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出会いと多様性を製品開発に生かす

出会いと多様性を製品開発に生かす

ByMedtec Japan編集部

宮城県石巻市のヤグチ電子工業株式会社は世界的にもユニークな製品開発で注目を集めている。もともとはソニーのウォークマンの世界戦略工場として1974年に神奈川県相模原市に設立。2009年に石巻に生産拠点を集約したのち、2011年に東日本大震災で地元取引先の多くを失った。

震災後に被災地周辺で放射線への不安が高まるなか、スマホに接続し放射線量を測れる「ポケットガイガー」(右写真)を3カ月で製品化し、累計5万台を超えるヒットとなった。これを機に受託製造だけでなく自社の設計開発に乗り出す。広告用ディスプレイがきっかけになり、2015年には小児弱視を治療する視機能検査訓練装置「オクルパッド」を医療機器(クラスⅠ)として開発。医療機関や大学との連携を広げ、新たな医療機器開発にも取り組んでいる。2014年に医療機器製造業許可取得済で、今年中には製造販売業許可の取得を目指している。

東京での販路開拓や製品デザイン、研究開発を担当している同社取締役CTOの石垣陽氏(電気通信大学産学官連携研究員)に自社製品の開発経緯や背景について聞いた。

──「ポケットガイガー」は非常に短期間で開発し、ヒット商品になりました。ポイントは何だったのでしょう?

ソフトウェアもハードウェアも設計図をオープンソース化して参加型開発としています。また“Kickstarter”でクラウドファンディングを行い、2週間で1.5万ドルを集め、開発資金としました。発売当初は筐体はなく、ユーザーにはフリスクのケースを活用していただきました。放射線を測るという機能だけを売ろうと考えたためです。販売後はFacebook上でユーザーが測定値を共有し、研究者も参加して線量について議論する場が生まれ、さらにユーザーが拡大していきました。

また、スマホ接続型の放射線測定器は世界初でした。クラウドファンディングで資金集めをしていた時、オランダの専門機関から突然メールがあり、ポケットガイガーの性能についての試験をしたいと申し出があったことも驚きでした。その後、ポケットガイガーを実際に試験していただき、校正表と証明書を発行してもらいました。こちらの技術・知識をオープンにすることで自然に広がっていったという印象ですね。

──社内の環境はどうでしたか?

最初のアイディアを大企業に持ち込んだりもしたのですが、予算がもっと大きいビジネスでないと事業化は認められませんでした。そこで当時つきあいのあった当社に持ち込んで採用してもらいました。当社設立を支援したソニー創業者の盛田昭夫氏はソニーを「自由闊達にして愉快なる理想工場」と呼んでいましたが、当社にも創業以来「オープンでフェア」という社是があり新しいことには積極的な気風がありました。

──「オクルパッド」開発は広告用ディスプレイがきっかけとのことですが、どのようなディスプレイでしょうか?

震災で映らなくなったテレビがもちこまれたことが最初のきっかけです。故障の原因を調べてみると液晶の偏光フィルムがはがれていました。そこで、偏光フィルムをはがす技術を何かに使えないかと様々なところで提案してみたところ、サイネージが普及し人々があまりディスプレイを見なくなっているなかで、逆に「見えない」ディスプレイは新しいのではと、広告関係のクライアントに注目していただきました。通常では見えないが偏光フィルムとなるレンズを通すと見えるディスプレイ「ホワイトスクリーン」をはじめました。

──広告用ディスプレイからどのように医療機器へ?

 

ホワイトスクリーンが、ある広告イベントに来ていた北里大学医療衛生学部の半田知也教授の目にとまり、共同研究がはじまりました。小児弱視は成長過程で片方の眼の視力が極端に下がってしまう病気で2~3%の子どもが発症します。斜視の原因にもなり、幼児期を過ぎると治療ができず一生視力差が大きいままになります。原因は、成長途中で視力差が起きた時に脳が視力が低い方の画像をシャットアウトしてしまい、片眼の視機能が脳内で使われないためといわれています。

治療方法は、健眼にパッチを貼ることで悪い方の眼の視機能を使う訓練を行うもので、数百年来使われています。ただ、訓練期間が長い(半年間)、パッチによって結膜炎になりやすい、隠している健眼も弱視化してしまう、見た目でいじめられるといった問題からコンプライアンスが悪いという課題があります。そこで、ホワイトスクリーンの技術を応用し、片方の眼にだけ偏光フィルムを入れた特殊なメガネを使って、タブレットでゲームを行うという治療法を開発しました。これなら眼に何も貼らず、両眼共に開いた状態で治療するため従来の副作用が出ることはありません。子どもがゲームに夢中になるので、訓練期間は1日1時間2カ月半程度で済み、有効性も確認されています。世界初の、タブレットを使った「両眼開放型」の弱視治療装置といわれています。

現在北里大学での採用から全国の眼科施設へ広げていきたいと考えています。また、インドには試験的に導入いただいている病院があります。日本では患者数が多くても年間3万ですが、世界的に見れば多くの患者がいますから、海外展開もはじめようと考えています。

──現在開発中の医療機器は?

IVRの先生方と術中のX線被ばく量をモニタできるスマホ接続型のセンサを開発しています。また、東北大学大学院医工学研究科の芳賀洋一先生らと集束超音波を利用して鍼に似た効果を得られるペン型治療器を開発しています。

──医療機器以外でもPM2.5のポケットセンサ、インタラクティブ広告、簡易DJ機器など画期的な製品を開発されていますね。心がけておられることは?

ポケットガイガーでは、オープンソース化によってユーザーから用途も含め様々な提案が生まれるという経験をしました。一例ですが、ポケットガイガーを応用して卓上のCT装置の製作を目指している開発者もいます。

私は新しい製品の開発環境を「オアシス」とイメージしています。砂漠の中のオアシスのように、誰でも入って技術や知識を共有し、多様なアイディアを議論できます。「ホワイトスクリーン」は通常のユーザーにとっては故障ですが、あるニーズを抱えている人には魔法になるのです。新しい分野に参入するには自分から「オアシス」を作っていくような気持ちが重要ではないかと考えています。

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