生体吸収性マイクロニードルへの挑戦

ByMedtec Japan編集部

糖尿病の治療にはインスリンの皮下注射が行われるが、注射キットの針は痛みが小さく患者にとって負担の少ないものを目指して改良が進んでいる。「光渦(ひかりうず)レーザー」という特殊技術でこのマイクロニードルに挑むのがベンチャーのシンクランド株式会社(本社:横浜市鶴見区)だ。同社技術のメリットや開発の現状と課題について代表取締役社長の宮地邦男氏に話を聞いた。

光渦レーザーは、らせん状に渦を巻くように進むレーザーで、光線の中心部が空洞になる特徴をもつ。精密な穴あけ加工のための技術として研究されていたが、ある条件でシリコンや金属材料に当てると、光線の中心部の材料が周囲から盛り上がり針形状が形成される。この現象に注目した千葉大学大学院融合科学研究科の尾松孝茂教授がマイクロニードルに使えるのではと検討をはじめた。

同社は光渦レーザーでマイクロニードルを作製する千葉大学の特許技術の独占実施権を取得し、事業化に向けて開発を進めている。

この技術によるマイクロニードルは直径100μm以下を実現。ある研究では痛みを感じる針の直径の閾値は100μmと言われており、同社のマイクロニードルでは皮内注射をほぼ無痛で行えることになる。

また、光渦レーザーを当ててできた針の中心部に、通常の細径レーザーを当てることで中空構造のマイクロニードル(hollow micro needle:HMN)ができる。HMNでは薬剤の注入量をコントロールしやすいメリットがある。

さらに、金属、シリコン、有機材料といった多様な材料の加工ができる。同社では、ヒアルロン酸などの生体吸収性の材料を使うことで、刺した後に皮膚に残っても体内に吸収されるシート状などの薬剤の開発を検討している。

これらの特長を生かしたマイクロニードルにより、インスリンなど皮内投与薬剤のドラッグデリバリーシステム(DDS)だけでなく、化粧品や美容成分の投与法への応用を目指している。

インスリン注射針の応用検討例(シンクランド株式会社HPより転載)

製造面では、光渦レーザーを生み出すらせん状の板をレーザー光源に取り付けるだけで通常のレーザー加工設備とほぼ同規模で製造ができる。金型を使う製造方法と比べ、オンデマンドの製造に対応できるほか、金型よりピッチを狭くして製造が可能であることから、工程や設備を工夫すれば大量生産にも対応できる。ただ、今後の実用に向けては、再現性(安定的な製造)や検品方法といった課題もあるという。

宮地氏は大企業の光通信部品の営業や光通信機器ベンチャーを経て、2014年にシンクランド株式会社を創業。エンドユーザーにより近いビジネスをしたいとの思いからだった。創業当初は工場用IoTソリューションや光学機器〔光干渉断層法(OCT)装置〕の開発を手がけ、CTOとして及川陽一氏が加わったのをきっかけに、以前から面識のあった千葉大学の尾松教授との話が進み、マイクロニードルに挑戦することになった。

早期の実用化に向けて資金集めにも積極的に取り組んでいる。昨年(2016年)8月にはNEDOの「研究開発型ベンチャー支援事業/シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援(STS)」にマイクロニードル事業が採択され、合同会社ユーグレナSMBC日興リバネスキャピタルが運営する「リアルテックファンド」からの出資も決まった。

医療以外では、マイクロニードルによる表面加工でハスの葉のように撥水効果が得られることから、素材メーカーや精密加工メーカーなど他業界での応用可能性もある。

医療機器では、骨や軟骨の評価に用いる整形外科用OCT装置なども開発を進めている。OCTでは皮膚下に注射したマイクロニードルの評価用途の装置も開発中だ。医療機器開発展示会 Medtec Japanには2015年から出展(横浜市ブース)。今年3月には医療機器製造業の登録も行った。創業時にも視野に入れていたという医療機器への技術貢献を着実に具体化しつつある。

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