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書評:無理なく円滑な医療機器産業への参入のかたち 製販ドリブンモデル

書評:無理なく円滑な医療機器産業への参入のかたち 製販ドリブンモデル

本書の著者である柏野聡彦氏は、評者と師匠を同一とするいわば同門の友である。師匠とは、2012年8 月11 日に故人となった古幡博教授(東京慈恵会医科大学医用エンジニアリング研究室)であり、柏野氏とはお互い訪問研究員という形で古幡教授から指導を頂いた。ここでの指導とは、いわゆる研究指導ではなく、医療機器開発に携わるものとして心構えであり、フィロソフィーである。

古幡教授は『技術は病室まで!』を大学研究者の信条として掲げていた。「医療技術の成功」とは、医療現場に広くその安全で、有用な成果が安定に行き渡ったときにこそいえる。

つまり、世界の医療現場に供給でき、企業をして経済的に成り立たせる時こそ成功であり、医療産業を通して世界中のさまざまな医療現場に技術産生物が届いてこそ医療技術の成功であると考えていた。また、単に研究や論文発表のためにおこなっているのではないということを古幡教授は常々自分自身に言いきかせていた。

さらに古幡教授は、「医療機器開発の成功とは、どこまで来たら成功と言えるであろうか。治療現場に届かなくとも成功と言えるのであろうか。治験は終了したが、企業としては経済的に成立せず、医療現場に届けられなくても技術的には成功したと言い得るであろうか。医療機器の成功とは、医療現場に広くその安全で有用な成果が安定に行き渡った時にこそ言えるのではないか。

パイロットスタディや世界に1ヶ所にしかない技術開発にとどまるのであれば、成功の名を冠しえる医療技術・医療機器ではないであろう。世界の医療現場に供給でき、企業をして経済的に成り立たせた時こそ、医療機器の真の成功事例と言うべきである。」という考えのもと、日々の研究開発に励んでおられた。

柏野氏の提唱する「製販ドリブンモデル」の本質はここにあるのではなかろうか。すなわち、医薬品医療機器等法における製造販売業(製販)が事業化のドライビングフォースとなり、大学の技術、技術開発型ベンチャーの技術、部材・加工技術などを結集することで、日本のすばらしい技術を医療機器に集約させて“いのち”のためになる企業・産業を着実に構築していく。言い換えれば、従来ありがちであった研究開発テーマという位置づけで終わってしまう医工連携ではなく、事業化の成功確率を高めるための医工連携モデルの新形態を提案しているものと考える。

先述のとおり師匠を同一とするものの、実は柏野氏とは本当の意味での共同作業というものは過去一度だけしか行ったことがない。それが経済産業省の「平成22年度補正 課題解決型医療機器等開発事業(現在の医工連携事業化推進事業)」の事業管理支援法人に関する業務であった。本事業のスタートアップ、現在に通じる枠組みなどは柏野氏とともに相談しながら検討したものであり、現在の伴走コンサルの当初のアイデアはこの時点で考え出されたものである。

すなわち本書は、単なるシンクタンク研究員が思いつきで短期間に作成したものではなく、医療機器開発、医工連携に対するしっかりとしたフィロソフィーを持ち、豊富な実務経験を有する著者による日本の実情にあわせた医療機器参入のための実務書である。

医療機器産業へ参入を考える方、医療機器開発を行う研究者、地域支援機関、医工連携コーディネーターなどの全ての方にお読みいただきたい一冊である。

中野壮陛

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