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細胞培養技術の現状と展望:オルガノイド培養に向けて(1)

細胞培養技術の現状と展望:オルガノイド培養に向けて(1)

ByMedtec Japan編集部

ORGANOGENIX株式会社(本社:川崎市)は、半導体や光学機器向けにナノインプリントによる微細加工を行うSCIVAX株式会社から、創薬を中心とするライフサイエンスに特化して独立した会社(現在はJSR株式会社の100%子会社。今年6月にSCIVAXライフサイエンス株式会社から改名)で、SCIVAXと同じく川崎市のインキュベーション拠点である「かわさき新産業創造センター(KBIC)」に拠点を置く。微細加工を生かした3次元細胞培養からさらに進んで、社名に示される通り「オルガノイド(organoid)」と呼ばれる次世代の細胞培養へ向けて事業拡大を目指している。

現在の細胞培養のトレンドとそれを踏まえた同社のソリューション事業について、副社長兼執行役員・事業本部長の伊藤学氏、執行役員・管理本部長の水野篤志氏に話を聞いた(以下、敬称略)。

──まず、これまでの細胞培養技術の変遷についてお聞かせください。

水野 人間の体の仕組みや病気の発症、薬の効果などへの理解を深めるために、体の機能の最小単位である細胞や細胞を集めた組織を研究する目的で、試験管内での試験モデルとして細胞培養が使われてきました。

伊藤 従来の細胞培養では、平面的に細胞が過度に接着するプレートを用いてプレート上で良好な増殖を示す細胞のみを対象としており、また細胞が相互に連携しづらい、個別増殖する試験モデルであったため、生体組織からはほど遠い性質をもった生体モデルでした。それに対して、3次元培養では過度な培養プレートへの接着を抑制し、細胞間相互作用が得られる培養環境を構築することで、より生体に近い組織の再現が可能になりました。

3次元培養の方法としては、浮遊型と足場型の2つに分けることができます。浮遊型3次元培養は細胞とプレートの接着を抑制し、培養液などの中で浮遊させることで、細胞相互の接着性を利用して3次元培養を行います。足場型3次元培養は、コラーゲンなどの細胞外マトリックスを足場として細胞が自発的に凝集体(スフェロイド)を形成する性質を利用して3次元培養を行います。細胞外マトリックスを利用する足場型培養のほうが、より生体の環境を再現した3次元培養が可能であると言われています。

──御社のこれまでの取り組みは?

伊藤 ナノプリント技術を使って独自開発したプラスチックフィルムによる足場を用いた3次元培養を提案しています。当社の「NanoCulture Plate」(NCP)と「NanoCulture Dish」(NCD)の底面には、細胞よりも小さな構造単位を均一にパターニングした樹脂フィルムが使われており、細胞外マトリックスを模倣したパターンにより、細胞の基板への接着を制限するとともに、細胞の足場として機能します(下写真)。

ORGANOGENIXのNanoCulture Plate/Dish。形状・サイズのバリエーションに加え、マイクロスクエア(MS)パターン(中央)/マイクロハニカム(MH)パターン(右)、低接着/高接着タイプを用意。

NCP/NCD上に播種された細胞は微細構造にしがみつく形で接着しますが、従来の単層培養とは異なり、細胞は基板と強固な接着をしないため、ランダムかつダイナミックに遊走します。遊走する間に細胞同士の接触と接着を繰り返し、細胞分裂を伴いながら細胞外マトリックスを用いたときと同様のスフェロイドを自発的に形成します(下図)。

右はフィルムの微細構造に接着するHeLa細胞のスフェロイド(データ提供:早稲田大学 並木秀男教授)

既に国内外の研究機関で採用され、この細胞培養方法には様々なメリットがあり、複雑な構造を簡便に実現できる方法であることがわかってきました。特に細胞外マトリックスを用いずプラスチックパターンのみで生体足場を実現しているため、再現性の高い安定した試験系の構築や、コスト低減が可能です。

例えば、NCP/NCDを用いた培養では、腫瘍に特徴的な低酸素領域を再現したスフェロイド形成が見られました。また、国立がん研究センター東病院との共同研究では、数十例のがん初代培養に成功し、スフェロイド形成を確認しています。このスフェロイドは、腫瘍モデルとして、より生体内の環境に近いモデル化が可能で、薬剤感受性の実験におけるin vivo(生体内)実験とのギャップを埋めることも期待されます。

正常細胞もNCP/NCDでスフェロイドを形成でき、間葉系幹細胞の分化誘導の効率が高まることや、培養した肝細胞では3週間機能維持されることが確認されています。ラット初代心筋細胞、線維芽細胞、iPS細胞のスフェロイド形成も確認されています。

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