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医療機器産業への参入を成功させる処方箋

ものづくり企業の優れた技術を医療機器産業にいかそうとする「医工連携」が盛り上がりをみせるなか、こうした企業が実際どのようにして医療機器産業で利益をあげていけるかという議論が始まっている。特にどのようにすれば効率よく医療機器分野に進出できるかが課題になっている中、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(以下、MURC)が今までの経験をベースに新しい医工連携モデルを考案した。

この新しい医工連携モデルは、医療機器製造販売業の業許可を持つ「製販企業」を核としたモデルで、先週10月4日に大田区(東京都)で開催された「医工連携参入セミナー(主催:公益財団法人大田区産業振興協会)」において詳しい内容の講演がおこなわれた。講師は本誌にも登場したことのあるMURCの柏野聡彦主任研究員で、どのようにすればものづくり企業が無理なく円滑に医工連携に取り組め、成果をあげられるのかという視点から問題提起と提案がおこなわれた。柏野氏に同セミナーの内容について詳しく聞いた。


医療機器製造販売の障壁

今回のセミナーでまず問題提起されたのは、「どうすれば医療機器製造販売の障壁(ハードル)を効率的に越えられるか?」というもの。そのハードルとして考えられるのは以下の5点だ。

①臨床現場との連携体制を構築し、維持していくこと

②臨床ニーズを的確に見極めること

③市場動向や法規制に対応した製品デザインを行い、開発すること

④薬事法に対応すること

⑤販路(およびメンテナンス体制)を確保すること

これらは特に新規参入を試みるものづくり企業にとって「非現実的なほど高いハードル」となることも少なくない。しかし、よく考えてみると、これらのハードルは、「製販企業(主として、医療機器製造販売業の業許可をもち、自ら医療機器を開発し、製造し、販路を確保して医療現場に届けている企業)」なら円滑に越えていけるはずのものである。そうであるならば、「製販企業を核とした体制を作り、そこに、ものづくり企業が参画する体制を作れたらうまくいくのではないか」という発想で、MURCは新しい医工連携モデル構築に着手したという。

そして下図1で示すように、ものづくり企業が「医工連携」を通して円滑に医療機器産業に参入する方法として、製販企業を核とした新しい医工連携モデル「製販企業ドリブン型・医工連携モデル(以下、製販ドリブンモデル)」を考案した。

図1:新モデル考案までの思考プロセス(問題提起から解決策まで)

 

製販ドリブンモデルの特徴

「製販ドリブンモデル」の最もわかりやすい特徴は、医工連携のチーム編成時に、まず「臨床現場」と「製販企業」とをマッチングし、その後で「ものづくり企業」をマッチングする点だ。これは、従来多くみられた「臨床現場」と「ものづくり企業」とを直接マッチングする方法と大きく異なる。

製販企業は市場環境と薬事法について精通しているため、臨床現場から臨床ニーズを受け取ったとき、「どうすればニーズを製品化できるのか」、「どうすれば多くの医療機関に売れるのか」、「どうすれば薬事を通しやすいか、そして収益が折り合うのか」を判断することができる。つまり、「医療ニーズに基づいて“売れる医療機器”をデザインできる」というのが大きな利点であり、「このノウハウの活用が医工連携の成功率を高めるポイントのひとつ」だと柏野氏は強調する。

逆に、こうしたノウハウを持たない「ものづくり企業」が臨床現場と直接やりとりすると、臨床現場とものづくり企業とでは圧倒的な知識の差があるために、ものづくり企業が医療従事者らの希望通りに研究開発を進める結果になりやすい。そのようにして開発された医療機器は、販路の確保ができないケース、つまり製販企業が扱ってくれないことも少なくないのだという。

ところが製販企業が臨床ニーズに基づいて「製品デザイン」した上で、製販企業からものづくり企業に対して機器開発に必要な部品・部材の仕様案を提示し、両者の「すりあわせ」によって最終的な仕様を決めるようにしていけば、仕様に対して高精度で対応できる。つまり日本のものづくり企業の得意技をいかした医工連携ができるわけだ。

「臨床ニーズ(臨床現場)」→「製品デザイン(製販企業)」→「ものづくり(ものづくり企業)」という流れをつくることで、事業化の可能性を飛躍的に高められるので、ものづくり企業にとっても「医工連携」を円滑に進めやすくなるのだという。

製販ドリブンモデルの実行ステップ

次に「製販ドリブンモデル」の実行ステップを簡単にみていこう。本モデルを実践する上では「地域行政機関」の役割がきわめて重要であるため、地域行政機関の機能を前提に検討されたモデルであると柏野氏は強調する。

【ステップ1:臨床ニーズの発掘】 医療機関が臨床ニーズを提供する。このとき、地域行政が代表して臨床ニーズの発掘にあたり、提供を受けた臨床ニーズは秘密情報として丁寧に扱う。

【ステップ2:製販企業とのマッチング】 地域行政が、臨床の医療従事者らと相談しながら、臨床ニーズと製販企業とをマッチングする。

【ステップ3:製品デザイン】 製販企業は市場の相場観と薬事法を踏まえて、臨床ニーズをもとに製品デザインを検討する。ここでは「製販企業が売りたいモノ」をデザインすることが最も重要となる。

【ステップ4:ものづくり企業や大学とのマッチング(チーム編成完了)】 製品デザインに基づき必要な技術をリストアップし、リストアップされた技術をもつものづくり企業や大学が、製販企業に不足している技術、資金、あるいは人材面で参画する。特に人材面での協力が製販企業に喜ばれることがある。

【ステップ5:研究開発資金の確保、研究開発の実施】 研究開発のリスクを軽減するために、国や地域行政機関の各種支援制度により研究開発資金を確保しつつ、研究開発を実施する。(代表例が経済産業省の課題解決型事業。年間6千万〜8千万円の委託費が3年間認められる)

地域行政機関がチーム全体をコーディネートし、チーム編成後は全体統括を医療機関が担い、製販企業が事業化リーダーとしてチーム全体を牽引していくという役割を担う。図2は、本モデルを大田区で応用するとした場合の一案だ。

図2:新モデルの構造と関係主体の役割ー大田区で行う場合の一案(画像クリックで拡大)

 

製販ドリブンモデルのメリット

医療機器産業に新規参入をめざす「ものづくり企業」が本モデルを導入した場合、以下のようなメリットがあるため、医工連携自体の裾野が大きく広がることも期待される。

医療機器関連の豊富な知識は不要:臨床ニーズの善し悪しの判断ができなくても、薬事法の知識や市場の相場観がなくても医療機器関連事業を進められる。製版企業との役割分担があり、自ら製造販売を行うほどの知識は求められない。

ものづくりに特化できる:新事業に果敢に挑戦する文化・土壌がない企業でも参加できる。製販企業から部品・部材の仕様が提示されるため、「すりあわせ」しながら仕様に忠実・高精度に部品・部材を納入るというかたちで、自社の得意な「ものづくり」に特化した医工連携ができる。

投資リスクを抑えられる:単独で新規事業を立ち上げるよりも、不確実要素を最小限にした投資をおこなえる。

従来事業への負担が少ない:製販企業から指示を受けるまで自社の既存事業に集中できる。

医療機器業界を効率的に学べる:将来の本格的な参入に向けて、製販企業の動きをみて学ぶことができる。事業を進めながら並行して学ぶことができる。

もちろん「製販企業」にとっても大きなメリットがある。製販企業にとってのメリットは自社の経営資源の制約を超えて、医療現場との共同研究をさらに広げられるのだ。これによって、これまでつながりのあった臨床現場とのパートナーシップ関係を強化するだけでなく、新たな臨床現場とのパートナーシップ関係を構築することができる。

パートナーシップ関係が構築・強化されれば、研究開発の対象となっている医療機器が完成するまでの間でも既存の製品群が売れる可能性もある。「少し極端な表現かもしれないが製販企業にとって臨床現場との共同研究は最大のマーケティングである」と柏野氏はいう。

さらに、このように、ある意味では既存の製販企業に研究開発資源を集中させ、製販企業の研究開発を活発化させるとともに事業拡大をさせていくことは、「わが国の医療機器産業の国際競争力を強化していくための最も効率的な方法であろう」と柏野氏は語る。

第一医科株式会社(文京区本郷)の林正晃代表取締役社長は「こうした取り組みが全国で行われるのであれば医療機器メーカーとして期待に応えたい」と積極的だ。さらに、「すでに全国の耳鼻咽喉科の先生方から医療機器の開発・改良ニーズを多数いただいている。今すぐ応えたいニーズも少なくない。そのような臨床ニーズを紹介するなど、こちらから積極的に協力することもできる」と語る。ものづくり企業や大学への期待については「社内の人員体制はすぐには拡充しにくいのが実状なので、人材面での連携があるとありがたい」という。

臨床の立場から医工連携に取り組んできた昭和大学歯学部歯周病学講座の山本松男教授は、「このようなモデルで医療現場の課題が少しでも多く解決されることに期待する」と本モデルを高く評価する。また知財の重要性を強調し、「大田区のような中立の機関に知財経験が豊富な人材がいて、ちょっとしたアイディアの活かし方などを相談できると大変ありがたい」という。行政機関のもつ中立性もポイントとなるようだ。

さらに山本教授は昭和大学のノウハウを地域の医工連携に役立てたいという。「昭和大学歯学部・歯科病院は大田区にある。全学をあげてチーム医療を推進してきた。これからも高齢社会における地域医療(訪問診療や病診連携)の豊富なノウハウをいかして大田区の医療と医工連携に積極的に協力していきたい」と山本教授も本モデルを利用した医工連携に前向きだ。

また、高い精密加工技術で日本のものづくりをリードする東成エレクトロビーム(東京都西多摩郡)の上野保会長も「製販企業ドリブン型」の医工連携モデルについて「医療機器分野への参入を希望するものづくり中小企業への良き道標である」と語る。同社は約5年前に参入の準備を始めたが、地元多摩地域や同社のテクニカルセンターがある福島県郡山で開催されるさまざまな医療機器関連フォーラムや産業支援ボードに参加する中で、薬事法など医療機器特有のハードルの高さ、事業化への道のりの厳しさをつくづく実感したという。

同社は、2009年4月に福島県から「医療機器製造許可証」を取得し、現在は福島県医療福祉機器研究会などを通じ地域のものづくり中小企業との連携を強めているが、「いきなり製造販売企業へのチャレンジはあまりにもハードルが高い」ことを身を持って体験しただけに、同じように参入をめざす企業には、この新しい医工連携モデルを推奨するという。

F-1や航空機部品など高い精度と信頼性を求められる分野で加工技術を磨いてきた同社だが、その強みをいかして今後も「医工連携することで、医療機器産業の活性化と発展に大きく貢献したい」と上野会長は意気込みをにじませる。

地域単位のシナリオ

ここまでメリットをあげてきたが「弱点」もある。それは臨床ニーズをベースに製品化に取り組むスタイルであるがゆえに、大学や企業の優れた技術をベースにした製品化がしにくいことだ。技術シーズがあっても、臨床ニーズをもとにしたプロジェクトでは、必要な要素技術を整理する過程で自社技術がリストアップされないケースも出てくることが懸念される。

そのようなやる気のある企業や大学のものづくり技術が活かせないという事態を回避するために柏野氏が提案しているのが「地域単位のコンソーシアム」の編成だ。

例えば、大田区であれば大田区産業振興協会が中心になって、区内の大学病院1施設あたり約200件程度の臨床シーズを収集し、そのなかから実現可能性と独自性の高いテーマ10~20件について、テーマごとにコンソーシアムを組み、1つのコンソーシアムあたり3~4社のものづくり企業とマッチングさせるというもの。1大学病院あたり30~80社の企業が医療機器開発プロジェクトに参加できるとなれば、自社技術を活用できるコンソーシアムがみつかるであろう、というのが柏野氏のシナリオだ。

「これらの数字はやや理想的な参考値であり今後の実証を経て精査していくが、マクロの視点で医工連携システムをマネジメントしていく発想も非常に重要」と柏野氏は力説する。参考値としつつも、今年7月に「青森ライフイノベーション戦略」のなかで弘前大学病院で臨床ニーズのヒアリングを実施した際に、約30名の医師から100件を超えるニーズの提供を受けた経験をベースに算出されている。

製販企業ドリブン型の医工連携モデルを全国に先駆けて推進している青森県の村下公一氏(新産業創造課ライフイノベーション戦略担当)は、「青森県では次世代の経済成長を牽引する産業としてライフ分野を重視し、その具体的な方針を示すべく昨年2011年11月に『青森ライフイノベーション戦略』をとりまとめた。

この中で3つの重点分野を設定したが、「特に『医工連携分野』を重視している」と地域経済における医工連携の重要性を強調する。

医工連携の推進については「戦略の具体的実現に向けて医工連携に取り組んできたが、県内の製造業が単独で医療機器産業に参入することは難しいとわかってきた。(今回のモデルにあるように)早期の事業化を目指すためには最初から医療機器メーカーの協力を得ることが重要」という。そして、「弘前大学の膨大な臨床ニーズから、青森県は医工連携のポテンシャルが実は高いことがわかった。今後、医療機器メーカー、独自技術等をもった地元中小企業等とのマッチング活動を進めていく」と、期待と自信をにじませる。

製販ドリブンモデルの対象となる医療機器

ちなみに、「製販ドリブンモデル」の対象となる医療機器としては、ものづくり企業の時間軸を意識して主として「3年以内に事業化できるもの」が対象になるという。「臨床的には改良改善ニーズに応え、技術的には既存技術シーズで実現できるもの」(柏野氏)を想定しているという。

外部機関の活用

さらに「製販ドリブンモデル」による医工連携を効率よく進めるに、外部の専門機関の積極活用も得策だと柏野氏は指摘する。ノウハウを蓄積しているMURCのような民間コンサルタントもさることながら、「日本医工ものつくりコモンズ」や「NPO法人医工連携推進機構」などと連携することで、国内外の大学や企業とのマッチングを円滑におこなえるという。

日本医工ものつくりコモンズは、医療現場とものつくり現場の融合を目的に2009年11月に設立された組織。13の医学系と工学系の学会が連携しており、医工開発研究チームの応援、医学・工学のネットワークの整備・情報共有と意見交換の場の提供、さまざまなセミナー・シンポジウムの開催、規制・審査に対するガイドラインを提言するなど活発に活動している団体だ。

医工連携推進機構は、医工連携を通じて医療機器開発の促進及び国民への医療サービスの高度化を目指す目的に2007年10月に設立された組織。医療機器・バイオ技術など先進医療技術の開発における課題や必要な政策などの研究、医療機器に関する調査研究、各種セミナーや医工連携マッチング交流会の開催など医工連携コーディネートを中心に活動している。

医工連携推進機構の森尾康二理事は「当機構が運営する医工連携コーディネータ協議会には多くのコーディネータがいる。そのノウハウを積極的に活用してほしい」とノウハウの活用を促す。また、医工連携は「“臨床の現場で役に立ち真価が認められるものであること(臨床的価値)”が他の何より優先する」としたうえで、「次に“出口”、これまでの医工連携は出口戦略に欠けていた。このようなモデルで出口からおさえていくことが大切だ。」と強調する。そして、「製販企業から真に求められる企業は“光る技術をもち経営者に高い意欲がある企業”。そのような企業に積極的に参入してほしい」と話す。

「こうした組織には実力派コンサルタントが集まっており、バイオモニターならこの人、人工呼吸器ならこの人、というように各分野の専門コンサルタントを擁しているので、事業化達成率の向上がはかれる」(柏野氏)という。氏の提唱する「製販ドリブンモデル」も、医工ものつくりコモンズや医工連携推進機構をはじめとする専門家や多くの有識者・業界関係者の意見を取り入れて構築したものだという。

 図3: 日本医工ものつくりコモンズのフレームワーク (画像クリックで拡大)

 

次世代の経済成長を担う新規産業として注目されている医療機器産業への参入については、国内各地でその取り組みが広がってきており、「医工連携」という言葉も昨今、市民権を得てきている感が強い。元経済産業省医療・福祉機器産業室長の竹上嗣郎 東北大学教授も、今までの「これまで知らなかった医療機器産業に自社の強みを活かして参入し、その仕組みを知る」という勉強フェーズから「参入した上で、どのように販売して、儲けていくのか、そのビジネスモデルはどのあるべきか」という探索フェーズに入っているのではないかと指摘する。そのような問題意識に立てば、新モデルは医療機器産業の特徴を十分にとらえた新しいビジネスモデルの提案といえるし、多くの新規参入企業および既参入企業に対しても、多くの示唆を含んでいるわけだ。また、薬事審査や販路開拓の問題を解決しつつ、国際競争力ある製品を送り出すためには、しっかりとした知財戦略が必要であることは言うまでもない。「製販ドリブン」に「知財ドリブン」が加われば、強力なツールとなるだろうと竹上教授は語る。

MURCの柏野氏は経済産業省の進める「課題解決型医療機器開発」事業の初年度(2010年度)に「伴走コンサルティング」を提案・実行し、実証事業の事業化の加速させた実績がある。1年間で36のコンソーシアム、再委託先まで含むと180の契約を手がけ、さまざまなノウハウを蓄積した上で、「製販ドリブンモデル」による医工連携のチーム編成が効率的との結論に至ったという。現在は、医工連携で実質的に成果をあげていくための議論を喚起する意味で、全国各地でこのモデルを紹介する機会を求めているという。

近年、わが国では医療機器産業に対する期待が高まっており、国家や地域レベルで医工連携の取り組みが活性化している。こうした枠組みを活かしながら、医療機器の製造販売ノウハウを有する企業の力を最大限に活用した「製販ドリブンモデル」を導入することで、異業種の医療機器産業への円滑かつ効率的な参入が進むことが期待される。


製販ドリブンモデル」に関するお問い合わせは、MURC事務局(電話:03 6733 1625、電子メール:ikou[アットマーク]murc.jp)まで。

 

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