泌尿器科における生体適合材料の課題

導尿カテーテルおよびその他泌尿器科デバイスは、世界中で莫大な数が使用されている。しかし、それらを使用することで、患者が尿路感染を引き起こすリスクも増大している。このリスクを軽減するため導入されている技術に関するこの考察は、カテーテルの基本的な再設計を促している。

N. Morris, BioMed Centre, Bristol Urological Institute, Southmead Hospital, Bristol, UK

攻撃に対する防御

膀胱から尿を効果的に排出しながら、同時に細菌定着に耐性を持つ材料とデバイスの開発において、尿路は生体適合材料とカテーテルメーカーに困難な課題を突きつけている。泌尿器科デバイスに使用される材料には、ラテックス皮膜加工製品、シリコン、ポリ塩化ビニル等が含まれる。製造プロセスが粗雑であると、特に小穴周辺など表面が粗くなり、これらのデバイスに細菌の定着や感染が生じやすくなる。

バイオフィルム関連の感染は、その防止と根絶を目的とした多くの研究が行われているにも関わらず、泌尿器科デバイスの不具合の主要な原因となっている。デバイス設計、生体適合材料の組成、表面特性、薬物送達の改良を目的としたさまざまな戦略は、ほとんどの部分において、細菌およびそれらの多様な付着、宿主回避、薬剤耐性、生存戦略によって阻まれている。バイオフィルムの形成は微生物本来のライフサイクルの一部であり、微生物が何十億年にもわたって地球で生存し続けることを可能にした重要な戦略のひとつである。1

体内に埋め込まれた生体適合材料上でバイオフィルムが形成されるという事実は、単に表面に付着するという微生物生来の性向の延長であり、なぜそれを制御することが難しいのかをある程度説明している。さらに、泌尿器科デバイスに定着する有機体の大部分は皮膚と胃腸管から生じるため、ヒトの免疫防御システムにうまく順応して対応する。Morris 正常なヒトの尿路は、感染に対して尿路を保護するための数々の防御メカニズムがある。無菌尿による尿路の定期的な洗浄、病原性の細菌2 の定着を防ぐ乳酸菌などの有益な細菌の存在、そして尿管上皮として知られる滑らかな上皮層などが含まれる。

老化や病理過程、または医療機器の挿入などによってこれら宿主防御のいずれかの機能が停止すると、人は病原菌による定着と感染の影響を受けやすくなる。この事実は、膀胱から尿を排出するために使用されるフォーリー(Foley)留置カテーテルで顕著に示されている。カテーテルの使用は、通常尿を汚染するあらゆる細菌が洗い流されるようにしている周期的な充填と排尿機能を損なわせる。

カテーテルを保持するためのバルーンとバルーン上部の小穴の存在によって、膀胱の中で約100mLの尿液の沈滞が生じ3 、それが汚染を引き起こす有機体の栄養源として機能して、それらの成長と増殖を助けてしまう。尿は連続した滴としてカテーテルの小穴から排出され、これが汚染を生じる有機体に継続的な栄養源を提供する。 このため、留置カテーテルは膀胱と上部尿路の完全性を常に脅かすことになる。

設計規格

Calvin Kunin氏は、New England Journal of Medicine 誌の論説の中で、「より良いカテーテルを作ることができるのか?」という質問を投げかけている。4

機器メーカーにとっての大きな課題は、尿路にその正常な生理的および機械的特性を維持させることができるデバイスの製造である。これには、尿道の完全性を維持できるように、薄肉で継続的に潤滑される、折りたたみ可能なカテーテルの設計が必要であると Kunin氏は提案している。さらに保持用バルーンを、尿液を集めることなくデバイスを適所に保持し、膀胱の正常で間欠的な、完全に膀胱を空にする働きを維持できるメカニズムに代替する必要がある。

このような新しいデバイスは製造がより困難であり、そのためより高価になることは間違いないが、それらがカテーテル関連尿路感染症 (CAUTI) の発生を減少させ、尿路の完全性を維持できるのであれば、投資の価値があると言えるだろう。

市場の規模

北米単独でも、尿道カテーテル、尿管ステント、人工陰茎を含む尿路デバイスが毎年1億以上挿入されており、これによって毎年数百万のデバイス関連の感染症が引き起こされ、何十億ドルもの医療費が費やされている。5 これらのデバイスは、細菌が定着してバイオフィルムを形成できる新たな非宿主表面を提供する。

例えば、外科手術の間に尿量を監視するために尿道カテーテルを使用する場合など、短時間の尿道カテーテルの使用は、細菌がカテーテルに定着してバイオフィルムを形成するには時間が足りないため、通常尿路感染を引き起こすことはない。しかしながら、尿閉や失禁のため長期間のカテーテル法を受ける患者では、再発性の尿路感染が一般的である。感染のリスクはカテーテルがその場所にある時間の長さに関係する。この割合は、1日当たり3%6 と算出されており、実際は行き届いた介護があっても、28日間を超えてカテーテル法を受けている患者すべてに尿路感染が発生する。7

長期間のカテーテルおよびステント感染に関わる主な細菌種は、大腸菌、緑膿菌、肺炎桿菌、ミラビリス変形菌、表皮ブドウ球菌、大便連鎖球菌、黄色ブドウ球菌である。これらの有機体は、患者の胃腸管から一般的に分離されるため、継続的な細菌源が提供され、感染を排除するためにデバイスを交換したり、患者に抗生物質を投与したりしても、再感染を生じる。

限られた性能 尿路感染は医療機器の性能にも影響することがある。長期の膀胱留置カテーテルを受けている患者の介護における主な合併症は、カテーテル上の結晶性細菌バイオフィルムの沈積である。この外被が膀胱の粘膜に外傷を引き起こし、カテーテルを通る尿の流れを妨げ、患者に悲惨な結果をもたらす可能性がある。8 問題はウレアーゼを生成する細菌、特にミラビリス変形菌によるカテーテルを装着した尿路の感染から引き起こされる。

これらの有機体がカテーテルの表面に定着し、多糖類マトリクスに埋め込まれたバイオフィルム共同体を形成する。 細菌性ウレアーゼが尿素からアンモニアを発生させ、尿とバイオフィルムのpHを上げる。これらのアルカリ性条件下では、リン酸アンモニウムマグネシウム(ストルバイト)とリン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)の結晶が形成され、細胞を囲む有機基質に閉じ込められる。この結晶質が継続して形成されると最終的にカテーテル内腔を塞いでしまう。9

実験では、現在利用可能なカテーテルはすべて、カテーテルが製造されている材料の如何に関わらず、ミラビリス変形菌バイオフィルムによる外被形成と閉塞に弱いことが示されている。10

コーティング戦略

泌尿器科デバイスにおけるバイオフィルムの防止と処理は、生体適合材料への細菌の付着を妨ぐことを目的として、生体適合材料自体の表面特性または表面コーティングの開発と塗布に焦点が置かれている。泌尿器科で最も研究されている表面コーティングは、銀で被覆した尿道カテーテルであり、20年以上実際に使用されている。銀の広域スペクトル抗菌効果は長年にわたって知られており、かつ研究では複数の酵素過程11の妨害と膜不安定化によって細菌に作用することが示されている。12

一部の研究は、銀酸化物でコーティングされたデバイスではなく、銀の合金が有効であり、CAUTIの割合を最大45%低下させることができたと主張しているが13,11、きちんとした統計データで裏付けられた研究を見つけることは困難である。このため、銀でコーティングされた尿道カテーテルが、CAUTIの減少に効果的であるか否かは未だ明白ではない。5 細菌の定着抑制を目指し、ゲンタマイシン、セファゾリン、ニトロフラゾンなどを含む多様な抗菌剤が泌尿器科デバイスにコーティングされている。14,15,16,17 臨床研究ではさまざまな結果が示されており、この結果に加えて短い溶離期間と抗菌剤耐性に対する懸念から、この種の研究は制限されている。

多くの消費者向け製品および医薬品製品で広く使用されている広域スペクトル殺菌剤であるトリクロサンは、細菌の脂肪酸生合成を妨げ、膜不安定化を引き起こす。トリクロサンを含浸させた尿管ステントと導尿カテーテルの研究が行われており、結晶性バイオフィルムの最も一般的な原因であるミラビリス変形菌は、特にこの殺菌剤の影響を受けやすいことが分かっている。カテーテルを装着した膀胱の実験モデルの使用によって、トリクロサン18がすべてのシリコンカテーテルのバルーンを通して拡散し、尿中の生存能力のある細菌性細胞の数を大幅に減少させ、尿のpH上昇を防ぎ、カテーテル上での結晶性バイオフィルムの形成を抑制することが示されている。

カテーテルバルーンを通して直接薬剤を膀胱に送達するこの戦略は、閉鎖式ドレナージシステムを妨げず、新しいカテーテルの製造を必要とすることもなく、直接膀胱と感染の増殖巣に活性薬剤を送達することができる。そして今、繰り返しミラビリス変性菌での感染と外被形成に関連する問題で苦しむ患者におけるトリクロサンの有効性を臨床実験で確認する必要がある。

完全な再設計

現在の泌尿器科デバイスに関連する合併症の多くに打ち勝つためには研究開発が不可欠である。長期間の導尿カテーテルの使用に起因する患者の罹患率と医療システムに生じるコストは容認できるものではない。単に細菌付着を抑制する抗菌性化合物やコーティングを適用するだけでは、細菌の定着に対していかなる長期的な効果も見込めない。このため、カテーテルの基本的な設計を研究する必要がある。より平滑な表面、より良い小穴、より広い内腔は、カテーテルの性能向上につながる。膀胱の完全な排尿と、尿の沈滞を防止し、膀胱の正常な周期的充填と排尿を維持するためのメカニズムを導入するには、デバイスの再設計が必要である。これは軽視されがちな医学領域での大きな課題である。

参考文献

1. J. W. Costerton, The Biofilm Primer, Springer, New York, New York, USA (2007).

2. J.W. Costerton, “The Microbiology of the Healthy Human Body,” in The Biofilm Primer, Springer, New York, New York, USA, 107–127 (2007).

3. M.M. Garcia et al., “Traditional Foley Drainage Systems - Do They Drain the Bladder? Journal of Urology, 177, 1, 203–207 (2007).

4. C.M. Kunin, “Can We Build a Better Catheter?” New England Journal of Medicine, 319, 6, 365–366 (1988).

5. S.M. Jacobsen et al., “Complicated Catheter-Associated Urinary Tract Infections Due to Escherichia Coli and Proteus Mirabilis,” Clinical Microbiogical Reviews, 21, 1, 26–59 (2008).

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7. CM Kunin, “Urinary Tract Infections: Detection, Prevention and Management,” 4th edition, Lea and Febiger, Philadelphia, Pennsylvania, USA, 245–249 (1987).

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9. N.S. Morris et al., “The Development of Bacterial Biofilms on Indwelling Urethral Catheters,” World Journal of Urology, 17, 6, 345–350 (1999).

10. N.S. Morris and D.J. Stickler, “Which Indwelling Urethral Catheters Resist Encrustation by Proteus Mirabilis Biofilms?” British Journal of Urology, 80, 1, 58–63 (1997). 11. R.M. Slawson et al., “Germanium and Silver Resistance, Accumulation and Toxicity in Microorganism,” Plasmid, 27, 1, 72–79 (1992).

12. P. Dibrov et al., “Chemiostatic Mechanism of Antimicrobial Activity of Ag(+) in Vibrio Cholerae,” Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 46, 8, 2668–2670 (2002).

13. K. Davenport and F.X. Keeley, “Evidence for the Use of Silver Alloy Coated Urethral Catheters,” Journal of Hospital Infection, 60, 4, 298–303 (2005).

14. V. Ditizio, “A Liposomal Hydrogel for the Prevention of Bacterial Adhesion to Catheters,” Biomaterials, 19, 20, 1877–-1884 (1998).

15. T. John et al., “Antibiotic Pretreatment of a Hydrogel Ureteral Stent,” Journal of Endourology, 21, 10, 1211–1215 (2007).

16. J.L. Pugach et al., “Antibiotic Hydrogel Coated Foley Catheters for Prevention of Urinary Tract Infection in a Rabbit Model,” Journal of Urology, 162, 3, Pt 1, 883–887 (1999).

17. J.R. Johnson et al., “Activities of a Nitrofurazone-Containing Urinary Catheter and a Silver Hydrogel Catheter Against Multi-Drug Resistant Bacteria Characteristic of Catheter Associated Urinary Tract Infection,” Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 43, 12, 2990–2995 (1999).

18. D.J. Stickler et al., “Control of Encrustation and Blockage of Foley Catheters,” Lancet, 361, 9367, 1435–1437 (2003).

 

Nicola Morris PhD is Research Manager at the Bio¬¬Med Centre, Bristol Urological Institute, Southmead Hospital, Bristol BS10 5NB, UK, tel. +44 117 959 5540, e-mail:nicola_morris@bui.ac.uk www.bui.ac.uk

本記事は、European Medical Device Technology、2010年1月、第1巻、第1号に掲載されました。