積層造形に関するいくつかのリスク

積層造形は医療機器業界に多くの利点をもたらすが、この急発展する技術にはいくつかのリスクと未知の点が残っている。

By: James Pink(オリジナルの英文記事はこちら

積層造形(additive manufacturing:AM)の医療機器への応用は急速に拡大しており、現在の40億ドルから10年以内には200億ドルにまで市場が成長すると予想されている。なぜなら、この技術によって製造業者は、多くの伝統的な方法よりより迅速かつ効率的に、ポリマーや金属などの材料から複雑な医療機器や部品を製作することができるようになるからである。

現在、商業応用としては、上顎顔面部、頭蓋部、歯科インプラントといった患者個人に合わせた整形外科機器、CTやMRIスキャンによって患者の局所解剖を再現する術前のプランニングとシミュレーション時の臓器モデルがある。そして、多くの投資家や研究者、医療従事者、製造業者が急速に、この技術の応用とプロトタイプの開発を進めている。

しかし、積層造形が医療分野に進出するにつれ、リスクのある応用と科学的な裏付けのない技術のスピードへの懸念も生じている。積層造形による製品はカスタムメイドのため、従来の世界の規制枠組では規制が容易でないという事実に加えて、考慮すべき製品自体の安全性リスクが存在する。

積層造形の利点

設計の観点で積層造形が有利になるのは、患者個人の解剖学的特性に基づいた製品設計という、カスタム可能という点に集中している。これは一般的に、画像診断とCADによるモデル化、最終的な製品の3Dプリンティングを行う後処理ソフトウェアの組み合わせによって実現する。また、積層造形に関連する技術が加わることによって、さらなる利益が生まれるという事実が現われつつある。例えば、航空分野では、ある材料によって積層造形された部品の機械的性質に利点があることが明らかになっている。

製造の観点では、積層造形は静粛で独立し、高度に統制された環境下での製造を可能にする「クリーン」なプロセスであると考えられている。医療技術に関しては、製品の製造の際の接触材料や、高価で環境に負荷をかける洗浄剤に起因する問題などは、積層造形によって解決が得られるかもしれない分野である。

積層造形のリスク

現在のところ、積層造形について技術的な安全性を裏付ける独立した科学的・技術的データは非常に少ない。そのようなデータがあるとしても、安全性と性能には基準、検証のための科学、正確な検証方法が必要である。しかし、このような最先端の問題について、医療技術の分野では国際的な連携はなされていない。

このような事実は、特にリスクの高い医療機器の積層造形による製品化を目指している企業にとっては明らかな問題となっている。この点を考慮すると、技術界は、必要な科学を通じてどのように医療技術の分野における積層造形を支持するかという問題を解決する必要がある。この解決に向けて、まずは業界とFDAによって初歩的な一歩が踏み出されている。この5月に、FDAは3Dプリントされた医療機器に関して、長く待たれていたドラフト・ガイダンスを発行した。これによって製造業者に推奨されるのは特に、感光性樹脂を利用する積層造形のプロセスにおける硬化の程度を評価し、3Dプリントされた表面形状が滅菌にどのような影響を及ぼすかを考慮することである。

患者の画像を固形の3Dプリント・モデルへ

患者の画像を3Dプリント・モデルにうまく変換するためには、ソフトウェアは画像に矛盾がないことを保証し、多軸プリンターによって加工できる固形モデルへ画像を変換することが求められる。プリンティングの目的で患者の画像を再構成するためには、製造業者はソフトウェアが正確にデータを固形モデルに変換することを示さなくてはならない。また、プリント・ソフトウェアが座標のレンダリングとプロセスを行い、信頼性のある再現可能な形で材料を積み上げるようにしなければならない。

2015年にSunday Times紙は、ロンドンのセント・トーマス病院のチームが心臓に小さな穴のある幼児の心臓モデルを3Dプリンターで作製することに成功したと報じた。心臓モデルがなぜ有効かというと、心臓が小さいためと、外科医が手術中の合併症のリスクを減らし、障害を効果的に修復するためにガーゼを置く最適な方法を決めるためであった。そして3Dモデルのおかげで、手術計画チームは手術の効果的な準備をすることができ、手術室に入る前に問題や懸念を解決することができた。

このストーリーは積層造影の利点と患者のケアを改善する可能性のすばらしい一例である。しかし、製品安全の観点からは、この技術が複雑な手術で日常的に使用され、商業化される場合に、ソフトウェアがこれらのモデルを信頼性高く、繰り返し製造できるほど技術的にしっかりしたものかを検証することが重要である。術前モデルのために積層造形によって製作された心臓が、実際の患者の心臓のモデルとなっていないために、患者に障害や死をもたらし、外科医が訴えられるような可能性があることを考慮しなくてはならない。

規制面でソフトウェアには検証が要求される。検証の複雑性が増せば増すほど、モデルの正確性が求められる。したがって、積層造形に関わるステークホルダーは、この種のソフトウェアの検証には一貫した要求があることを確認しなければならない。さらに、このような技術の商業化に関わる専門家は、確実にこの分野のガイダンスと受容基準が定められるようにしなければならない。

材料

「医療グレードの材料」という用語は何十年も使われてきたが、医療グレードの概念よりも生体適合性の概念がより重要であることを私たちは知っている。例えば、3Dプリンティングの材料が医療グレードとされ、それがヒトに使用される場合、仕上がった製品、包装、滅菌方法はすべて、その材料の化学的・機械的特徴の関数となる。これは、使用年数、種類、仕上がった製品が使用される目的によって劇的に変化する。

宇宙航空研究の結果から、3Dプリントされた材料の性質は、押出や鋳造といった従来の成形技術で加工された材料の性質とは異なることが明らかになっている。このわずかな違いが、医療部品の機械的、化学的統合性や生体適合性に影響を及ぼす可能性がある。

また製造業者は、使用する材料の影響を理解することに加えて、どのような形状や機構を、どのような材料、どのような結合剤によって3Dプリントすることによって、どのような影響があるかを理解する必要がある。同様に重要なのは、例えば物理的性質や表面化学の特徴のようなあまり知られていない性質であり、それらの生物学的プロセスへの影響である。製造業者は、例えば不活化されているか生物学的活性があるかというような、意図した通りに表面が生体適合性をもっているかを確かめなくてはならない。

インプラント・グレードの材料には基準が設けられているが、積層造形に用いられる粉末や結合方法は、例えば金型内の金属などと本質的に同等ではない。さらに、プリントされたインプラント・グレードの材料の限界に関して確実な知識を得るために、科学的検証と研究が求められる。

特定の製品検証と要件

清浄度、無菌性、および包装プロセスはすべて、混入物質や意図しない有機物質による汚染がないことと、保管や輸送といった要因にも耐えうることを示すために、特殊で国際的に承認される研究が行われなくてはならない。

これらのプロセスは、形状、製造過程、製品の環境条件、さらに洗浄や滅菌、包装プロセスといった要因の関数となる。

最終的に、積層造形される製品の個人化という性質によって、検証されたプロセスのパラメータを維持することは顕著な影響を受けるかもしれない。結果的に設計の段階で、検証方法が通常製造される製品の検証方法とは大きく異なることがわかるかもしれない。

積層造形に関係する製品の検証にガイダンスおよび標準化が必要であり、業界はガイダンスを確立し業界の規範を採用するために連携する必要がある。とはいえ、明らかなのは、現状の基準と実践は積層造形のカスタムメイドの性質を解決できないことであり、FDAのドラフト・ガイダンスの最初のインパクトはいまだ不明である。したがって、「安全で科学的なアプローチ」は積層造形に関わる個人要素を考慮に入れる必要があるだろう。もちろん、そのためには複雑な科学、複雑なパラメトリック・モデル、シミュレーション、あるいは製品を検証するにあたってより大規模で多様なサンプリングを行う論理的根拠が必要だろう。

プロセス制御と製品リリース

プロセス検証は医療機器産業で、製品の特性が達成されたかを監査のみでは容易に検証できない場合に用いられるツールである。医療機器の製品仕様には、プロセスの制限と制御が含まれ、それらが検証されると、機械的統合性や耐久性、化学的分解性、滅菌性といった特徴が高いレベルの信頼性の上で評価することができる。

積層造形による製品の単一性とカスタムメイドの性質は、洗浄や包装、滅菌プロセスのようなパラメータも含め、例えばインプラントのように大きさや形状を変えることによって、そのインプラントの経年劣化などによる分解性に大きな影響を与えるものではないことを示すことを難しくしている。

積層造形による製品に対する非破壊技術の開発を含む、検査および試験の標準方法を確立することが考慮されなくてはならない。これらの方法は世界の医療機器産業界で国際的に受け入れられるものである必要がある。

要旨

積層造形と3Dプリンティングは医療技術界で大きな注目を集めているが、このようなイノベーションは科学的知識と安全性への配慮にしっかりと支えられることが不可欠である。科学と技術を両立させて積層造形による機器を製品化する際には、この記事で言及したポイントを考慮に入れていただきたい。

著者紹介:James Pink氏はNSF Health Sciencesの医療機器担当副社長

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