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医療機器の戦略的な価格管理

医療機器の戦略的な価格管理

By:Medtec Japan編集部

医療機器をどのような価格で販売するかは保険制度や流通システムに依存しており、国・地域で事情が異なる。医療機器の価格戦略について世界各国にコンサルティングを行うサイモン・クチャーでは、日本における医療機器価格について問題提起を行い、価格管理戦略を見直すべきと提言している。

日本の保険制度下で販売される医療機器については、医師等の「技術料」に含まれて償還価格(保険者から病院に支払われる価格)が決まるものと、個別の償還価格が決まっているもの(特定保険医療材料)がある。この枠組みを基本として、医療機器メーカーがリスト価格を決定し、病院との交渉で納入価格が決まっている(実際はディーラーが仲介する場合が多い)。

サイモン・クチャーアンドパートナーズジャパン株式会社の山城和人氏は、医療機器のリスト価格の設定、納入価格の設定の両面において、日本のメーカーには戦略的に価格管理を行うという視点が欠如していたと指摘する。今回、特定保険医療材料に焦点を当てて価格設定の課題と提言を聞いた。

日本における医療機器の価格設定の課題

ペースメーカ、植込み型除細動器(ICD)、ステントといった高額な植込み機器は特定保険医療材料として個別に償還価格が決まっている。まず、医療機器は、新規性が高いために新たに償還価格が設定される場合(C区分申請)もあるが、多くの場合で償還価格が決まっている既存の機能区分に入るため、新製品だからといって高い償還価格となることが難しい制度になっている。これが新薬ごとに価格が評価され、既存薬に対してプレミアムが認められることが一般的な医薬品との大きな違いだ。

また、価格管理において大きな要因になるのが、2年ごとの償還価格の改定である。厚労省では実勢価格(病院への納入価格)を調査し、それに基づいて償還価格を決定するため、病院との交渉で納入価格を値引きするとそれが将来の償還価格の下落につながる。さらに、医療機器の場合は機能区分ごとに償還価格が改定されるため、自社の製品の価格を維持しても、他社が価格を下げていれば償還価格が低く改定されることになる。逆に言えば、短期的にシェアを拡大するために他社より価格を下げると、長期的に償還価格の下落を招くことになる。

加えて、医療機器メーカーでは、償還価格に基づいてリスト価格を決め、リスト価格からの掛率によって病院への納入価格を決めるが、償還価格改定への影響を考慮して納入価格を決定するようなことはあまりなく、新製品上市時や償還価格下落時にも以前の掛率を維持するなど、価格管理への意識が薄いことがわかっている。

例えば薬剤溶出ステント(DES)の売上の推移を示す1では、サイモン・クチャーの分析により償還価格の下落によって業界全体で1,700億円の逸失利益があったと推計される。また、整形外科向け植込み材料では最近10年で償還価格が半分に下落した製品もある(2)。

図1
図2

一般消費財では価格下落は市場拡大を伴うため、必ずしも売上へのダメージを意味しない。しかし症例数が限られる医療材料で価格下落だけが起こればメーカーにとって死活問題となる。

戦略的価格管理とは?―製品価格

一般的な価格設定のロジックは「製品価格」と「顧客価格」の両面から成り立っている。前者は製品の価値に基づいた価格設定、後者は顧客のパフォーマンスや支払意思に基づく価格設定である(3)。

図3

技術料に含まれて償還価格が決まっているタイプの医療機器では、多くの場合、「製品価格」設定が原価をもとに比較的単純なコストプラスでリスト価格が設定されており、製品の価値に応じて差別化されていない。また、リスト価格変更が行われる頻度は極めて少ない。

一方、特定保険医療材料では以前はリスト価格=償還価格だったが、最近はリスト価格を償還価格より高く設定するケースが出はじめている。償還価格が下落した後、通常、病院は価格下落前と同じ掛率で取引をしようとする。これに対し、償還価格より高く設定したリスト価格に同様の掛率を適用することができれば、病院納入価格の下落を縮小できることになるためである。しかしながら、その際のリスト価格の設定は、どの製品でも一律に加算する場合が多く、製品ごとの差別化はできていない。

このような状況に対し、サイモン・クチャーでは製品の価値に応じて、体系的にリスト価格を差別化することを提案する。

これらにはステークホルダーに対する市場調査を実施する方法や、リスト価格を上下した場合にどれくらいの数量へのインパクトがあるかを推計し、価格感度をシミュレーションするする方法がある。また、製品の価値を構成する要素(価格ドライバー)を特定、評価し、製品ごとに自動的に適切なリスト価格が算出されるモデルを構築することで、最適な価格を設定することも可能である。状況に応じて方法を使い分ける必要があるが、その目的は製品の価格を体系的に差別化し、利益を改善することにある。

戦略的価格管理とは?―顧客価格

次に顧客価格の設定について、山城氏が指摘するのは、納入する病院によって掛率に非常に大きな幅がある点である。多くの場合、掛率の設定は営業マンの経験と勘で行われており、どのような取引の場合にはどの価格で売るというガイドラインがない。

サイモン・クチャーでは、病院タイプ(院長の経営への関与度など)、購買プロセス(現場と用度課の関係など)、地域といった「顧客の支払意思」と、売上高(成長率)、自社製品シェア、営業コストといった「顧客の魅力度」の観点から評価要素を設定し、体系的な価格ガイドラインを作成することにより、取引や顧客ごとに目標販売価格を算出することを提案している。

また製品や、価格ガイドラインに基づいて設定した「価格の質」(目標販売価格、標準販売価格、最低販売価格など)にリンクした承認プロセス、多角的・定期的な「価格の質」のモニタリング、「価格の質」に連動した営業インセンティブの設計によって、価格ガイドラインの効果を最大化できるという。

価格管理、市場アクセスの専門コンサル

サイモン・クチャーにとって、製薬・医療機器メーカーを中心とするライフサイエンス向けのコンサルが最も大きなプラクティスとなっている。世界各国の医療・保険制度や市場アクセスに通じており、それぞれの専門家によるコンサルが強みだ。

医療機器の保険償還価格が、実勢価格を踏まえて見直されるという日本の仕組みは、世界的にはかなりユニークだという。また、日本では承認されればほぼ保険償還となり償還価格がつくが、世界では保険償還に様々な条件があり価格設定に様々な制約がつくため、市場アクセスの視点が重要になる。これらの分析から潜在売上を試算し、海外で販売するのにどれほどの投資をすべきか、どのような体制(自社で売るか、商社を介するかなど)とすべきかなどの海外進出コンサルも行っている。

さらに、同社では保険償還の申請時のコンサルも行っている。加えて、今回触れなかった卸・ディーラーに対する取引条件の見直しのコンサルも行っており、日本でも製薬メーカー、医療機器メーカー向けのプロジェクトを増やしつつある。医療機器の償還価格の下落は長期的にかなりのインパクトを持っており、今後の業界再編を加速させると山城氏は強調する。医療機器メーカーには危機感をもって価格管理の視点を強化してほしいと締めくくった。

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