再生医療の産業化へ向けた細胞培養技術の課題とは?

ByMedtec Japan編集部

株式会社リプロセル(本社:横浜市)はES細胞の培養試薬の販売で創業し、山中伸弥氏のiPS細胞論文で培地を提供するなど、研究用にゴールドスタンダードとなる細胞培養試薬を提供している。近年では、iPS細胞から分化誘導した心筋細胞などを創薬スクリーニング用に製薬企業向けに販売しており、主力事業になりつつある。さらに、同社が研究、創薬に次ぐ3番目のターゲットとしているのが再生医療だ。同社の取り組みから再生医療の産業化に向けた課題を探った。

研究、創薬から再生医療へ

リプロセルの現在の主力製品は、ES細胞やiPS細胞の培養に適した培地などの培養試薬、iPS細胞やiPS細胞由来の心筋細胞、肝細胞、神経細胞などである。疾患研究や再生医療研究を行っている大学・研究機関や、創薬スクリーニングに培養細胞を用いる製薬メーカーなどを対象に提供している。

昨年(2016年)11月には、台湾のSteminent Biotherapeutics社と細胞医薬品に関する共同開発と販売契約を締結した。これは脊髄小脳変性症を対象とし台湾で臨床試験が進んでいるもので、同社初の再生医療製品となる。本年中に日本で臨床試験を開始することを計画しており、2020年に条件付きで販売開始することを目標としている。

iPS細胞培養における技術的課題

研究や創薬向けの細胞では機能性の再現が大きな課題となっている。例えば肝細胞では薬剤を代謝する機能が求められているが、現状のiPS由来肝細胞には未熟な機能しかない。成熟に必要な長い時間がかけられないため当然だが、どのようにして成熟を早めるかという研究がさかんに行われている。

周辺装置に関しては、培養にかかる大量の人手を減らすことのでき、クリーン度も保てる自動培養装置には大きな期待が寄せられており、開発に各社がしのぎを削っている。培養には、“達人”と呼ばれる人がいるように、研究者の経験に基づく感覚的な技術が含まれる。これがオートメーション化するにあたっての課題になると考えられ、観察するポイントや、観察結果に応じたアルゴリズムをどのように機械に組み込むかという研究を進めていく必要がある。

また、現状の研究用途の細胞では1セット106個だが、再生医療では109~1011個ほどの量が1バッチで必要になるため、大量培養の技術も重要で、リプロセルでも開発に取り組んでいる。

コスト・品質面での課題

コスト面では、細胞培養で大量に使う培地のコストが大きな課題となっている。培地は非常に多くの蛋白成分や添加物で構成されており、その大部分が動物(ウシなど)から抽出する生物由来で、化合物で置き換えることが難しいためだ。成分を化合物で置き換えてコストを抑えることは非常に大きな課題と考えられている。

また、研究や創薬用の培地ではすべての添加物のトレーサビリティが厳格に取れているとはいえないが、再生医療に使う細胞を培養する培地では、厳格なトレーサビリティが求められる。1つの化合物のトレーサビリティを取ればすむ医薬品と異なり、再生医療では、培地の添加物すべての材料の情報を入手できるような仕組みが必要になる。業界全体としてトレーサビリティが取れる材料に置き換えていこうという動きもあり、リプロセルの培地もGMPグレードやアニマルフリーのものを用意し品質を確保している。

このように培地を再生医療で使うとなると、品質への要求は高くなり、コストはさらに高くなってしまう。iPS細胞を使って試験的に行われている再生医療では1患者あたり何千万ものコストがかかっていると言われている。再生医療を普及させるためにも、品質を厳格に保ちながら、コストを下げる方法が期待されている。

周辺産業の技術を生かす

再生医療に適した品質が求められるのは、周辺機器や装置も同じだ。ピペットや培養皿なども研究用だとクリーン度が十分でない。クリーン度を高めるために医療機器や半導体業界のノウハウを生かすという視点は重要だ。また、培養皿の表面加工などで微細加工技術が注目されており、特に低コストで行うことが求められている。

リプロセルは製薬メーカー向けに製品を展開しているが、細胞培養や再生医療の研究開発をしている一部の医療機器メーカーにおいても培地や試薬のニーズがあり、再生医療へのトレンドがあると感じている。昨年発売された「ハートシート」(テルモ)のように医療機器の性質をもつ再生医療製品の開発がさかんになれば、医療機器メーカーとの連携も増えると予想される。

さらに、主に欧米ではすでに脱細胞化したブタの組織を利用した医療機器や、細胞を利用した人工腎臓や人工肝臓、人工肺などの開発が進んでいる。培養した細胞を部品として使用し、再生医療として開発されるようになれば、細胞の足場など立体的な構造が必要になる。このように新しい発想での再生医療でも医療機器や周辺技術が生かされることが期待される。

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