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日本初の治療効果を持つ医療機器アプリの開発を目指して

日本初の治療効果を持つ医療機器アプリの開発を目指して

ByMedtec Japan編集部

株式会社キュア・アップ(本社:中央区)は、医師が処方する治療効果をもつアプリとして「治療アプリ」の開発に取り組んでいる。2014年の薬機法施行によって単体ソフトウェアの医療機器として扱われる枠組ができ、この分野の製品開発に期待が集まっている。同社取締役COOの宮田尚氏と採用・広報担当の三島有紀氏に現状と展望について話を聞いた。

「治療アプリ」で新たな医療を

同社はCEOである呼吸器内科医の佐竹晃太氏が2014年に創業した。国内での臨床経験のほか世界各国の病院を渡り歩き、カンボジアやラオスでの国際医療活動を経験。そのなかで、新たな医療の必要性とその実現には事業としてのスケールが必要であることを痛感し、MBA留学のために上海のCEIBSに留学。その後CEIBSの交換留学プログラムで米国ジョンズホプキンス大学院に留学し、医療インフォマティクスを研究して公衆衛生修士号を取得した。

研究中に出会った論文に衝撃を受け「治療アプリ」の事業構想を固め、帰国後に起業。その時に声をかけたのは慶應義塾大学医学部の後輩だった鈴木晋氏だ。鈴木氏は医学部入学後に独学でプログラミングを習得、在学中に起業経験も持つ。医師免許取得後もWeb制作の株式会社カヤックでプロとして開発技術を高め、東京大学医科学研究所にてゲノム解析の仕事にも携わったほか、開発したアプリが人工知能学会で賞を取るなど異色の存在。佐竹氏の誘いでCTOとして同社の創業メンバーとなり、現在は技術だけでなく開発全般を率いるCDOを担っている。さらにCOOとしてコンサルティング会社出身の宮田氏、薬事臨床開発部長としてグローバルメーカーで新医療機器の臨床開発・医療機器承認経験をもつ無籐友康氏が加わり、製品上市に向けて体制を強化している。

アカデミアとの連携による臨床試験

「治療アプリ」のコンセプトは明解だ。患者の治療データを記録するだけでなく、医学的知見を搭載したアルゴリズムが解析し、個々の患者の状況に応じたガイダンスを行う。同時に医師にも患者の治療状況を共有、ガイダンスも示してより的確な指導ができるようサポートする。

また、来院ベースの治療では在宅・院外など多くの治療空白が生まれ、その期間にモチベーションを失うなど治療からの離脱が起こる。そうした治療空白だった時間に対してアプリがフォロー・介入を行うことで継続意欲を維持できる。

まず対象としたのは佐竹氏の専門でもある呼吸器分野のニコチン依存症治療だ。禁煙は1年の継続率が3割程度と低い一方、意欲の継続が非常に重要になるため治療アプリのアプローチが有効である可能性が高い。さらに日本では喫煙が死亡要因の第1位と報告されており、禁煙がもたらす社会的インパクトは大きいと予想できる。

医療機器として製品化するために、慶應義塾大学病院など7施設の協力を得て2015年2月に臨床試験を開始している。

さらに第2弾として、脂肪肝治療アプリの開発をはじめた。非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は肝硬変や肝癌のリスクがある疾患として注目されているが、現状のガイドラインで示されている最も信頼性の高い治療法は食事や運動療法による減量のみで、確立した治療法が存在しない。治療アプリによって患者個人に合わせた指導を行うことで治療効果が得られれば、脂肪肝の治療を希望する患者の救いになるのではないかと考えた。

こちらは治療アプリのコンセプトに賛同した東京大学医学部附属病院消化器内科と共同で開発を進めている。臨床開発では大学や病院との連携が必須だが、いずれでも国内最高峰のアカデミアの支援を頂けていることは大きいと宮田氏はいう。

一般に臨床試験・治験には時間とコストがかかり、ベンチャー企業にとっては高いハードルとなる。同社では資金調達も積極的に取り組み、総務省「ICTイノベーション創出チャレンジプログラム」、経産省「ものづくり・商業・サービス革新補助金」、NEDO「研究開発型ベンチャー支援」に採択されたほか、ライフサイエンス系ベンチャーキャピタルのBeyond Next Venturesの投資を受けている。さらに今年2月にはBeyond Next Ventures、慶應イノベーション・イニシアティブ、SBIインベストメントから総額3.8億円となる第三者割当増資を実施した。

株式会社キュア・アップの沿革

海外で進むモバイルヘルス、日本初を目指して

アプリを使った治療効果(モバイルヘルス)に関する研究は海外を中心にアカデミアではここ数年で急速に増加している。例えば海外では、アプリを使い糖尿病患者個々人に最適化した行動インターベンションによって血糖コントロールが改善したという報告がされている。また、経過観察アプリにより進行肺がん患者の生存期間が延長したことが示されている。

2010年には、2型糖尿病患者の血糖値とアドヒアランスをモニターし、患者が自身の状態をチェックし生活指導や服薬指導を受けられるプログラム、「BlueStar」(WellDoc社)がFDA認可を取得し、その後保険償還も行われるようになった。

日本でも2014年の法整備とともに、単体ソフトウェアの医療機器の開発が進むことが期待されたが、「未病・予防」段階の健常者向け健康アプリは多く現れたものの、患者の「治療」を目的として医師が処方できる治療用アプリの開発はほとんど進んでいない。ネックとなっているのは、治療効果を裏付けるエビデンスを持った「医療機器」として製品化するためには、時間もコストもかかる臨床試験・治験を行う必要があるためだ。キュア・アップは果敢にもこれに取り組んでいる。同社が描いているのは「治療アプリ」が国、医師・医療従事者、患者それぞれが抱える課題に対して、モバイルテクノロジーという新たな切り口が解決策となる未来である。

国家レベルでは医療費の高騰や地域格差の拡大といった課題があるが、新薬よりは開発コストが小さい「治療アプリ」は医療経済性が高い。また、地方・小規模の医療機関でもインストールさえすれば先進的な知見を活用できるため、医療の地域格差の解消が期待できる。

医師・医療従事者にとっては、患者の「意識・習慣」という従来の医薬品や医療機器では限界があった新しい領域への介入が可能になるため、新たな治療効果が期待できる。また、アプリであれば追加処方しても副作用や合併症の懸念がないというメリットも臨床医にとって大きい。

患者にとっても、新たな治療効果が期待できる他、テクノロジーという新しいアプローチの提示により治療への興味を誘発し、取り組む意欲を上げられるといったメリットが得られる。

製薬・医療機器業界では長年輸入超過が続いており、国内企業とグローバル外資メーカーの規模の差は大きい。しかし「アプリの医療機器」という分野はアメリカでもまだ立ち上がってきた段階であるほか、新薬と比べれば開発コストも低いため、臨床試験を行うハードルは低くなる。それを活かしていち早く国内上市を実現し臨床実績を蓄積すれば、世界にもアピールできる製品となる可能性もある。同社では「治療アプリ」というグローバルスタンダードを日本から生み出すことも視野に入れて着実に歩みを進めている。

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