新技術

がん治療を変える最新研究:JASISセミナーレポート

ByMEDTEC Japan編集部

(一社)日本分析機器工業会(JAIMA)と(一社)日本科学機器協会(JSIA)が主催するアジア最大級の分析・科学機器専門展示会 JASIS(9月6日~8日@幕張メッセ)では、6月29日、「ライフサイエンス イノベーションセミナー」として、本開催に先立って「先進医療に貢献する科学と工学の最前線」と題したセミナーを開催した。

画期的ながん治療法として注目されている近赤外光線免疫治療法(NIR-PIT)を開発した米国立衛生研究所(NIH)の小林久隆氏をはじめ、いずれもがん治療の変革につながる研究に取り組む医学、工学、化学者が登壇した。


近赤外線免疫治療法(NIR-PIT)の最新情報

放射線科医である小林久隆氏は大学院時代から、がん細胞だけに照準を絞り正常細胞へのダメージの少ない治療が必要と考え、抗体によるがん治療の研究を行ってきた。がん細胞に結合する抗体に放射性同位体で標識を付ける方法を考案し渡米したが、副作用の問題などで実用化しなかった。

そこで、蛍光物質などでがん細胞だけを光らせる方法に着目し、そのような状況を作れば電磁波のエネルギーを使ってがん細胞を殺せるのではないかと研究を進めた。電磁波を診断だけでなく治療にも使用するとなると、DNAへのダメージがなく、もっともエネルギーの高い周波数が求められる。このような狙いから、体内への透過性も高い近赤外(NIR)光を応用することになった。

そして近赤外光に反応する薬剤をスクリーニングし、IR700とモノクローナル抗体を組み合わせて静脈注射する方法を開発した。この方法ではIR700と抗体の結合体ががん細胞の細胞膜上のある受容体に結合し、その状態で近赤外光を照射することでIR700が活性化される。それによって細胞膜が損傷を受け、水分などが細胞内に侵入し、がん細胞は餅が膨れて破裂するように破壊される。

この近赤外線免疫治療法(NIR-PIT)は従来にない、がん細胞だけを破壊する(がん細胞の近傍の細胞は損傷しない)治療法として、頭頚部癌などを対象に臨床試験が行われている。例えば、抗体を注射した次の日に光ファイバーなどで患部を照射する。次の日に照射した部位が白くなってボロボロと剥がれ日が経つごとに患部がきれいになっていく様子が示された。従来と比べ簡便で時間がかからないことも大きなメリットとなる。

さらに、NIR-PITが従来の治療法と大きく異なるのは、がん細胞を破壊しながら、がん細胞に対する生体の免疫システムを活性化する点だ。これは、破壊されたがん細胞が様々なシグナルを出し、それによって免疫反応を起こすことができるからである。加えて、NIR-PITはがん細胞のみを破壊し幹細胞などを温存するため、治療後も組織の再生が行われ皮膚や頭部もきれいに回復する。

小林氏はNIR-PITの原理となる細胞膜の損傷メカニズムを解明するために分析機器や計測機器を使用しているという。

NIR-PITはがんになると免疫細胞を抑え込む制御性T細胞を選択的に破壊することもできる。動物実験では、ある部位に植えた腫瘍をNIR-PITで治療すると他の部位の腫瘍が消えることも示されている。つまりNIR-PITは一部のがん細胞を攻撃するとともに、免疫反応を起こし、さらに制御性T細胞を抑え込むことで、全身のがんに対する免疫を活性化できることになる。

最後にNIR-PITのさらなる応用として、ナノ・ドラッグ・デリバリーや再生医療(iPS細胞のがん化に対する治療など)を紹介した。小林氏は今年中には米国で承認のための第3相試験をはじめる予定であり、できるだけ早く実用化を目指したいと締めくくった。

複合型光ファイバースコープの医療応用

次に、国立研究開発法人量子科学技術研究機構の岡潔氏が複合型光ファイバースコープの医療応用について紹介した。

もともとロボット工学を専攻した岡氏は日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)で核融合炉用遠隔保守機器を研究開発するなかで、配管内を尺取虫のように進んで配管の内側から溶接や切断を行うロボットを開発。レーザー伝送用と画像伝送用のファイバーを一体化することで、小型化可能で2つの光学系の焦点位置を一致(観察方向とレーザーの照射方向が同じ)させることができる複合型光ファイバーを考案した。

先進医療では、身体の中にカメラとレーザーを入れ、観察しながら治療を行う方法が期待されていることから、複合型光ファイバーの医療応用を検討した。その際、ファイバーの構造上部分的にマスクされてしまう視野をなるべく狭くすること、光ファイバーやレンズをコンパクト化し狭い場所を観察可能にすることが課題となった。

まず研究が進められたのは、胎児内視鏡を使う胎児外科治療であった。双胎間輸血症候群(TTTS)では、子宮内で双子に血液を送る血管が胎盤の中でつながっているため、双子間で血流が不均衡になる。内視鏡を入れてつながっている血管をレーザーで断ち切る治療が行われるが、これまでの内視鏡では、光ファイバーから血管までの距離が不明、視野が狭い、血流が止まったかを定量評価できないなどの課題があり、経験豊富な医師しか手術できなかった。そこで複合型光ファイバーを活用してこれらを解決し、多くの医師が手術できる使いやすいレーザー内視鏡装置を考案し実験を進めている。

また、これをもとに低侵襲レーザー治療システムを開発し、子宮体癌治療、末梢小型肺癌治療への応用を目指している。中心型早期肺癌に対して、腫瘍親和性光感受性物質を投与し、蛍光した組織に的確な照射を行う光線力学的治療法(PDT)が行われているが、末梢小型肺癌には適応となっていない。そこで、観察用とPDT用が一体化した外径1mmのファイバーを用いる装置を開発。ブタでの実験ではPDTを安全に実施できた。

この事業は文科省の大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)に採択され、岡氏らは株式会社OKファイバーテクノロジーを設立し、近く医療機関での臨床試験の開始と末梢肺癌治療用PDT装置の薬事申請を予定している。

蛍光ライブイメージングに基づく化学の新たな医療応用

最後に、生体内の分子に結合することで蛍光を発する機能をもつようになる分子(蛍光プローブ)の医療応用を目指している東京大学大学院薬学系研究科・医学系研究科の浦野泰照氏が蛍光プローブの開発とその医療応用について紹介した。

浦野氏は、これまで活性酸素種や酵素を生細胞で観察するための小分子蛍光プローブの開発に成功してきた。また小林久隆氏との出会いもあり、がん細胞を見つけるための蛍光プローブの共同研究も続けてきた。目指したのは、がん細胞に取り込まれると蛍光性に変わる“turn on”プローブである。これを使えば、常に蛍光している“always on”プローブを使ってがん細胞への集積をみる方法と違い、がん細胞以外のプローブをwash outする必要がなく、短時間でがん細胞を検出できる。

最初に成功したのは、がん細胞の酸性環境に反応して蛍光するプローブである。しかし、医学者からみると、あまり明るくない、反応が速くない(がん細胞に取り込まれるのに時間がかかる)、体内に入れる場合の安全性といった理由からハードルがあり実用化には至らなかった。

そこで、体外に取り出した検体に用いることができ、がんのバイオマーカーに迅速に反応して蛍光を発するプローブの開発に取り組むことになった。こうして開発したGGT活性検出蛍光プローブ(gGlu-HMRG)は、多くのがん細胞で発現が上がると報告があるGGT(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)に反応して蛍光を発する。卵巣がん細胞を腹腔内に播種したモデルマウスで、本プローブを腹腔内投与して開腹すると、短時間でがん部位が蛍光を発する様子が紹介された。

その後、実臨床を目指すにあたって最初に共同研究がはじまったのは乳腺外科だった。乳癌の部分切除では、断面に癌が残っているかを短時間で判断して追加の切除を行うかを決めなければならない。そこで、摘出された臨床検体にgGlu-HMRGを散布し蛍光を確認してがんを検出する方法を検証した。多くの臨床検体で検証の結果、がん検出では異例に高い感度、特異度(90%以上)での検出が可能であることが示された。今後、安全性試験などを経て実用化することを目指している。

他にも口腔癌や肝癌、大腸癌での応用も検討されているが、課題はGGTの発現が上がらない癌があるという点である。そのため、他のバイオマーカーに反応する蛍光プローブの開発にも取り組んでいる。さらには、ライブラリ化した蛍光プローブの反応から逆に、未知のバイオマーカーを発見するアプローチについても紹介された。食道扁平上皮癌については、新たに発見したバイオマーカーに反応する蛍光プローブを切除標本に散布する方法を検証し、内視鏡による診断や治療に応用できる可能性が示された。

浦野氏は今後の可能性として、蛍光ライブイメージングを活用する新たなバイオマーカーの発見は、診断法だけでなく、新たな治療薬や光増感剤の開発(PDTとの組み合わせた治療)にもつながることを紹介した。


JASISでは「ライフイノベーションゾーン」で「先端分析計測で近未来を予測する/ウェルネス&メディカル」と題して基調講演(聴講無料)を30プログラムを企画。がんの早期診断やICT、人工知能と分析技術の融合、Smart Cellによる新産業の創出、クライオ電顕:タンパク質単粒子解析の役割など、注目分野で第一線の講師が講演を行う。

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