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細胞培養技術の現状と展望:オルガノイド培養に向けて(2)

細胞培養技術の現状と展望:オルガノイド培養に向けて(2)

──最近はどのような細胞培養法が求められているのでしょうか?

水野 3次元培養をさらに進めて、「オルガノイド(organoid)」という臓器レベルの機能を再現することを目指して培養技術の開発が進んでいます(下図)。

細胞培養技術の変遷(ORGANOGENIXの資料より)

製薬メーカーでは、培養した細胞を使って、創薬のためのスクリーニングから前臨床試験(臨床予測)、臨床段階でのex vivo感受性評価試験などが行われていますが、これにオルガノイドを使って、より生体応答を反映した効率のよい実験、評価が実現できると期待されています。

当社では、上記のNCPと専用培地、分散試薬を組み合わせ、腫瘍組織からのオルガノイド培養・アッセイに最適化した、「がんオルガノイド培養キット」を開発しました。NCP上で7日間の培養における良好なオルガノイド形成の確認と抗がん剤感受性試験が可能であることを示しました。

創薬の他にも、患者の体から取り出した細胞やiPS細胞から培養したオルガノイドを患者の体に戻す再生医療への期待も高まります。

伊藤 NCPといったプレートだけでなく、より付加価値を高めて培地や添加物などを含めた培養環境を提供するオルガノイドソリューションを提案していこうと考えています。

また、特にiPS細胞を使った再生医療では、最初に作製するスフェロイドのサイズによって分化しやすい臓器が決まることから、スフェロイドのサイズを制御したいというニーズがありました。当社では、培養するスフェロイドの数が揃うようにNCPにさらに均一にディンプル(くぼみ)を加えた足場型プレートを開発しました。その形状から「タコヤキプレート」(仮称)として今後展開する予定です。

さらに、親会社のJSR株式会社は慶應義塾大学医学部と協力して、「JSR・慶應義塾大学医学化学イノベーションセンター」を建設中です。当社も慶大との共同研究で新たなソリューション開発を進めていく予定です。

──細胞培養技術の進展やそれを生かした再生医療の実現に向けて、どのような課題があるでしょうか?

水野 まずはオルガノイドの実現です。これによって様々な細胞を培養できるようになります。それには培養皿だけでなく、添加物や細胞採取や処理の方法など多くの技術を最適化する必要があります。

伊藤 業界的にもiPS細胞を使った再生医療の完成品を目指していると思います。オルガノイドはその方法として有望です。

例えばiPS細胞による神経細胞の培養ではこれまで1種類の細胞を作るだけでしたが、オルガノイド研究の進展によって一度に様々な細胞を組み合わせた培養が可能になります。例えば、アルツハイマー病患者からiPS細胞を作って疾患を再現することが試みられていますが、現在のところうまくいっていません。オルガノイド研究がさらに進むことにより改善していく可能性があります。

このようにオルガノイドはかなり期待されているので、効率のよい作製方法を目指して、世界中の多くの研究機関、企業がしのぎを削っています。

水野 まずはオルガノイドを使った創薬が目標ですね。再生医療の実現には、現在可能なサイズよりもはるかに大きな組織を培養する必要があります。

──一般論として、今後再生医療の分野でブレークスルーになるのはどのようなことでしょうか?

水野 技術的なことはもちろんですが、再生医療における発想の転換、安全性確保、倫理的課題、ビジネスモデルの確立など多くの課題があります。

例えば、横浜市立大学の武部貴則先生は“organ bud”と呼ばれる肝臓の原基を移植する再生医療を構想しています。臓器の芽を入れて、体の中で花を開かせようという発想です。細胞培養で臓器を作りきらなくても、再生医療にもっていけるものがあるかもしれません。

また、安全性も大きな課題です。iPSの場合は移植後にがん化しないような仕組みを確立することが必要と言われています。

あとはコストですね。コストが高いと特定の人だけが恩恵を受けることになり、医療としての普及が望めません。特に細胞培養のコスト(人件費、培養培地、機械装置など)を下げていく必要があります。

──特に周辺技術について、御社として課題はありますか?

水野 外注している微細な金型の製作には手間とコストがかかりますから、もっと効率的にできないかと考えています。

伊藤 射出成型機などが使えて、自分たちで試作できたら助かりますね。

またマイクロ流路なども手軽に使えたら、細胞の評価が効率よくできるようになります。

電顕などは必要ですが使う場面が限られますから、KBICでMEMS関連の測定機器が共同利用できるのはありがたいです。

──再生医療や関連技術に関心をもたれている医療機器メーカー、サプライヤーは多いと感じています。今後、業界のニーズと、異業種の技術シーズをマッチングできる機会を増やしていくことも課題ではないかと思います。本日は基本的なところから詳しくお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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