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社会起業による医療の民主化:最新医療を最貧国へ

社会起業による医療の民主化:最新医療を最貧国へ

By:Medtec Japan編集部

収益のみでなく、公平性や正義、再分配といった社会的な価値の実現のために経営を行う企業形態は「社会起業(social entrepreneurship)」として知られている。インドの最貧地域に最新の白内障眼科手術を普及させるなど、社会起業によって収益を上げつつ最貧国へ最新の医療技術の普及を推進しているDavid Green氏が来日し「共感を組み込んだ資本主義(empathic capitalism)」と題した講演を行った(7月11日、主催:一般社団法人アショカ・ジャパン)。


アラビンド眼科病院のモデルを世界へ

Green氏はまず、グローバル資本主義の拡大の結果、不均衡に富を集中させている分野として金融と医療をあげる。彼はこの2つのセクターを利用し、医療サービスを収益を上げつつ(profitable)、かつ、誰にでも入手可能なものにする(accessible)ことを目指した。武器となったのは価格設定であり、技術と質のコントロールと合わせて、市場の競争環境を変化させることによってこれを実現した。

大学で公衆衛生を学んだ後、SEVA財団の職員として南インドに赴任し、非常に貧しい医療環境を目の当たりにした。なかでも白内障手術を受けられないために失明する人が多いことに着目し、白内障手術で必要な眼内レンズを製造するAurolab社を1992年に設立。約半分の患者が「無償」、35%が「実費の3分の2」、約18%が「実費を上回る値段」を支払うという収入に応じた3段階の手術費用システムを提案する。

そして、寄付によって眼内レンズを集め、無償で白内障手術を行っていたアラビンド眼科病院(Aravind Eye Hospital)と提携。Aurolabによる安価な眼内レンズを使い、3段階の手術費用システムを採用したアラビンド眼科病院は手術件数を増やした。料金を支払える患者、高収入の患者も集まるようになり、寄付に頼らない独立経営が可能になった。症例を増やすとともに質を高めることで、市場の需要を呼び起こしたのだ。手術プロセスを徹底して効率化することによっても手術件数を稼いでおり、現在では年間手術件数は40万超、利益率は33%を達成している。

アラビンド眼科病院をモデルとして、インド国内および海外(バングラディッシュ、エジプト、ネパール、中国、グァテマラ、米国)に同様のシステムを広げている。アラビンド眼科病院と同じように、6割を無償・低料金の患者、4割を有償の患者とするビジネスモデルである。

2010年からはGlobal Sight Initiative(GSI)として10の指導病院から手術技術や病院の経営などを学び各国で持続可能な眼科ケアを広げるネットワークを開始。指導を受けた病院は5年間でベースラインより手術件数を約40万件増やした。2020年までに毎年100万件ずつ手術件数を増やすことを目指している。

社会起業にとって資金調達は非常に重要だが、GSIでは助成金、エクイティ、借入金を組み合わせた資金調達を適用しており、起業の準備段階のコストに助成金や寄付金を、建物や設備などの起業コストや初年度の運営費用にエクイティ投資を充当。借入による資金調達により経営責任者や中心となるスタッフを雇用し、エクイティ投資家が早期に資金回収できるプランを作っている。

マージン見直しと価格の差別化

白内障手術では、眼球にメスを入れて濁った水晶体を取り除き人工の眼内レンズを挿入する。眼内レンズが製造されてから手術を受ける患者に届くまでには、社内の各部門のコスト、流通業者へのマージンなどが積み上がって価格が設定されている。Green氏はコストとマージンを徹底的に削減することで、アルコン社の眼内レンズと同じ製造コストでありながら10分の1以下の価格を実現した。

アラビンド眼科病院では、アルコンのレンズを求める患者もいることから、8%の眼内レンズをアルコンから予算の65%を使って仕入れ、92%の眼内レンズをAurolabから予算の35%を使って仕入れている。経済階層に合わせて価格設定を差別化することにより需要を最大化するのだ。

他にもAurolabは縫合糸、医薬品、手術用メスにも進出。これまで市場のターゲットではなかった最貧層のアクセスを利用することで収益を伸ばしている。医療を多くの人の手の届くものにするために、技術をコントロールし製造、物流、価格設定を変革することに成功したのである。

価格競争を通じて医療をすべての人に

Green氏は大企業とは連携でなく競争を行ってきたという。Aurolabの眼内レンズ以外の取り組みもいくつか紹介した。

メドトロニックによる“Healthy Heart for All”というプログラムでは、ブランド名を変えることでペースメーカの価格を下げ、植え込み手術の費用を抑制したが、遠隔医療によって診療する地域を広げ、さらに貧困層と富裕層に対するretail financingを行うことで利益を生み出した。

低価格によって競合企業にも価格を下げさせた例として、インドでのAurolabの縫合糸の登場によって、ジョンソン・エンド・ジョンソン傘下のEthicon社の縫合糸が一箱240ドルから23ドルまで価格が下がったことがあった。

業界の競争のあり方を変えるためにカギとなるのは、ただ値引きをするのではなくビジネスモデルを見直し、結果として価格が下がるようにすることだとGreen氏は説く。そのためには、付加価値が加わらないマージンを突き止め分析し、非付加価値マージンを除くこと、なぜ高価格が維持され、透明性がなく、競争原理が働かないのか調べること、価格を武器に消費者が恩恵を被ることができるよう競争環境を変えることが必要だという。

新たな取り組みとして、聴覚障害に対してスマホを使った補聴器とアプリで従来品の10分の1程度の価格で補聴器を提供するSound World Solutions社、相場2万ドルのところ100ドルで義足を提供するLegWork社を紹介した。

さらに今後注目している投資分野として、薬剤溶出縫合糸や生体吸収性ステント、電子的な視力回復デバイス、波面収差測定自動屈折検査装置、反発力のある炭素繊維義足・底敷きシステム、眼科ケア経営フランチャイズ企業をあげている。

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