医療機器基礎研究におけるCAE活用術

きたる4月24日(水)に東京ビッグサイトで開催されるMEDTEC Japanの医療用エレクトロニクス・プロトタイピング技術フォーラムでは、医療機器のエンジニア向けにCAEの活用術が学べる。

3次元CADをせっかく導入しても、基礎的な知識を習得せずにソフトを操作したのでは、ヒトのいのちに関わる機器を設計するのにあまりにもリスクが高い。今回は、図研グループ株式会社キャドラボ取締役 栗崎彰氏に「いのちを支える解析技術」として、CAEをいかにきちんと理解してうまく活用していけばよいかを分かりやすく解説して頂く。栗崎氏は長年、構造解析に従事し、CADやCAEの開発、多くの企業向けに設計プロセス改革コンサルティングや、設計者解析の導入支援をされてきた。特に設計技術者のために創案し、自ら講師をつとめるCAE講座「解析工房」が大人気となっている。この講座内容を、数式を一切使わずにまとめた著書図解:設計技術者のための有限要素法はじめの一歩」もアマゾンの工学基礎分野で常にトップ3に入っており、続編も請われて執筆中だという。本フォーラムでの講演時間は30分。今さら恥ずかしくて聞けない、でも知らないと大問題になりかねない重用ポイントを聞く絶好のチャンスといえる。

フォーラム開催前に、さまざまな企業によるCAE活用状況、医療機器メーカーの設計者に是非知っておいて欲しいポイントなどを伺った。


MEDTEC医療機器誌(以下、MEDTEC): 我が国の医療機器の基礎研究に必要な解析とは何でしょう?

栗崎彰氏(以下、栗崎氏):医療機器に限らず、日本は「スパイラル型」の設計(つまり、ユーザーの要求に基づいて仕様を決めて設計し、試作・評価する)というこの過程を何度か繰り返すやり方が主流です。

ところが米国食品医薬品局(FDA)は、医療機器の設計に昔ながらの厳しい「ウォーターフロー型」の採用を推奨しています。これは開発プロセスにおいて、滝の水の流れのように高いところから低いところに流れて後戻りを許さないという方式のことです。「ユーザーの要求」と「意図した用途」(要求定義)を出発点に、「設計」→「試作」を進めながら、実際の完成品を終着点として開発していくやり方です。

栗崎 彰氏
株式会社キャドラボ取締役

1983年より構造解析に従事し、I- DEASの開発元である旧SDRC日本支社、CATIAの開発元であるダッソー・システ ムズを経て現在に至る。多くの企業で3D CADによる設計プロセス改革コンサルティングや、設計者解析の導入支援を行っている。特に設計者のための講座「解析工房」が大人気だ。

FDAが「ウォーターフロー型」を推奨するのは、医療機器の開発において、何度も後戻りが許されるという甘さを許すと、後戻りして直す行為をおこなうために他がおろそかになる可能性があるからです。

つまり、それぞれの開発フェーズ(1.ユーザーからの要求、2.基本設計、3.詳細設計、4.試作、5.リアルな機器)において確実にドキュメントを残し、絶対に後戻りをするなというのが基本です。いのちを扱う医療機器であるからこそ、この各フェーズを確実に実施することが大切といえます。

そして、これを支えるのが、各フェーズでの検証(ベリフィケーション)と妥当性確認(バリデーション)、V&Vです。「検証」とは対象が仕様・設計・計画などの要求事項を満たしているかに関する確証作業をいい、「妥当性確認」とは対象の機能や性能が本来意図された用途や目的に適っているか、実用上の有効性があるかについての評価のことです。

この小さなスパイラルを各フェーズに取り込むV&Vの密度を上げるのに有効な方法が解析だと思っています。

MEDTEC: CAE導入をする企業は増えているようですが、あまり使いこなせていない印象です。何故でしょうか?

栗崎氏:解析技術は、未だこなれていない技術なのです。解析ツールを販売する人たちは誰でも使えるという触れ込みで売っていますが、3次元CAD設計・3Dモデリング・CAE各種ツールは、ピアノや車と同じで買っただけではきちんと動かせません。

経営層もツール購入(投資)をしたのだからすぐに成果を出せなどと、教育もせずに設計者にプレッシャーをかけるのは大きな間違いをおかすことになるのでよくないでしょう。

設計者も今さら人に聞けないという意地もあると思いますが、自動車であれば自動車教習所に通うように、解析ソフトに正しい数字を入力し、出力された結果をどのように評価すればよいのかを体系的に学ぶことは大切です。

特に、医療機器は、成人向けの歩行器や子供の玩具など、社会的弱者を強度によって守る製品よりも、さらにいのちに近い機器なので、V&Vを定量的にする必要があって、そのために解析は必須なのです。

「解析工房」を受講される設計者の方々の多くが、単純な単位計算、応力計算もできずにCADやCAEを使っているというこの現状はとても危険です。

江戸時代に橋を設計した職人は、もちろん橋の強度保証までしましたし、戦時中に零戦や戦艦を造った人も強度保証までしていました。最近は解析が難しいのでオリジナルなものを製作するのではなく、昔の製品で壊れていないものの図面をコピーして設計している人まで出て来ていて、CAD(コンピュータ支援設計)のCはコンピューターではなくコピーかと思うほどです。

昔通りの設計をしていればよかったのに、CADをフル活用すれば「生産性があがる」などのキャッチコピーにおどらされてコピー文化が蔓延してしまったのは嘆かわしいことです。コピー文化からはオリジナリティのある製品は誕生しません。

「解析工房」のCAE講座内容を、数式を一切使わずに分かりやすくまとめた栗崎氏の著書。アマゾンの工学基礎分野におけるベストセラーだ。

MEDTEC:「解析工房」では何が学べるのでしょうか?

栗崎氏:「解析工房」は通常3日間のプログラムで材料力学と有限要素法の基礎を徹底的に学んでいただきます。1つのプログラムが終わると私の体重は4kgも落ちます。しかし、身を削ってでも、解析に必要な座学を中心に、それを体系づけることで、解析に必要な総合的な知識を設計者の方々に身につけて頂きたい。そして日本の製造業に立ち直って欲しいというのが私の切なる願いです。

MEDTEC:今まで多くの企業向けにCAE導入の支援・コンサルをされてこられましたが、その中でも医療機器メーカーに特有の傾向などありますか?

栗崎氏:企業名はあえて出しませんが、診断系中型機器などは安全性を考慮しすぎて、過剰設計のような印象を受けます。過当競争に曝されていないので、いわゆる一般の製造業の設計者に比べてコストや納期面でそれほど改善の努力をしなくてもよいのか、問題意識が低いように感じます。

一方、電子部品がからまない医療器具の設計者は非常に熱心で、「解析工房」にも自社の製品を全部分解したものを持ち込まれ、更にコストを下げる方法に腐心されていました。かんざし職人のような技術が組み込まれており、これこそ日本が誇る技術を活かした製品といえるでしょう。そういった意味で、今後、医療機器も二極化していくのかもしれません。

MEDTEC:フォーラムの講演では何を中心にお話頂けるのでしょうか?

栗崎氏:導入部は先ほど申し上げたFDAのウォーターフロー型の設計思想と設計技法の話になると思います。なぜ医療機器の設計にはスパイラル型ではなくウォーターフロー型が好ましいかというと、製品には大きく分けると「健常者の製品レイヤー」、「社会的弱者のためのレイヤー」、「患者のためのレイヤー」と3つのレイヤーがありますが、医療機器はいのちに一番近いレイヤーなので、十分な強度保証が必要だからです。従って、V&Vのための基礎データを取りながら定量的に解析することが、医療機器設計の強い味方になるので、そのやり方についてのポイントをご紹介します。

副題に「いのちを支える解析技術 はじめの一歩」とつけたのは、本来の設計は、形を作るのは最後で、望ましい応力や変形になるようにCAE解析を使って形にしていくのが当然のことなのですが、それすら出来てない点を強調したかったからです。医療機器は、パチンコ台や歩行器、子供の玩具よりももっともっと信頼性の高い製品でなくてはならないので、懇ろに構造解析と設計と強度を螺旋状に絡み合わせて製品を設計してほしいのです。

又、日本の医療機器メーカーの設計には、ウォーターフロー型の変形であるV字型プロセスが合っているのではないかというお話もしたいと思っています。

MEDTEC: ウォーターフォール型とV字型とでは何が違うのですか?

栗崎氏:ウォーターフォール型は先にもお話したように上流工程(要求定義)から下流工程(最終解析)まで前工程に戻らないように意図したプロセスでした。FDAは各フェーズ(要求定義−>基本設計−>詳細設計−>試作)でのレビューの徹底も奨励しています。

V字型も基本的に上流から下流への工程はほぼ同じですが、試作まで流れを逆にたどって、それぞれのフェーズで検証します。これらの検証は上流工程と対応しておりV字を描くことができます。こうすることで全工程を対比できるので医療機器の設計プロセスに最適だと考えています。何度も繰り返しになりますが、形をいきなり作ることは重さと剛性を決定してしまうことで順序が真逆です。望ましい応力や変形になるようにCAEを活用して形を作るのが本来の設計のあり方だということをフォーラムでも強調してお話したいです。

栗崎氏の講演「医療機器基礎研究におけるCAE活用術」は4月24日(水)午前11:10〜11:40にMEDTEC Japanの医療用エレクトロニクス・プロトタイピング技術フォーラム会場で開催される。入場は無料。

<関連イベント>

株式会社図研(キャドラボの親会社)は、MEDTEC Japanにもブース出展する。約40年にわたりコンシューマーエレクトロニクスをはじめとした様々な業種の製造業向けに提供してきた同社の最新の製品・ サービスを医療機器業界向けにパッケージ化したものをブース(番号2205)で紹介する。

図研の「医療機器開発パッケージ」の内容は大きく分けて2つある。

(1)法規制準拠に向けたIT化に貢献するPLM

医療機器は法規制やガイドラインが他の製品に比べ厳しく、少しの設計変更でも資料の作成や提出が求められるなど設計付帯業務の負担が大きい。図研では、こうした法規制・ガイドライン準拠をIT化で支援するため、設計変更の多いエレクトロニクス設計に最適化されたPLMソリューション「DS-2」(電子記録・ 監査証跡)を提供し、付帯作業の軽減を実現している。

「DS-2」はCADのバックエンドにあたる管理系のシステムで、医療機器メーカーを含む国内外の企業で多数の導入実績を持つ製品だ。

(2)高度化する医療機器のエレクトロニクスに対応する設計ツール

医療機器も先端エレクトロニクス技術による高性能化・ネットワーク化が進んでいる。図研のCAD「CR-8000」は、医療機器メーカーにとって特にクリティカルなEMC(ノイズ特性)、SI(信号品質)、PI(電源品質)などのコンストレインツ(制約条件)に配慮した信頼性の高い設計環境を実現してい る。

これ以外にも、この「医療機器開発パッケージ」には同社がコンシューマーエレクトロニクスの世界で長年培ってきたノウハウにもとづいたコンサルティングや、EMC・マイクロ波関連の試験を行うためのラボの提供なども含まれるという。

医療機器メーカーの製品は、図研のユーザーが多いコンシューマーエレクトロニクス企業に比べ、耐用年数も比較的長く、製品サイクルもそれほど速くない。しかし、海外メーカーの台頭や、日本から海外へ進出する機会が増えるに従い、「設計プロセスの改善をはかりたいという医療機器メーカーからの依頼も増えている」という。(同社事業戦略室の平山 守室長)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図研ブース番号は2205。

栗崎氏の講演「医療機器基礎研究におけるCAE活用術」は4月24日(水)午前11:10〜11:40にMEDTEC Japanの医療用エレクトロニクス・プロトタイピング技術フォーラム会場で開催される。入場は無料。

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