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細く、しなやかな人工筋肉

細く、しなやかな人工筋肉

By: Medtec Japan編集部

東京工業大学工学院の鈴森康一教授、岡山大学大学院自然科学研究科の脇元修一准教授らは、鈴森氏が前任の岡山大学に所属していた2011年よりマッキベン型人工筋肉の研究開発を開始し、株式会社池田製紐所(本社:岡山県倉敷市)と協力で、これまでより細く、しなやかな人工筋肉の開発に成功した。

:ゴムチューブの外周にメッシュを編んだ構造で、ゴムチューブ内部に空気を送ることで軸方向に収縮する。原理は1960年頃に米国で開発された。現在のところ唯一実用レベルの力や収縮力が得られている人工筋肉。

その後も、東京工業大学と岡山大学が共同で細径人工筋肉の基礎特性と応用に関する研究を進めてきたが、アパレル、福祉介護用具、ロボットを扱う多くの企業や研究者から、この人工筋肉を使いたいという要望を受けたことから、4月1日に東京工業大学と岡山大学発のベンチャーとして、池田製紐所と株式会社コガネイ(空気圧機器の提供、本社:小金井市)の協力のもと、株式会社s-muscle(エスマスル、本社:倉敷市)を設立し、細径人工筋肉の設計、製造、販売、用途開拓を開始する。7月よりサンプル出荷を開始する。

鈴森氏は、油圧を使うタフロボットや各種アクチュエータ、自走式の大腸内視鏡に応用可能なソフトアクチュエータなどを研究してきたが、人工筋肉の開発のきっかけとなったのは、小型ロボット用の筋肉を開発できないかと企業から相談を受けたことだった。マッキベン型人工筋肉に着目し、より細径で収縮力を高めるにはゴムチューブに巻く繊維の編み方(製紐技術)や材質がカギになると、服飾・産業用の組紐を製造する池田製紐所と協力して開発を進めた。

倉敷には繊維業の伝統があるが、国内繊維産業の衰退から製紐業界では新しい分野に進出しなければ生き残れないという危機感があった。池田製紐所では人工筋肉という新しい研究開発に積極的に取り組み、ヒモを編む際、顕微鏡で見ながら角度を調整するなどの試行錯誤を行い、求められた性能を達成した。

従来市販品の外径10~40mmに対して、今回の細径人工筋肉では外径2~5mmで収縮率20~25%、最大収縮力は1cm2当たり約30kgfを実現。

空気を入れる前(左)と空気を入れた後(右)

複数の人工筋を束ねることで様々な筋肉を構成できる(上写真)。また、布状に織ることでサポートスーツなどへ応用が考えられる。サポートスーツの試作モデルでは空気を送ることで人工筋肉が収縮し持ち上げ動作をサポートする(下写真)。

背中と腰部の人工筋肉が持ち上げ動作をサポート

研究室は大田区と東京工業大による「戦略的イノベーション創造(SIP)プログラム」〔国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が委託事業として公募〕に参加しており、サポートスーツを大田区の工場や羽田空港での作業に生かせないかを検討したこともある。また、金属を使わないため機能的MRI(fMRI)と組み合わせたヒトの運動機能の研究にも使われた。

人体型ロボットの模型。解剖書や整形外科医のアドバイスを参考に人工筋肉を人体を模して取りつけた

これまで医療用や介護用で開発されたロボットスーツは、サポート機構が人体の外にある外骨格型で、「重く」、「堅い」のに対し、よりソフトで着心地のよいサポートスーツを構想している。さらに、人工筋肉自体が力を発生しサポートを行うため、内骨格型と呼ばれるゴム製のサポートウェアとも位置づけが異なる。

今後、企業や研究者に利用してもらう中で、製品開発や研究など用途開拓を含め、新たな開発に貢献したいと考えている。

 鈴森康一 教授に聞く

──もっとも苦労された点は?

細径化しながらも収縮力を高めるための繊維の編み方と材質です。ゴムチューブの材質はシリコンゴムですが、コストが高い点と耐久性が問題で、新しい素材の可能性も検討しています。

──どのようなロボットを構想されていますか?

産業用ロボットなどの従来のロボットは機械相手だったため、力や速度、位置決め精度、堅牢性といった点での高機能化が求められてきました。今後、人間に接して人間とともに使用するロボットを考えると、これらの機能性は必ずしも高く求められません。大きな力や速いスピードはかえって危険なこともあります。機能を絞ることにより、ソフトなロボットという、新しい視点が必要になると思います。今回の人工筋肉が、新しい発想によるロボットの1つのキーデバイスになればと考えています。

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