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新しいFDAの生体適合性ガイダンスがもたらす影響

ISO 10993-1に関するFDAのガイダンスを貫いているのは、すべての医療機器はエンドユーザーに対しての特定のリスクを評価されるべきであるというテーマである。

ByAudrey Turley and Thor Rollins(オリジナルの英文記事はこちら
※ 編集部注:本記事はあくまで参考情報です。FDAガイダンスの正確な内容についてはオリジナル文書を参照ください。

1906年6月、セオドア・ルーズベルト大統領は「粗悪」製品に取り組む食品医薬品法(Food and Drug Act)に署名した。粗悪製品には、「品質と強度」を落とした賦形剤の追加、「損傷や劣った部位」を隠すためのカラーリング、「健康に有害な」添加物の調整、製品での「不潔な、腐食した、腐敗した」物質の使用が含まれる。その後、FDAが医療機器規制に特化した公式のガイダンスを発表するには1995年まで待たなければならなかった。

「ブルーブック」として知られているこの文書は長年、生体適合性規制の基礎であった。2013年4月、FDAは「Use of International Standard ISO 10993-1 “Biological evaluation of medical devices—Part 1: Evaluation and testing within a risk management process”(国際標準 ISO 10993-1「医療機器の生物学的評価―パート1:リスクマネジメント・プロセスにおける評価と試験」)」と題したドラフト・ガイダンス文書を発表した。このドラフトは生体適合性に関してFDAから出された最初の更新された指示書となった。2016年6月にその最終版が発行され、9月14日にG95 ブルーブック覚書に代わるものとして公式に採用された。

この文書はドラフトとして公開された3年間に、FDAの規制面での期待と、ISO 10993-1ガイドラインに対する全般的な当局の解釈に洞察を深めるため文章量は倍増した。ISO 10993-1の使用に関するFDAのガイダンス文書では、医療機器を市販するために必須の試験アプローチを概説しており、製造業者はISO 10993-1についてのFDAの解釈を考慮に入れる必要がある。

このガイダンス文書は、現状の考え方、新たなトレンド、正当化情報の3つの分野に分けることができる。現状の考え方では、医療機器の申請時のフィードバックにみられるFDAの最近のトレンドであるステートメントや思考プロセスに言及している。新たなトレンドは、採用されるアプローチに対する最新の洞察と説明となっている。正当化情報では、特定の生物学的エンドポイントに取り組む上での、従来のin vitroin vivo生体適合性試験に代わる方法を提供している。

現状の考え方

ガイダンスはFDAが考え、採用している現状のトレンドを反映している。

FDAは、医療機器との「接触」を構成する概念を、医療従事者にも拡大している。この文書以前には、FDAは患者との「接触」についての生体適合性試験のみを考慮していた。医療従事者に対する機器のリスクは、どのように個人用保護具(PPE)なしに接触が起こるかに基づいて特定され評価される必要がある。機器のハンドルや他のパーツは、どのように医療従事者がPPEを装着することなしに接触するかに基づいて評価されるべきである。例えば、機器のハンドルが保護具なしに触れられることがないのであれば、生体適合性試験は行う必要がないだろう。しかし、本文書ではPPEを取り上げ、「臨床の医療従事者によって保護目的で使用されるマスクや手袋は生体適合性を評価されるべきである」と特に明言している。

またガイダンスでは、患者の「接触」を、液体や気体の経路を通じた間接的な接触も含めるよう拡大している。しかし、もし患者(あるいは医療従事者)への接触が起こらないなら、試験は必要ではない。これは特に、医療機器をサポートするが接触しない電子部品に当てはまる。

ガイダンスは現在、特定の機器タイプを説明している。多くの機器タイプには、特定の情報や使用状況に基づいて解決すべきリスクに対する既存の標準も存在し、それらの標準はISO 10993-1より優先される。認識されたコンセンサス・スタンダードはその採否をFDAのウエブサイトで確認できる。

ガイダンスには新たな10頁分のセクション、“Section III. Risk Management for Biocompatibility Evaluations(セクションⅢ 生体適合性評価のリスクマネジメント)”がある。生物学的評価の観点ではリスクは新しい用語ではないが、アプローチは必ずしもクリアではない。医療機器製造においては、リスク特定の大部分は材料や加工方法ではじまる。材料は、機器に使われるものが安全であることを保証する生体適合性を裏付ける文書とともに供給される。しかし、洗浄や陽極酸化/表面安定化処理、滅菌といった加工方法も最終製品に影響をもつ。FDAは「医療機器で使われる個別の材料について認可したり承認したりすることはない」。生体適合性の観点での試験は製品の最終および完成品の状態で実施されるべきである。リスクが特定されれば、試験や文献の調査によりそれを軽減することが行われる。実施されるべき試験の選択は、材料の履歴、患者の接触、(利用できれば)機器特有のガイダンスに基づいて行われるべきである。

ガイダンス文書は今や、ISO 10993シリーズを通じて取り組まれている多くの生物学的エンドポイントに特化した用語を含むようになっている。適用可能な標準の期待される解釈となる現在のトレンドは少ないが、現在ではこれらの期待は示唆されるより文書化されるようになっている。溶血試験は機器との接触に基づいて直接的あるいは間接的に実施することができる。ガイダンス文書は、「循環血と直接接触する」機器は、接触時間にかかわらず、溶血、補体、血栓形成の試験を受ける必要があると明確化している。

化学物質評価に関するまったく新しいセクションが最終版に追加された。このセクションは新しいが、実施されることは新しいことではない。FDAは、どのような場合に化学物質評価が生物学的安全性評価の有用な部分になるかを概説している。

安全性評価

  • 以前から米国で合法的に市販されている機器に使われていない新規材料
  • 材料の配合を変更するために使用される新しい材料や加工方法
  • 遺伝毒性、発がん性、生殖毒性のリスクを軽減するため
  • 長期にわたって起こる機器材料の変化に対応するため
  • さらなるリスク軽減が必要であるかを決定するために行われる生体適合性委員会で期待していなかった結果に対応するため

慢性毒性と発がん性に対応するための要件が新たに強調されており、これらの試験方法は時間と費用がより多くかかるが、毒性評価を伴う化学物質評価はコストと時間を軽減する有益なツールになりうる。

新たなトレンド

新しいガイダンス文書におけるもっとも大きな変化は、生体適合性にリスクに基づいたアプローチが加えられたことである。コンセプトは機器の生体適合性リスクに対処するプランを策定することである。このプランは、生物学的評価プラン(BEP)とも呼ばれている。BEPはまず、生体適合性評価のために考慮する必要があるリスクを特定している。リスクが特定されれば、機器を製造するために用いられる材料と加工法についての文献調査が行われる。その後、これらの材料と加工法は、マスターファイルを含め、業界内で使用されている承認された“predicate device”(合法的に市販された機器)と比較される。この方法は、リスクと、評価が必要な機器に適応可能な業界内で確立した試験を特定するのに役立つ。“predicate device”では同じ材料と同じ用途だけでなく、できる限り同じ加工法にもフォーカスすべきである。

リスクに対処するためにしばしば使用される1つのアプローチは、既にFDAのマスターファイルがある材料を使用することである。マスターファイルをリスクアセスメントに役立てるには、どのような情報がマスターファイルに収録される必要があるかを含めるために、ガイダンス文書に付録が追加された。リスクが特定されれば、適切な試験を決めることができる。これには、ガイダンス文書にあげられた生物学的エンドポイントに取り組むための、毒性リスク評価に対する化学物質試験の適応可能性という議論が含まれる。

もう1つガイダンス文書に加えられた重要なものは、FDA医療機器・放射線保健センター(CDRH)に採用された“Threshold for Toxicological Concern(TTC)”(毒性の懸念に対する閾値)の概念である。特定の機器のために取り組むべき化学物質から化合物の量を減らすことができるため、これは重要である。抽出物中の化合物が適用されるTTC以下であり、TTC除外リストに載っていない場合、特定のエンドポイントのためにさらに評価される必要はない。

またガイダンスは、新しい機器がpredicate deviceと同じ材料と同じ加工方法で製造されている限りは、いかにpredicate deviceからの臨床データが生体適合性のリスク評価に役立つかを示している。これらの考慮事項はすべてBEPに含むことができ、試験前のレビューのためにFDAに送ることができる。事前にすべてのリスクが特定され、リスク軽減プランが認められるかを示すことができるのはすばらしいことである。

その他の重要な変更と追加は以下の通り。

  • 恒久的な植込み機器は細胞毒性試験のために72時間抽出を行う必要がある
  • 補体活性化の試験にはC3aとSC5b-9という2つの蛋白質が含まれていたが、ガイダンスではC3aのみを含む要件に変更された。内因性および外因性経路からの蛋白質を組み込む補体活性化の要件により科学的に適した蛋白質エンドポイントとなるため、SC5b-9を依然として提案する試験施設もある。
  • リンパ系との接触の可能性があるため、FDAは特に細菌エンドトキシン試験(BET)をすべての植込み機器に求めている
  • 遺伝毒性試験は一連の試験でカバーされている。これらは3つの試験から2つの試験になった。エイムズアッセイと哺乳類アッセイ、マウスリンパ腫あるいは染色体異常である。これらの1つで失敗すると調査により解決する必要があり、化学試験と文献調査が有効なツールとなる。
  • 遺伝毒性試験は、発がん性の評価には使用できない。発がん性の評価が必要であれば、FDAはこのエンドポイントのために化学的特性評価を調べることを期待している。
  • 機器の分類と対応する生物学的エンドポイントの概要が示されているFDAの表には、材料媒介発熱性(Material Mediated Pyrogen)試験のための新しい列が追加された。これは新たな要件ではなく、以前は全身毒性試験で求められていたものを明確にしたものだ。

正当化情報

特定の動物試験を使用しないことを正当化するための方法は、抽出物と浸出物(E&L)試験を通じて化学的特性評価を使用することである。そのため毒性評価は、全身毒性、遺伝毒性、慢性毒性、発がん性といった生物学的エンドポイントに対処するために使用することができる。機器の変更(例えば着色剤)を評価する際には、患者に接触する部分への影響を評価する必要がある。もし機器の変更が患者や医療従事者に接触する部分に影響を与えないのなら、試験を行うことなく生体適合性に対処することができる。機器の変更が患者や医療従事者に接触する部分に影響を与える場合は、この変更に対処するためにリスク評価が実施されなければならない。predicate deviceとの材料比較を行うことができ、化学的特性評価の情報や機器の表面分析もリスクの特定に役立つ。ガイドライン文書全体を通じて、代替手段によるリスク対処を正当化するための提案と指針が示されている。生体適合性は、一連の科学的決定と思考によって評価されたリスクに基づくべきである。

結論

新しいFDAガイダンス文書は、医療機器の評価を示す他の文書を補強するものとなる。文書を貫いているメインテーマは、すべての医療機器はエンドユーザーに対しての特定のリスクを評価されるべきであるということである。このリスク評価から、特定されたリスクを軽減するために必要な特定の試験が導かれる。機器に関するすべての起こりうるリスクに対処することは困難であるため、抽出物と浸出物試験を行い、ギャップを埋め、リスク評価を満たすのに役立てることができる。このようなアプローチは初期の機器の評価において大きな負担となるが、適切に用いられれば製品化までの時間短縮と製品の安全性をもたらすことができる。

著者紹介:Audrey Turley is a research scientist at Nelson Laboratories Inc. Thor Rollins is a senior scientist at Nelson Laboratories.

 
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