3Dプリンティングの医療機器への応用の現状

医療機器の分野で3Dプリンターが注目されている。Worrell Design社のDerek Mathers氏が3Dプリンターがどのようにして次世代の医療機器を生み出すかを説明する。

By: Derek Mathers, Worrell Design(オリジナルの英文記事はこちら

Googleは超高性能ウレタンを使う高速CLIP(連続液界面製造)プロセスの製品化を進めているCarbon社に1億ドルを投資。ジョンソン・エンド・ジョンソンは医療機器についてGoogleと提携関係にある(Image courtesy of Carbon)

あるハイチの村では妊婦のために臍帯クランプが必要だが、最小の購入ロットである1万個を買うことができない。長く、骨の折れる膝前十字靭帯(ACL)修復処置に苦労している整形外科医は、複雑なツールを簡素化し、手術をスピードアップする必要性を感じている。稀な仙骨癌と診断された中国人男性は、癌のある骨の代替となる耐久性の高い特注の骨を必要としている。

このようなシナリオでは、3Dプリンティングは理想的な製造方法であり、近い将来に医療機器や医療用補装具、医薬品を製造する主流の技術になるだろう。3Dプリンティングがもっとも活躍するのは、患者個人の解剖学的特徴に適合する複雑な形状を再現する場合である。このデジタル革命は次の3つの潮流によって推進される。それは、医療機器の3Dプリンティングについての臨床的エビデンスの構築機能的材料を使用する新しい3Dプリンティング・プラットフォーム安全性と品質を保証するための新しいFDAの枠組である。

医療用3Dプリンティングでイノベーターが直面しているもっとも大きな困難は技術的な問題ではなく、経済的な問題である。2016年1月時点でFDAが3Dプリンティングされた医療機器と医薬品の剤型を85も認可しているという事実にもかかわらず、3Dプリンティングされた製品に対する保険償還はほとんどが未定である。3Dプリンティングされた製品が保険償還を受けるために、業界と学界は、患者への便益とコスト抑制を証明するしっかりとした臨床的なエビデンスを作り上げるべく連携しなければならない。臨床研究で結果を示すためのカギとしては、患者に対する成果の全般的な改善、試作および機器の製造で3Dプリンティングを用いる場合の全体的なコスト、料金改定、侵襲度があげられる。米国と欧州はすでにこの分野で後れを取っている。最近、日本の厚生労働省は、外科的手術の大部分において術前モデルとして3Dプリントされたモデルの使用を保険適用とすることを発表した。次世代の3Dプリンティングの医療応用は次の要因によって支えられるだろう。それは、保険償還のための客観的な臨床的エビデンスと、有望な次世代3Dプリンティング・プラットフォームである。

この1年の間に2つの大企業が3Dプリント業界に乗り出し、新たなプラットフォームを導入した。Googleは1億ドルをCarbon社に出資し、同社の超高性能ウレタン素材を使用する高速CLIP(連続液界面製造)プロセスを製品化することを目指す。また、ヒューレット・パッカード(HP)は同社の1,100億ドルの事業を分割し、1つの部門は一般ハードウェアと3Dプリンティング、もう1つの部門はエンタープライズ・サーバーとストレージに注力する。この戦略は、わずかな時間とコストでSLSクラスのパーツを作製できる同社のマルチジェットフュージョン(MJF)3Dプリンティングの製品化を促進すると考えられている。CLIPとMJFのプラットフォームがターゲットとするのは12兆ドルといわれる製造業、ストラタシスと3D Systems社がターゲットとするのは基本的に100億ドルといわれる世界のプロトタイプ産業である。

最近、ジョンソン・エンド・ジョンソンはHPCarbon社の両社と独占的な提携関係を発表したため、それに対して競合他社の多くがその流れに続くことが予想される。医療機器の設計者が高速・高性能の3Dプリンティングプロセスを選択しはじめると、新たな3Dプリンティングの応用の動きが現れて、製品化が進むのは不可避だろう。患者の安全性と機能性を保証するべく、FDAはガイダンスの枠組を作成するために医療用3Dプリンティング技術の最前線にあることを自負している。

最近、FDAは3Dプリンティングによるマス・カスタマイゼーションに必要な設計、材質、品質上のコントロールを理解することに注力している。5月にFDAは3Dプリンティングによって製作された医療機器のためのドラフト・ガイダンスを発表し、機器の設計、ソフトウェアのワークフロー(DICOMから3D CADまで)、材質のコントロール、評価項目に関して、技術的に考慮すべき点を含む、市販前申請に必要な追加情報を概説している。このドラフト・ガイダンスにより、顧客が進める個別化医療(personalized medicine)において、Worrell Design社のエンジニアリング・チームが新しい問題に対処できることを私たちは歓迎している。

人体は正常に動くためには構造的な強さと複雑な構造が求められる電気的、化学的、力学的な組織である。近い将来、3Dプリンティングは低コストで高解像度の等方性パーツを作り出せる機能的に強固な材料を活用できるようになるだろう。次世代の3Dプリンターでは、患者に適合する機器を個別的に作製できるアルゴリズムを使用することに加え、有機的構造を処理するためにソフトウェアの改善が求められるだろう。強固な臨床的エビデンスと新しいドラフト・ガイダンスによって、この産業は保険者が全般的にコストを削減できる新しい魅力的なソリューションになるだろう。患者にとっては、人体の個別の解剖に基づき、見た目にも満足できるバイオミメティックの3Dプリントされた機器によって、究極的には寿命を延長し苦痛を軽減できることになる。Worrell Design社では皆、このような技術の最前線で働くことを楽しんでいる。

著者紹介(写真): Derek Mathers氏はWorrell Design(本社:米・ミネアポリス)のR&Dディレクター

 

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