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ロボットによる非薬物療法の可能性:Medtecセミナーレポート

ロボットによる非薬物療法の可能性:Medtecセミナーレポート

By:Medtec Japan編集部

Medtec Japan 2017のセミナーでは、最新技術とその医療応用の現状と展望に関するセミナーを企画している。「ロボット×介護・医療」と題したプログラムでは、健康寿命延伸社会での貢献が期待されているロボットについて、介護・福祉での活用も含めた展望が解説された。

ロボットによる治療の可能性については、長年アザラシ型ロボット「パロ」の研究開発を行っている柴田崇徳氏(産業技術総合研究所、東京大学、マサチューセッツ工科大学)から、パロによる認知症ケアについて海外での利用状況や国内外の臨床研究が紹介された。


パロ開発の背景

現在、世界の認知症患者は約4,700万人、2030年には7,500万人、2050年には1億3,200万人に達することが予測されている。また、そのケアに関わる社会的コストは現在約82兆円から2030年には約200兆円になると予測されている。そのため、サービスロボットを利用した患者ケアや介護者や家族の負担軽減が期待されているが、パロに期待されているのは物理的サービスではなく心理的サービスである。

柴田氏がパロを開発するきっかけになったのはアニマル・セラピーだ。アニマル・セラピーには、うつの改善、元気づけといった心理的利点、ストレスの減少、血圧の安定化といった生理的利点、コミュニケーションの増加といった社会的利点があるものの、セラピー専門動物を育成するコストや動物アレルギー、衛生などの問題もある。これらの問題を解決しアニマル・セラピーの代替となるコンパニオン・ロボットの潜在的需要は大きいと考えられる。

パロの技術と安全性

現在パロは第9世代まで改良が進んでいる。どこをなでられたか感知することができるよう全身に触覚センサを備え、名前と行動を学習するAIにより反応するため、触れ合うことによって飼い主の好みの性格に徐々に変わっていく。動作は7つの静穏アクチュエータが担い、人工毛皮は抗菌加工からさらに進んだ制菌加工としている。CE、RoHS、UL、METなどの認証済で10年以上使用できることを想定し安全性と信頼性を確保している。

また、パロの工房でハンドメイドのため1体ごとに顔が異なる。品質を重視しながら技術とアートを融合したロボットとなっている。

世界各国で進むパロの導入

2005年以降の国内外の販売で現在では約5,000体を出荷している(日本国内が約3,000体)。米国では2009年9月にクラスⅡ医療機器としてFDA承認され同年末から販売開始されている。デンマークでは、2009年からセミナーによる免許制度とともに公的資金で施設向けに約300体導入され、自治体普及率は80%に及んでいる。オランダ、ノルウェー、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、スペイン、スイス、フランスなどでも同制度で導入が開始されている。シンガポールでも高齢者施設向けに政府から70%の補助で導入できることが決まっている。その他、30カ国以上で利用されている。

パロのセラピー効果の検討

日本ではパロは医療機器として承認されていないが、上述の通り米国では医療機器として承認されており、セラピー効果として下記が考えられている。

  • うつ、不安、孤独感、痛み、睡眠の改善
  • 動機づけ、特にリハビリ(歩行、嚥下等)
  • ストレスの低減
  • コミュニケーションや社会性の向上
  • 問題行動(徘徊など)の抑制・減少

これらに加えて、欧米では認知症患者に対する抗精神病薬の使用が問題視されていることから、上記の効果によって抗精神病薬の投薬を低減できること(非薬物療法のメリット)への期待が大きい。

セラピーの対象は認知症だけでなく、導入されている施設でみると認知症以外も約30%ある。例えば小児の発達障害や自閉症、健常な小児のストレス、成人の精神障害、がん患者の疼痛や疲労、不安などへの改善や軽減が研究されている。

病院や施設への導入目的としては、明確なセラピーの目的・目標を設定せずグループなどで楽しい時間を過ごしてもらう「ロボット・アシスティッド・アクティビティ」と、特定の人を対象とし(グループ利用もあり)明確なセラピーの目的・目標を設定する「ロボット・アシスティッド・セラピー」がある。

海外・国内の施設での臨床研究

パロのセラピー効果のターゲットとなるのは、認知症では、脳の障害を原因とする記憶障害や見当識障害、判断力障害、高次脳機能障害といった「中核症状」ではなく、中核症状に伴って行動や心理面に現れる「周辺症状」である。周辺症状はうつ、不安、焦燥、興奮、暴力、徘徊、依存、不眠、幻覚などで周辺環境によって変化すると考えられる。このような周辺症状の緩和や軽減を目的に、パロは欧米で主流となっている“person centered care”に組み合わせて導入されている。

例えば、不安を感じているアルツハイマー病患者はパロと話すことによって落ち着きを取り戻し、話をしはじめる。これにより介護者も患者の気持ちを理解できるようになる。介護施設の事例では、周辺症状が重いために在宅での介護が難しかったが、パロにより周辺症状が抑えられ、在宅期間が延長したという報告や、夕方になると帰宅願望が現れる「たそがれ症候群」の改善が報告されている。周辺症状を抑えることは、患者本人への効果とともに、介護者負担を軽減することにもつながる。なお、研究では周辺症状を評価する国際的な尺度として「認知症行動障害尺度(DBD)」が用いられている。

また、認知症で母国語しか話せなくなった移民がパロと触れ合うことで現地語を話せるようになるという報告もある。パロとの触れ合いを繰り返すことで、障害を受けた脳の回路が回復する効果が示唆されている。こうした「バイオフィードバック(biofeedback)」の効果については、EEG(脳波検査)やfNIRS(近赤外脳機能計測法)を用いた研究が行われている。

米国では、メディケアの対象となる介護施設に対して介護の質を測定するために、電子介護記録によるミニマム・データ・セット(MDS)の提出が義務づけられており、このデータを活用した研究で、パロの導入後ではうつや問題行動が減少することが示されている。

その他米国では、介護の質を高めることで社会的コストを抑えることに注目度が高く、パロの導入と導入後の効果の検証が進んでいる。臨床試験では、認知症患者に処方される抗精神病薬を減らせることや、施設の利用を制限できることが示されている。

最後に柴田氏は日本でのパロの実証実験として、神奈川県や富山県南砺市、岡山市などで、認知症者の周辺症状や問題行動、介護負担、要介護度の変化が高く評価されていると紹介した。徐々に普及が進んでいくなかでユーザー会議も世界各地で行われており、新たな機能やバリエーションなど今後の開発の方向性も検討されていると締めくくった。

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