ヘルスケアを病院から家庭へ:無線ECGパッチ

小さくて使いやすいセンサーが開発されていくに伴い、病院から家庭へと介護の非局在化に対する、個別および予防的なアプローチが可能になってくるだろう。 最近では、標準化された Bluetoothなどの低エネルギー技術と専用の超低消費電力 ECG システムオンチップ (SoC) の組み合わせた高性能ECG (Electrocardiogram;心電図) パッチが開発されている。従来の着用性、標準化、使用寿命に関するシステムの欠点も克服した作りとなっている。

Els Parton, imec, Leuven, Belgium; Julien Penders, Holst Centre, Eindhoven, Netherlands

スタンダードのBluetooth低エネルギー無線技術とエレクトロニクスを融合させたECG試作品。

心臓病は、現在も死に至る主要原因の1つに数えられている。 装着型心拍監視センサーは、日常生活の中で継続的な監視を確実に行うことができることから、心臓病患者にとって重要なツールになる可能性がある。 心拍数の監視は心疾患に対する正確な診断のため、救命の治療介入のために不可欠である。

本市場の大きな潜在力に鑑み、企業や研究機関は、関連製品や装着型心拍監視センサーの研究用試作品の開発を進めている。 装着型で使いやすく、バッテリ寿命の長い超低消費電力 (ULP) センサーシステムを作ることが、その開発目標である。

1カ月の使用寿命
Imec社(ルーヴェン、ベルギー) と Imec社がオランダのTNO (応用科学研究機構) と共同で設立した研究開発所、ホルストセンター (Holst Centre;オランダ、アイントホーフェン) では、装着型センサーシステムの技術開発が進められている。 つい最近、Bluetooth 低エネルギー (BTLE) 無線通信と ULP ECG 専用の超低消費電力 ECG システムオンチップ (SoC) を兼ね備えたECGパッチの研究用試作品が発表されたばかりだ。 標準化された BTLE 無線通信との統合は、センサーシステムの商業的な急成長を遂げるために是非とも必要な技術である。 今後新たに発表されるスマートフォンには BTLE 無線通信機能が搭載され、BTLE 対応型センサー機器間の通信が可能になるだろう。

新式の試作品は、革新的設計により低消費電力での使用が可能となっている。 ECG パッチは 400 mAh の Li-Po (リチウムポリマー) バッテリーを使用し、1 カ月間拍動を検出・計算して心拍数を送信することができる。

システム ビルディング ブロック

ECGパッチはAFE、ADC,DSPから構成されるミックスシグナルECGシステムオンチップをフルに活用している。(画像クリックで拡大)

ECGパッチのデモ用モデルの主要コンポーネントとしては専用のミックスシグナル SoC の ECG SoC (Imec) があり、 ECG SoC は 3つの主なビルディングブロックを持っている。

1つ目のコンポーネントであるアナログ フロントエンドは、1 チャネルのインピーダンス測定とバンドパワーの抽出により3チャネルの同時ECG監視をサポートする。

2つ目のコンポーネントは、12ビットのアナログ デジタル コンバーター(ADC)である。 この ADCはECGデータを5倍に圧縮でき、圧縮によってデータの処理や伝送で生じる電力消費を低減できる。

3つ目として、専用の超低消費電力デジタル シグナル プロセッサ (DSP) がオンボード信号処理のために使用されている。 そこで採用されているのは、SIMD プロセッサ アーキテクチャー、ハードワイヤードの加速ユニット、実効デューティ サイクル、命令キャッシュおよび、クロックゲーティング機構である。

このDSPは、追加の信号フィルタリング、ECGの特徴抽出、解析、モーション アーチファクトの除去により、マルチチャネルECGの処理を行う。

三軸加速度計も、このシステムに搭載されている。この加速度計は、ユーザーの活動のタイプやレベルを推測するために使用できる追加情報を提供する。関連のさまざまなセンサー測定値を組み合わせて、ユーザーの健康状態の全体像を提供するヘルスパッチの開発が、究極の目標である。

デモで使用されていたBTLE SoCは、テキサス・インスツルメンツ (Texas Intruments) 製だった。 それは、ECG と加速度センサーからデータを取得し、最新のスマートフォン (たとえば iPhone4S) など BTLE 対応デバイスにデータを送信するようになっている。 また、システム上でのデータロギングに microSD カードを使用することも可能である。システムへの電源供給には3.7 V/400 mAh の Li-Po バッテリーを使う。 サブシステムは、SPI (Serial Peripheral Interface) を介して接続されている。

各種アプリケーション用の再構成可能ECGチップ

ECGパッチの電池消費分布(画像クリックで拡大)


ECG SoC は複数のアプリケーション ドメインでの使用が可能な汎用性の高いプラットフォームを用意しており、各種動作モードと処理ニーズに合わせて構成することができる。

現段階ではSoCには、たとえばデータ収集や拍動検出といった各種動作モード機能が搭載されている。 このうちデータ収集モードのみにアナログ フロントエンドが実行される。 拍動検出モードでは QRS 群は、派生データやバンドパワー抽出に基づくアルゴリズムを用いて検出される。

ECGパッチデモ用モデルには、2 つの異なる動作モード機能が搭載された。 第1のモードでは、拍動検出はECG SoC上で実行され、心拍数は BTLE SoCを介して伝送される。 平均消費電流は3.7 Vで280 µAである。 400 mAhのLi-Po バッテリーで1カ月間の使用寿命を実現した。

第2のモードでは、ECGは256 Hzと3軸加速度計 (各加速度軸の周波数は 100 Hz) でサンプリングされ、データは BTLE によりワイヤレスでストリーミングされる。 このモードでは、消費電力は 3.7 Vで 5.9 mA、2.5日間の「自律性」を達成している。

ePatch 技術
この記事で言及されている ECG パッチ電子機器は、Delta (Hørsholm、デンマーク) 製 ePatch プラットフォームと統合されている。 ePatch技術は、センサー電子機器を統合するための生体適合性のある、モジュール式の頑丈な機械的ハウジングを提供する。 この技術を利用してつくられた ECG パッチデモ用モデルは、電子機器2つのバッテリーを含む ECG電極とキャップ付きの使い捨てパッチで構成されている。

今後の活動

BTLEなどの無線技術を利用することでセンサからデータをスマートフォンに送信することが可能となる。

Imec社とホルストセンターの研究者らは、この標準化プロトコルを最新のスマートフォンと接続できるようにするため、ECG パッチデモ用モデルにBluetooth低エネルギー無線技術を採用することを選んだ。 いつでもどこでもデータが自由に使えるということは、ユーザーにとっても医師にとっても重要なメリットである。将来的にはユーザーのニーズに合わせて、フィットネスと健康のためのアプリケーションという 2 本立てで開発を進めることができる。

BLE 無線通信機能とカスタマイズされた超低消費電力 ECG SoC の組み合わせにより、消費電力を非常に低く抑え、ユーザーが電池交換を必要とせず長時間確実に心拍数を監視できるようにしている。

ECG パッチに対するさらなる取り組みとして、今後はリアルタイムのアーチファクト低減、不整脈検出および健康状態監視用の回路とアルゴリズムに重点を置いていく。その後、新しい機能をパッチに追加して完全なヘルスパッチを開発する予定である。これに関しては、皮膚温、生体インピーダンス、イオン濃度のモニタリングについて研究されることになる。 さらには、システム用バッテリーの一層の小型化と寿命の延長を可能にして消費電力をさらに低減するために、関連規格と互換性のある超低消費電力無線技術も開発されていくだろう。 最終的には、新しい電子的統合技術が適合性システムへとつながり、装着型センサーの使用の快適さと受容度が大いに高まるに違いない。

企業と研究機関間の連携は、装着型センサーのアプリケーション向けに画期的なソリューションを実現し、将来のヘルス モニタリング製品としての開発を確実に成功させるためにも是非とも必要だ。 こうした理由から、Imec社とホルストセンターは業界の多数パートナーとともに、ULP装着型センサーに関する研究に携わっているのである。

本記事の初出は姉妹誌European Medical Device Technology, 2012年7月/8月号

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