MEDTEC Online

分光イメージングの医療応用の最前線

分光イメージングの医療応用の最前線

ByMedtec Japan編集部

光技術を生かしてより低侵襲で生体の検査やモニタリングができるのではないかと期待されている。BioOpto Japan 2016(9月14日~16日@パシフィコ横浜)のセミナーでは、分光イメージングを医療に応用する新技術について講演があった。

術中医療センシングを目指したラマン散乱分光法

徳島大学講師の南川丈夫氏は「術中医療センシングを目指したラマン散乱分光法」と題して自身の研究を紹介した。

外科手術では、術中に患部の位置や程度を判断し、どこまでを切除すべきかなどを決めなければならないが、現状では術前診断に基づいて医師が知識、経験、勘を駆使して行っている。術前診断で用いられるCTでは被ばく、装置の大型化、低コントラスト、MRIでは解析に時間がかかる、装置の大型化、強磁場、造影剤の影響、染色法では病理医が必要、破壊的検査、時間がかかるといった課題がある。

南川氏はこのような課題を解決するため、光技術を生かして術中、高速、低侵襲、高コントラストな検査の開発を目指す。着目したのが、非侵襲で分子選択的に試料を解析できる「ラマン散乱分光法」だ。

「ラマン散乱分光法」とは、励起光が物質に反射して発する散乱光の波長を分析するもので、分子振動による周波数変化を捉えるため、スペクトルを見れば分子構造がわかる。南川氏はこの方法を心筋梗塞診断や末梢神経検出に生かす方法を検討している。

心筋梗塞に対する外科手術では梗塞の程度によって治療法を選択し、梗塞のない組織を温存することが重要だが、現在行われている術前のMRIやCTによる画像診断は、術中診断ではない上にコントラストが十分ではないという課題がある。そこで、ラットの心筋梗塞モデルを用いて、梗塞の程度(necrosis、granulation、fibrosis)をラマン分光法で識別することを試みた。研究した方法では、ピークだけを見るのではなく、多変量解析を使ってスペクトル全体から意味を見出す。この結果を画像化することで、梗塞の程度の識別に加え各梗塞組織間の境界線を描き出すことに成功した。ヒトの組織でも実験を行っており、正常組織と梗塞組織の識別に成功している。

また、前立腺がんの外科手術などで、がんを切除する際に神経組織も切除してしまうと術後に麻痺などが生じQOLが低下する。このような背景から、神経温存手術が重要になっており、神経細胞をラマン分光法で検出することを試みた。神経細胞には軸索のみの無髄神経と軸索を巻くように鞘状の組織(ミエリン鞘)を伴う有髄神経があるが、どちらの神経細胞に対しても、脂肪組織や結合組織から識別することができた。さらに、神経細胞間の境界も描出できるため複数の神経細胞を区別することもできた。

南川氏はラマン散乱分光法の特長を、術中応用可、非破壊的に計測可、水分がある環境で計測可、分子選択的イメージング、分子構造の推定とまとめる。医学、生物学における新たな計測技術として、また臨床現場での医療応用に期待できると締めくくった。

全血中の血糖値計測を目指した超音波アシスト分光イメージング

次に、香川大学教授の石丸伊知郎氏が「全血中の血糖値計測を目指した超音波アシスト分光イメージング」と題して、中赤外光の分光イメージングの医療応用について紹介した。

安全に生体を透過し、分子運動を励起しやすい赤外線の性質を利用し、吸収された周波数から試料の成分を特定するのが赤外分光法である。ラマン分光法も分子運動を見るという点では同じ振動分光法だが、光の吸収後に散乱した分光成分を見ているという点で違いがある。

赤外光の中では、中赤外光は基本周波数が多く含まれ高感度に光の吸収が生じるため成分分析に適している。しかし、水にも高感度で吸収が起こるため、水分量が高い試料(例えば生体試料)には向かず、水分量の高い試料の場合には薄膜試料化する必要がある。したがって、感度は低いものの水への吸収も少ない近赤外光が生体分析ではよく検討されている。

ただ、近赤外光ではグルコースの吸収域が水などの吸収域の近くにあり影響を受けやすいため、グルコースに対しては、その吸収域の独立性が高い中赤外光の方が適している。また、日常生活内での使用を考えると、装置に励起レーザーのパワーが必要になるラマン分光法より簡便な装置で分析が可能な中赤外分光法が有利となる。

現在、スマホで使える中赤外センサ、近赤外の小型ハイパースペクトルカメラは製品化されている。一方、中赤外の分析装置では、FTIR(フーリエ分光法)に用いられるマイケルソン干渉計が振動に弱いため、除振機構が必須となり、機器が大型・高額化している。

そこで、石丸氏らが2000年代初めから開発してきた「結像型2次元フーリエ分光法」を利用し、アオイ電子株式会社(本社:高松市)と協力し、除振機構不要でコンパクトな中赤外の分光分析ができるハイパースペクトルカメラを開発した。手のひらサイズの2次元計測型と、スマホへ搭載可能なワンショット型の2タイプがある。これにより、例えば尿中成分を計測するスマートトイレや非侵襲の血糖測定計など、日常生活内で中赤外分光を活用できる医療機器としての応用を目指している。

さらに、水分の多い試料では薄膜化が必要という中赤外分光の弱点を解決するために考案したのが、超音波定在波による可変光路長の薄膜試料作製法である。超音波の疎密波を使って屈折率の分布を意図的に作り光を反射されるもので、薄膜試料化を簡便にし、小型の分光装置と組み合わせれば、日常生活での応用も容易になる。まずは体外の全血での血糖値測定を行うべく、透析装置と組み合わせる簡便な血糖値測定装置の開発を目指している。

上記の中赤外に加え、石丸氏が連携するアオイ電子では可視光、近赤外の小型ハイパースペクトルカメラを開発。医療の他にも環境や食品、塗装品など幅広い応用が期待されると締めくくった。

カテゴリー: