新技術

尿でがん診断を可能にするセンサ素子

ByMEDTEC Japan編集部

L-フコースはがん患者の尿中、血清中で濃度が高く、腫瘍マーカーとして知られている。東京農工大学大学院工学研究院・生命機能科学部門教授の中村暢文氏はこのL-フコースに特異的に反応する酵素を偶然発見したことから、尿中のL-フコースを検知するセンサ素子を開発した。

あるキノコ類のゲノム配列から得られた酵素について、その機能を調べるため網羅的に反応を調べた結果、L-フコースに反応することを発見。この酵素に電子伝達部位が含まれることから、電極を利用したバイオセンサとしての応用が期待できると考えた。多くの酵素とタンパク質の反応を調べるなかで見逃してしまうところだが、もともとL-フコースが腫瘍マーカーであることを知っていたことが役に立った。

酵素に含まれる電子伝達部位に反応する電極(カーボンナノ粒子修飾グラッシーカーボン電極)を開発しL-フコースで反応をみると、L-フコースの濃度依存的に電流が上がるという直線的な反応がみられた。

ただ、電極上で酸化反応に由来する電流を起こす尿中物質があり、それが夾雑物となる場合、患者の尿の前処理が必要になる。アスコルビン酸(AA)で大きな電流が検出されることから、尿中夾雑物質をアスコルビン酸と特定し、その影響を除外して測定できないかを検討してきた。

その後、発見した酵素から電子伝達部位などを切り離して電極触媒とすると、アスコルビン酸の酸化反応が進行しない負の電位で電流が起こることを発見。さらに、低電位でも感度を上げるために金ナノ粒子を使い電極の表面積を大きくする工夫を行った。

こうして作った電極でL-フコースの検出が可能な作動電位と尿中夾雑物質の影響を受けない作動電位を測定し、その範囲内で尿中夾雑物質の影響を受けずにL-フコースを検出できるセンサの開発に成功した。

尿中のL-フコースを検出する従来の方法には分光学的な方法や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いる方法などがあるが、時間がかかる、工程が多い、測定装置が高価などの課題がある。今回の方法は、前処理なく尿を電極に触れさせればよいため画期的に簡便な方法となる。また、既に販売されている血糖値センサを応用できるため製品化もスムーズに行える可能性がある。

病院や検査機関でのがんのファーストスクリーニングやがん患者の治療経過のモニタリングに用いる医療機器、あるいはより広く個人が家庭で使えるようなツールとして開発できないかと考えている。L-フコースはがんが進行しないと検出されないという特徴があるが、発見が遅れることが多い膵癌などではファーストスクリーニングとして有用となる可能性がある。

今後、既存法との相関の確認や使い捨ての酵素固定電極の作りこみ、基本性能の確認といった課題があり、センサチップや体外診断装置を扱う企業等との連携を模索している。

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