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地域で広がる臨床現場発の医工連携

地域で広がる臨床現場発の医工連携

ByMedtec Japan編集部

臨床現場のニーズから出発し機器開発につなげる“医工連携”の概念が一般化する一方、それを具体化する枠組が徐々に確立しつつある。一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ専務理事として医工連携イベントなどの企画・運営を行っている柏野聡彦氏に最近の動向や取組について話を聞いた。

──「製販ドリブンモデル」を提唱されましたが、最近の動向はいかがでしょうか?

製販(医療機器製造販売業)企業の事業化ノウハウを活用し、臨床現場のニーズとものづくり企業の技術をつなげ、公的支援も調達して円滑に機器開発を行うのが「製販ドリブンモデル」です(関連記事 12)。このモデルは全国的に導入が進み、主に医療機器開発や異業種参入を支援する人々に根づいてきたと感じています。

また、製販企業が集積する文京区本郷での「本郷展示会」などで製販企業とものづくり企業をマッチングする取組を行ってきましたが、製販企業とものづくり企業の連携の枠組はある程度確立されてきたと思います。例えば、新技術である3Dプリンタで試作を行い、製販企業が医師に確認して迅速に製品化するケースがありました。ものづくりの技術と製販企業の事業化ノウハウが結びついて効率的に製品開発が行われる事例が増えてきました。

私は医工連携の出口がかなりでき上がってきたのではないかと感じています。そこで、このような段階から一歩進んで、医工連携の入口となる、臨床現場と製販企業をマッチングする枠組づくりに軸足を移しています。

──具体的には?

全国の病院と連携して、臨床現場のニーズを直接企業が聞くというイベントを増やしています。医師や看護師など医療従事者に臨床現場でのニーズを発表してもらい、発表後に関心をもった製販企業が名刺交換をできる時間をつくり、その後の開発のきっかけにするというものです。私がプロジェクトマネージャーをつとめる東京都医工連携HUB機構でも「クラスター研究会」(1)として病院でのイベントを増やしています。

図1 帝京大学医学部附属病院で行われた東京都・板橋区医工連携交流会(東京都医工連携HUB機構による第6回クラスター研究会)。小池都知事による開会挨拶。

このようなイベントで最初のものが2014年9月に開催された弘前大学医学部附属病院での臨床ニーズ交流会です。翌年の2015年度は4回でしたが、2016年度はほぼ毎月、しかも複数回行うなど回数が大幅に増えています(2)。

図2(日本医工ものづくりコモンズ柏野聡彦氏のスライドより)

とくに、今年度6月に大分大学医学部附属病院で開催された「医療機器ニーズ探索交流会」では、企画や事前の告知を工夫したことにより160名以上(うち製販企業は40名)が参加しました。このようなイベントが参加者を集めることができ、定期的に開催できるという手ごたえを得ました。

──どのような工夫でしょうか?

こうしたイベントの企画で意識していることは、まず「臨床現場から無理なく参加できる機会にする」ということです。たとえば、会場は、医療機関内またはそのごく近くの会場を使います。また、医療者の臨床ニーズ発表時間も短くし(たとえば1人あたり10分)、医療者が1時間以内で臨床現場に戻れるような企画を目指しています。臨床現場側の負担を最小限にする努力は、こうした取り組みを継続するうえできわめて重要です。

それから「できるだけ多くのスタッフが参加する機会にする」ということです。多様な診療科から、医師のみならず看護師、臨床工学技士、事務スタッフなどさまざまな立場のスタッフが参加し、できるだけ若手のスタッフにも参加いただけるよう意識しています。医工連携をイノベーションにつなげるためには、現在は埋もれている医工連携人材を発掘することがきわめて重要です。

また、案内状については「製販企業やディーラーに、臨床ニーズ交流会の意義を伝えること」を意識しています。これまではイベントを主催する行政機関の封筒を使って案内状が送られていたのですが、医療機関の封筒を使い、医療機関のキーパーソンの名前で送るようにしています。医療機関からの案内とすることで、製販企業やディーラーの方々が案内状にしっかりと目を通してくださるようになるようです。ちょっとした工夫なのですが、実践上は効果があり、きわめて重要です。

──臨床現場へのメリットをどのように説明しておられますか?

医療機関が医工連携活動を継続するうえで、「医工連携の意義」が重要です。これは、国立国際医療研究センター病院長の大西真先生と6時間ほどディスカッションしてまとめたものなのですが、3のような内容をお伝えしています。デバイス研究は医薬品研究と同様に、医療・医学に貢献する研究活動です。そのうえで、「臨床現場から業績を出せること」や「産業振興系の公的資金を使えること」などは目新しい点だと思います。私は、医工連携によって臨床現場に(1)開発成果たるデバイス、(2)研究業績(競争的資金)、(3)経済的還元をもたらしたいと考えています。

図3(日本医工ものづくりコモンズ柏野聡彦氏のスライドより)

──医療従事者に、臨床ニーズを開示する際の注意点をどのように説明されていますか?

臨床ニーズについては、コモンズ常任理事の谷下一夫先生がよくまとめられているのですが、臨床ニーズの構造として、“現在の診療方法・医療機器がどうなっているか”という「背景」、“現在の診療方法・医療機器にはどのような問題や限界があるか”という「問題点」、“このように解決したい、こんなデバイスを開発したい”という「解決策」という3つのレベルがあります。

このうち知的財産的価値が含まれにくい「背景」、「問題点」までを発表いただくようにしています。

これまでの臨床ニーズ交流会では製販企業やディーラーがあまり参加しておらず、異業種のものづくり企業を対象に、医療従事者から臨床ニーズが発表される形式でした。医療機器開発経験のない(少ない)ものづくり企業に臨床ニーズを提示するときには、知的財産保護よりも「理解しやすさ」が重視されやすく、その結果、知的財産的価値が含まれる「解決策」まで開示されることも少なくありませんでした。医療従事者にとって、知的財産が損なわれるリスクがある上に、異業種の人でも理解できる言葉を選ぶ(専門用語を使えない)などニーズを開示する負担が大きかったと思います。

これに対して、最近の臨床ニーズ交流会では製販企業が積極的に参加するようになってきました。製販企業は医療業界に関する知識や理解力があることが前提になりますから、知的財産保護を重視して臨床ニーズを提示することができます。私たちのイベントでも「解決策」は腹案として「問題点」までの開示でマッチングを行い、その先はNDA(機密保持契約)締結後に話し合いを進めることをお勧めしています。

また4のような簡易な発表フォーマットも用意し、知的財産的価値を損なわない範囲で臨床ニーズを発表していただきやすくしています。

図4(日本医工ものづくりコモンズ柏野聡彦氏のスライドより)

──これまで開催してきていかがでしょうか?

やはり、地域の医療機関は医工連携のポテンシャルの塊だと感じています。今後もそのポテンシャルをどのように引き出すかを考えていきたいです。そのポテンシャルを形にするために、臨床現場、製販企業、ものづくり企業の連携を一層深めて事業化まで自立走破ができるような体制づくりが重要だと思います。

また、発表されるニーズは医療者の創造力の片りんに過ぎませんから、発表されたものだけで性急に判断せず、対話を深めて開発テーマを見つけ出していただきたいと思います。「本当の開発テーマは対話の中から創られる」という意識が大切です。

──今後の医工連携の展望と抱負をお聞かせください。

臨床現場のニーズと、ものづくり企業や公的支援とのマッチングを生かすことにより、製販企業は自社の売上規模の枠を越えてビジネスを拡大するチャンスが生まれます。

医療機関で医工連携が活性化すれば、これに呼応するように製販企業の医工連携が活性化します。その結果、多くの開発テーマが創出され、ものづくり企業にとっての参入機会が増加するという活性化サイクルが回りはじめています。こうした異業種間連携の場を行政が作って支援していくことも重要です。このような日本的な医工連携システム(5)が実現しはじめていると感じています。

図5(日本医工ものづくりコモンズ柏野聡彦氏のスライドより)

今後も、臨床ニーズからはじまる医工連携の取り組みをさらに加速させ、地域レベルで医工連携の活性化サイクルづくりを手伝いたいと考えています。

──ありがとうございました。

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