細胞外マトリックスを用いてヒト多能性幹細胞から高効率に血管内皮細胞の誘導に成功

ByMedtec Japan編集部

11月9日、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の齋藤潤准教授グループ(太田諒大学院生、丹羽明特定拠点助教、中畑龍俊教授ら)と、大阪大学蛋白質研究所の関口清俊寄附研究部門教授グループらの共同研究チームは、細胞外マトリックスのひとつラミニン411(LM411)の組換えタンパク質断片(LM411-E8)を用いることにより、ヒト多能性幹細胞から正常機能を有する血管内皮細胞を高効率に分化誘導する手法の開発に成功したと発表した。

コラーゲンをはじめとする一部の細胞外マトリックスは、細胞培養において細胞の生存率や増殖率を上げる細胞の足場として利用され、細胞の種類により適した細胞外マトリックスの種類があることが知られている。しかし、細胞外マトリックスを単なる足場としてだけでなく、細胞分化における運命決定の制御因子として着目した研究はほとんどなかった。

血管の内側は血管内皮細胞の層で覆われており、血液の凝固を防いだり、血中のコレステロールを取り込んだりして、血液がスムーズに流れるための役割を担っている。血管内皮細胞は常に新陳代謝されており、その管腔構造を保つため、細胞外マトリックスが重要な役割を果たすと考えられている。研究チームによる基礎検討で、細胞外マトリックスのひとつLM411が血管に沿って管腔状に存在する知見を得ていた。そこで、ヒト多能性幹細胞から血管内皮細胞への分化過程において、LM411が与える影響を詳細に解析した。

研究結果

1. LM411、およびLM411-E8断片はiPS細胞から血管内皮細胞への分化を支持する

マトリゲル上でヒト多能性幹細胞から誘導した中胚葉系前駆細胞を、種々の細胞外マトリックス上に蒔き直し、血管内皮細胞への分化能を比較すると、他の細胞外マトリックスに比べLM411は有意に血管内皮細胞への分化を支持できることがわかった。

LM411はα、β、γの3つのペプチド鎖が会合してできる巨大な複合タンパク質であり、そのC末端部分(E8領域)が細胞接着分子インテグリンとの結合部位として同定されている。そこで、遺伝子工学によりLM411のE8領域のみに短縮した組換えタンパク質(LM411-E8)を作製した。LM411-E8断片は全長型LM411よりさらに血管内皮細胞への分化を促進することが分かった。

2. LM411-E8は、血管内皮細胞への分化増殖を修飾・賦活する因子としての作用を持つ

iPS細胞から血管内皮細胞へ至る分化誘導の過程で「どの段階でどのように」LM411-E8が作用するのかをより詳細に検討するため、研究チームは分化過程の細胞を1細胞単位で次世代シークエンス技術によって遺伝子発現プロファイルを解析し、個々の細胞がどのような運命を辿るのか調べた。その結果、LM411-E8がないと中胚葉前駆細胞が種々のプロファイルを持つ細胞へ無秩序に分化するのに対し、LM411-E8を使うと血管内皮細胞の方向へ強く偏った分化をしながら増殖していることがわかった。さらに、LM411-E8のこの作用は血管内皮増殖因子(VEGF)からのシグナルと協調して起こっており、細胞骨格に関連した細胞内シグナルであるRhoシグナルが増殖と分化の2つの現象を橋渡ししていることも明らかになった。

3. 正常な血管機能のある血管内皮前駆細胞への高効率な無血清分化誘導

再生医療や疾患解析に多能性幹細胞を活用する際、正常な機能のある目的細胞を高効率で高純度に得ることが求められる。研究チームは、動物(マウス)成分を含むマトリゲルの代わりにLM411-E8と別種のラミニン組換えタンパク質LM511-E8上に播種した多能性幹細胞を、サイトカインとGSK3阻害剤の併用によって中胚葉前駆細胞へ高効率に誘導し、LM411-E8に蒔き直して血管内皮細胞を誘導する変法を開発した。この方法は動物成分を含まず、内皮細胞の収率を飛躍的に向上させた。また、得られた内皮細胞を免疫不全マウスに移植して、生体内での作用を調べたところ、血管構造が形成され、内部にマウス由来の赤血球を観察したことから、血管内にマウスの血液が環流していることがわかった。

研究の意義

ヒト多能性幹細胞の応用という実用的観点から、今回の研究成果による高純度で簡便な血管内皮誘導は今後の再生医療や様々な疾患解析研究への展開に直結するものと考えられる。

同時に、ともすればこれまで「細胞の足場」としての側面に偏って捉えられがちであった細胞外マトリックスの機能について、「作用因子」としての役割の一端を明らかにした点にも本研究の意味がある。細胞外マトリックスは発生初期から生涯にわたり体内に豊富に存在し、様々な組織で細胞運命決定に少なからず影響を与えている。

本研究が血管内皮細胞分化をモデルに示したように、今後あらゆる組織における細胞外マトリックスの新たな作用機序解明にiPS細胞は役立つと考えられる。さらに、そうした研究の成果が再びiPS細胞を用いた再生医療の開発に還元できると期待される。

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