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マイクロシステムを用いた医療機器・ヘルスケア機器の開発

ByMEDTEC Japan編集部

一般社団法人エレクトロニクス実装学会(JIEP)では国際電子回路産業展(JPCA)と同時開催で「マイクロエレクトロニクスショー」(6/7~9@東京ビッグサイト)を開催し、多彩なセミナーを企画している。本年度の「最先端実装技術シンポジウム」では「マイクロシステムを用いた医療機器・ヘルスケア機器の開発」と題して東北大学大学院医工学研究科の芳賀洋一氏が講演を行った。

芳賀氏がマイクロシステムと実装技術を活用するターゲットと考えているのは、主に低侵襲医療と体表センシングを伴うヘルスケアの2つの分野だ。これまでの機器開発を振り返り、開発のねらいや実際の開発経験を語った。

低侵襲医療機器の課題とMEMS応用のねらい

カテーテルや内視鏡といった低侵襲医療機器の普及によって患者の負担は格段に小さくなったが、医療者にとっての負担は増す一方である。術者の習熟が求められる一方で、機器の改良や新たに適用となる病気が増えており術者の技術が追いついていない。もともと臨床医である芳賀氏はこのような状況をテクノロジーで解決できないかとマイクロシステムを活用した医療機器開発に取り組んでいる。ねらいは、細いワイヤ構造で、信号のやり取りやエネルギーの供給をワイヤを通じて行い、体からの排出もしやすい内視鏡やカテーテルの先端を高機能化することである。そのためにMEMSのような微細加工技術を使えるのではないかと考えた。

カテーテルや内視鏡にMEMSを活用するメリットは、体内に入る微小サイズの加工ができることに加え、多機能と機械構造をアッセンブリの工程なしに一度に製造できる点だ。一括製造はディスポーザブルが多い医療機器にとっては有利となる。

光ファイバー圧力センサ

カテーテルとMEMSを組み合わせた製品としてまず紹介したのは、光ファイバー圧力センサである。医療では、心臓病患者の病変の評価や治療方針の判断を行うために、心臓弁の前後や血管狭窄部の前後など、局所の血圧を計測するニーズがある。そこで、髪の毛より少し太い程度の細径(約120μm)の光ファイバーの端面にダイアフラムを形成し光を通し、圧力によってダイアフラムがたわむことで生じるスペクトル変化を分光器で分析する装置を開発した。ダイアフラム付きの光ファイバーはMEMS技術を使うと大量製造ができる。動物実験でも従来の圧力センサと同等の精度で計測できることが示されている。

近年、FFR(fractional flow reserve:血流予備量比)といわれる冠動脈の狭窄部の前後の脈圧比を計測する技術が実用化されている。芳賀氏らは光ファイバーを使ってより使いやすい機器の開発を目指している。

折れ曲がり変形内視鏡

手術ロボットda Vinciに代表される腹腔鏡下手術で使用される硬性内視鏡や手術器具には、先端部の高機能・多機能化が求められている。多関節ロボットのような構造も考えられているが、それを小型化しディスポーザブルのものを製造するとなると非常にハードルが高い。

芳賀氏らは体に入る時はまっすぐで、体に入ると展開し多機能となる折れ曲がり変形内視鏡を開発した。長軸方向に機能を分散することを利用した装置で国際特許を取得している。さらにMEMSを応用することで、眼球内や関節内で使用できる微小な器具の開発を検討している。

らせん巻基板を生かしたカテーテル、内視鏡

カテーテルのデリケートな機能を残しながらセンサをつけたいというニーズに応えたのが、脊髄内の温度を計測できるセンサ付きカテーテルである。大動脈のバイパス手術では脊髄の血流が遮断されて障害が残ることがあるが、脊髄内のカテーテルに温度センサをつけることで温度が下がったらアラートを出すことができる。フレキシブル基板(FPC)を利用し温度センサを付け配線をコイル状に巻く方法で、液体を流すドレナージとしての機能を残したカテーテルを開発した。

さらに、円筒状で中空(チューブ状)という特徴をもった内視鏡やカテーテルの内腔の機能を生かすために、円筒の上に直接フォトファブリケーションによって回路を実装する方法を考案した。この方法により、例えば、カテーテルや内視鏡の先端に取り付けるMRIの受信コイルを作製した。受信コイルが体内に入るため、MRI画像の解像度とコントラストを大幅に改善させることができる。これを多層配線のコイルにも応用を進めている。

形状記憶合金を使ったアクチュエータ

カテーテルや内視鏡の一部に、通電加熱で変形する形状記憶合金を使うことで、多方向に曲がる、伸縮する、硬さが変わるなどの動きができる。これを利用して内視鏡への応用を検討していたが、最近では先端にCCDカメラを搭載した能動屈曲内視鏡を作製した。ICを利用すると配線数を少なくできる。さらに、体の中で臓器や組織をつかむことをイメージして、形状記憶合金を使用したマイクロ・ロボットハンドのコンセプト・モデルを作製した。

体表センシングによる医療・ヘルスケア機器

体内に入る医療機器以外では、超音波センサを用いたカフなしのウェアラブル血圧計を開発している。橈骨動脈の血管径の変化から血圧を計測するものだ。

また、血液検査にかわる臨床検査装置にも注目している。特に血糖値モニターは、体表センシングのみで採血の必要がない方法は、これまで様々な企業、研究者が試みてきたがうまくいっていない。現在、皮下組織液を利用した血糖値モニターがあるが、それでも皮下穿刺を伴うため糖尿病患者以外の一般の人も使用できるようにするのは難しい。

そこで芳賀氏らは、鍼灸針とマイクロ流路、生理食塩水を利用した装置で体表のごく浅部で組織液を採取する方法を考案し、アルコールや血糖、乳酸をモニターすることを目指している。乳酸モニターでは、絆創膏型にしてアスリートのトレーニング用途での利用が考えられる。ラットの実験では血液を採取する方法と相関があることがわかった。血糖モニターとしての応用にも研究を進めている。

その他、鍼灸にかわる集束超音波による経穴治療の研究について紹介した。

最後に芳賀氏は、長年の研究を振り返り、医療機器開発のメリットとして、人や社会への貢献度が高い、価格を高く設定できる、製品寿命が長い、景気の影響を受けにくいことをあげた。一方で医療機器開発が難しい点として、特殊な要求仕様が多い、少量多品種、手作業組み立てが主で実装が難しい、安全性や許認可が求められる、定期的な診療報酬の改定で利益率が下がることをあげた。芳賀氏の経験でも、上記を踏まえたビジネスモデルの詰めが甘く、企業が開発を断念してしまうケースが非常に多かったと指摘した。

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