新技術

可能性広がる3Dプリンティングの医療応用

少量多品種という医療機器の特徴や、患者個人に合わせた医療(テーラーメード医療)が求められているという背景から、3Dプリンティングの医療応用に期待が集まっている。

ByMEDTEC Japan 編集部

ベルギーで1990年に設立されたマテリアライズ(本社:ベルギー・ルーベン市)は積層造形(additive manufacturing:AM)のパイオニアとしてモノづくりや医療に革新をもたらすサービスを提供している。

同社は設立当初からCTやMRIなど医用画像の3D活用を主とする医学知識・技術(medical expertise)との連携と医療への貢献を事業の柱の1つとしており、3Dプリンティング、エンジニアリング、ソフトウェア開発というコアコンピテンシーをこの分野に注いできた。この姿勢が同社を非常にユニークな存在にしている。

医療への応用として同社が取り組んでいるのは以下の2つの面からだ。

設計・製造者向けサービス

まず、医療機器メーカーや研究者などエンジニア向けに、企業自ら大規模な調査や分析を行わずとも、患者の統計データに基づいた医療機器の設計を可能にするソフトウェアやサービスを提供している。近年では、同社のソフトウェアMaterialise Mimics®イノベーションスイートによる、ある特定の集団(国民、民族など)のCTやMRI等の3D画像データを収集し、統計データの平均値やサイズ分布の解析(population analysis)データを提供している(Materialise ADaM)。これにより、医療機器メーカーは特定の集団ごとに適した形状・寸法のインプラントを提供することが可能となり、例えばインプラントの種類を少なくして効率的な製造ができるメリットがあると期待されている。

図1 成形など他の製造法では難しい
血管内疾患モデルのサンプル

た、同社のソフトウェアと3Dプリンティングサービスを一般的な医学研究や研究開発にも応用できる。Materialise Mimics®イノベーションスイートでは、CTやMRIなどの画像データを患者固有の3Dモデルに変換できる。得られたメッシュモデルにCT値依存の材料特性をメッシュ毎に付加することで、患者固有の有限要素解析(FEA)のアプリケーションに使用できる。これにより医療機器と体内組織に生じる相互作用についてシミュレーションを行い、機器の設計に役立てることができる。

さらに、大動脈解離や動脈瘤といった疾患を3Dプリンティングでモデル作製(1)し、製品の試作や検証を行うことができる。同社では顧客の用途や材料の要望をヒアリングし最善のソリューションを提示することを心掛けており、同社のソフトウェアと3Dプリンティングサービスを、医療機器メーカーを含め生体エンジニアにとって、多用途のツールキットとして活用してほしいと考えている。

病院・医療従事者向けサービス

図2 心臓病モデルのサンプル。右は材料など
様々な条件で3Dプリントした弁のサンプル

同社では、病院や医師向けにもソフトウェアと3Dプリンティングサービスを提供している。医師向けに機能を絞り、医用画像とのリンクを容易にするなど医療用途での操作性を考慮したMaterialise Mimicsの応用バージョンを提供している。

手術シミュレーションの分野では、上記ソフトウェアと3Dプリンティングにより、患者個人の病態に基づいた精確なモデル作製ができる(2)。例えば、心臓病の治療を考える際、弁の先天異常など患者特有の障害を再現するため、透明で軟らかい素材を用い、3Dプリンティングでモデルを作る。これにより手術前にどのような処置がよいか、どのように手術器具をアプローチすべきかなどをイメージし、的確な術前計画を立てることができる。

図3 サージカルガイド

また、整形外科の手術時に使うガイド(サージカルガイド)にも同技術を応用できる(3)。例えば膝関節置換術では、人工骨を植込むため患者の骨の加工や処理が必要だが、事前に画像データから患者の骨を再現しその形にぴったりと合うサージカルガイドを作成し、そのガイドに沿って骨に穴あけや加工を行う。手術シミュレーションやサージカルガイドでの応用はすでに多くの国で実用化されている。

さらにもっとも先進的なのは、カスタム・インプラントである(4)。患者の解剖学的形状に合わせて、例えば生体適合材料であるチタン製のインプラントを3Dプリンティングで製造する。同社のソフトウェアを使えば、患者適合かつ適切な強度を有したインプラントの上市も可能だ。すでに欧州で臨床応用されているが、まだ日本を含め多くの国では承認されていない。

図4 人工股関節のサンプル(チタン製)。マテリアライズのソフトウェアを活用することにより様々な表面デザインが可能

医療を変える3Dプリンティング

同社が、自社のソフトウェアと3Dプリンティングサービスが医療に大きなインパクトを与えた例として紹介しているのは、先天性心疾患をもって生まれてきた新生児に対して米国で行われた救命治療である。右心室で大動脈と肺動脈の両方が直接つながっており、心室中隔欠損(VSD)を抱えている男児に対して、生後すぐに低線量のCTスキャンを行い疾患の把握を試みた。それをもとに手術が検討されたが、新生児の心臓が非常に小さい(クルミ程度)ため、CT画像だけでは術前計画を立てることは難しかった。そこで医師たちはマテリアライズのエキスパートに相談する。

同社の心臓血管領域の専門エンジニアがMaterialise Mimics®イノベーションスイートを使い、先天性心疾患の細部を精確に再現した3Dモデルを作製した。画像データを受け取ってから2日後には病院に届けられた。

この3Dモデルによって疾患の3D構造を把握することにより、複数の疾患を一度の手術で治療することに成功。従来であれば緩和治療を順次実施していくしか方法がなかったケースで治療を可能にしたのである。

国内に医療用3Dプリント製造拠点を設立

昨年(2016年)10月、マテリアライズは川崎に医療用3Dプリント製造拠点を新設した。ISO 13485取得済で、ベルギー本社と同じ生産管理によりベルギー本社と同一品質のサージカルガイドと骨モデルの製造をはじめている。

患者一人ひとりに合わせて設計された患者適合型サージカルガイドは医療用グレードの材料を用いて作製しており、作製後の精度の確認など、同社の3Dプリント品質管理用ソフトウェアを活用した工程管理を徹底している。インプラントを提供する医療機器メーカーとの提携がはじまっている。

日本では2016年に3Dプリンタ等で作製した実物大臓器立体モデルの手術支援目的での使用に対して、保険適用になる手術が拡大された。また人工膝関節置換術および再置換術で手術支援ガイドの使用にも保険適用が認められている。外科医や放射線科医の間で徐々に3Dプリンタの活用が進んでいる。

3Dソフトウェアと3Dプリンティングを使って、上記のような設計製造面で低コストでの試作やそれを用いた製品評価、population analysisのような新しい機器設計の可能性が追求されている。一方で、より直接的に医療現場で治療シミュレーションや手術ガイド、インプラントでの応用が進んでおり、可能性は非常に幅広い。今後も規制動向とともに目が離せない動きである。

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