患者を含めた臨床研究を実施し、POC(proof of concept)取得を目指す。その後、ヘルスケア、医療機器メーカーとの協業により、治験(臨床試験)、厚生労働省の薬機承認を経て、病院から一般家庭まで広く普及できる小型の非侵襲血糖値センサーの実現を目指す。従来の採血型自己血糖値センサーに代わり、糖尿病患者が痛みを伴わず日常の血糖値管理ができるようになれば、患者のQOL向上に繋がる。更に非侵襲の特長を活かして、公共施設等にも設置できれば、健常者の予防意識を高めて糖尿病人口の増加を抑制し、益々増え続ける国民医療費の削減にも貢献すると考えられる。

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