MEDTEC Online

イノベーションを生み出す技術コンバージェンス

イノベーションを生み出す技術コンバージェンス

By:Medtec Japan編集部

英国ケンブリッジに拠点を置く技術コンサルティング企業のケンブリッジコンサルタンツは、家電・自動車・通信・医療などの分野で、専門エンジニアによる開発コンセプトから研究・開発、規制対応、製品化に至るトータルなパートナーシップによるものづくり支援を提供している。9月29日には“British Innovation: collaboration enabling global breakthrough”と題したセミナーを東京で開催。医療機器分野での近年の異分野融合によるブレイクスルーや同社の取り組みなどについて話を聞いた。


「メディカルデバイス業界に革命をもたらす技術コンバージェンス」と題した講演では、同社の医療機器事業部外科・インターベンション機器グループ責任者のSimon Karger氏が登壇。医療分野で同社の主力事業である医療機器について、近年の産業の課題、ブレイクスルーや今後への期待について具体例をまじえて解説した。

世界的な医療の課題

まず、Karger氏は現状の医療産業を取り巻く課題として、グローバルな人口増、高齢化、個人がもつ疾患の多重化といった状況をあげる。これらが世界各国の医療制度に大きな負荷を課しているものの、WHOのデータによると、全世界の医療関連労働人口の約65%が欧米に集中しているのに対して、欧米での疾患の発症は全世界の約20%にすぎない。

また、多くの国・地域で医療費が増加し続けているが、国民1人当たりの医療費は米国で年間1万ドル弱、英国や日本で年間4千ドル、中国やインドでは年間1千ドル程度と大きな格差が存在する。

このように、医療産業で働く人々はあらゆる人の病気を治療したいと考えているものの、健康問題はかつてないほどに大きくなり、一方で医療に関するリソースは偏在しているという課題がある。

テクノロジー+臨床的・商業的価値

上記の課題を解決するために、

  • 疾患を予防する
  • 患者のセルフケアを促進する
  • より多くの医師を訓練する
  • 1人の医師がより多くのことをできるようにする

といったことが考えられる。医療に関わる時間やコストをいかに削減するかという視点がトレンドにもなっている。

これらに加え、イノベーションを起こすためにカギとなるのがテクノロジーである。例えば中枢神経系の調整が可能な植込み機器や、外科手術を支援するロボット、デジタル技術といった最新技術が多く生み出されている。しかし、テクノロジーだけではイノベーションを起こすのに十分ではなく、臨床的ニーズ、商業的ニーズに見合ったものでなくてはならない。

ブレイクスルーとなる製品例

Bigfoot Biomedicalは、1型糖尿病の息子をもつトレーダーが設立したスタートアップだ。インスリンポンプと持続血糖モニター(CGM)を組み合わせてアルゴリズムを作り、モニタリングとインスリン注入を自動化したクローズド・ループのシステムを開発した。

Propeller Healthは、喘息やCOPD患者向けにワイヤレス通信を使ってコンプライアンスをモニタリングする機器を開発。様々な吸入剤に取り付けることでモニタリングを行い、発作のタイミングを記録し医師と共有することもできる。

Simbionixは、ロボット手術の訓練装置を開発。外科医は同社のシミュレーターによって様々なロボット手術をより早く正確に習得できる。

また、ケンブリッジコンサルタンツではインドの外科医向けに低コスト、モジュール式でスーツケースのように持ち運びができるポータブルな手術システムEkanoを開発。インド非都市部の不十分な医療インフラの調査に基づき、臨床ニーズから出発した製品コンセプトの一例だ。

その他にKarger氏は、世界的により多くの患者を治療できるようになると期待できるテクノロジーとして、がんの迅速スクリーニング法、リアルタイム画像による外科手術支援システム(メドトロニック)、遠隔医療システム(InTouch Health)、疼痛やパーキンソン病など慢性疾患の症状コントロールのために体内に植込み、スマホで患者自身が調節できるニューロモデュレーション(神経調整)機器をあげる。いずれも小型化、ロボット、デジタル・通信など、異なる技術を組み合わせたものだ。

Karger氏は、イノベーションを起こすためには、技術だけでは十分ではなく、市場やステークホルダーの深いニーズを理解することが不可欠と強調する。そして、市場の根本的な変化によって、野心的で、より広い人々の手に届き、破壊的なソリューションが求められる機会が生まれると締めくくった。


Q & A ケンブリッジコンサルタンツに聞く
(回答者:ケンブリッジコンサルタンツ リミテッド チーフコマーシャルオフィサー Richard Traherne氏、同 医療機器事業部外科・インターベンション機器グループ責任者 Simon Karger氏)

──お話いただいた世界の医療の現状からもイノベーティブな医療ソリューションが求められているとわかります。最近の御社の開発例にはどのようなものがありますか?

EBRシステムズ社のワイヤレス・ペースメーカー(関連記事)は当社がパートナーとなって開発しました。EBRシステムズ社の科学者には開発コンセプトはありましたが、エンジニアや製造、評価・検証を行う設備などその他のリソースがありませんでした。規制対応でもサポートを行い、迅速な製品化を実現しました。私たちとのパートナーシップがスタートアップに有効であった好例だと思います。

その他にも講演でお話したStimRelieve社のワイヤレスのニューロモデュレーター、外科手術ロボット用の神経を切らないようにするナビゲーションシステムがあります。

──特に注目している分野は?

IoTやコネクティッドデバイス、デジタルヘルスといった異分野融合がさかんな分野です。これらの技術を生かすことで、新たなモニタリング機器、センサ、DDS、ディスペンサー、簡便な診断機器、簡易的な診療システムにつながるかもしれません。

私たちは2015年、キャップを取る動作で発電するため電池不要で、ワイヤレス通信によって注射タイミングや用量をスマホのアプリに記録できるインスリン注射剤KiCoPenのコンセプトモデルを開発し“Red Dot Design Award”を受賞しました。

また、今年、米西海岸の製品開発・技術コンサルティング企業のSynapseを買収しました。これによって異分野の技術融合をより加速できると考えています。特にこの地域で盛んなコンシューマー、通信、産業向け技術から、セキュリティ、接続、センシングといった技術を医療機器に融合させることが可能になると思います。

他にも、生命科学や産業分野で応用範囲が広いsynthetic biology(合成生物学)に注目しています。

──新興市場にも力を入れていますか?

講演でお話したEkanoのように現地のニーズにマッチした製品開発のために、新興市場向けに特化したチームを組織しています。新興市場では低コストというだけでなく、いかに市場が求める機能にフォーカスした製品を作るかが重要です。

──既存の医療機器メーカーとの提携は?

例えばフィリップス・メディカル・システムズとは患者向けのワイヤレスのバイタルモニタを開発しました。既存の医療機器メーカーでは技術や知識は豊富にあるものの、これまでにないまったく新しい方法を開発しなければならないことがあります。この場合では、大病院でも正確に機能するワイヤレスのシステムが必要でしたので私たちに依頼があり、約1年で開発しました。

他にも、新たな技術分野に関してはスピンアウトを行い、事業化の知見・市場専門知識・技術を深めるようにしています。

──日本の医療機器産業については?

今後グローバルな競争が激化していくのはどの国の医療機器産業も避けられません。競争のためには新技術を取り入れなければいけないですが、通信、デジタル技術、イメージング、AI、ロボット、センシングといった技術を活用するためには深い専門知識が必要です。それらを自社で短期間に得ることは難しいですから、オープンイノベーションや他社とのパートナーシップが重要になってくるでしょう。

私たちとの協業では特定の最新技術についての専門知識を短期間で得ることができ、迅速に製品化ができます。そして、製品化後には知的財産は会社に残るのです。危機感を持っている日本のメーカーの方々には、イノベーションが競争力強化に必須であるということを伝え続けていきたいと思います。

──ありがとうございました。

カテゴリー: