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トップインタビュー[片山國正氏]

トップインタビュー[片山國正氏]

MEDTEC Japan2011国際会議・座長 片山國正氏

「医療機器産業の成長に向けて」

日本の医療機器産業力の低下が懸念されて久しい。過去25年間で国内の医療機器市場規模は2倍以上の2兆2,200億円まで成長したものの、輸入金額が約5倍に増え、国内企業の低迷をよそに海外企業の台頭が目立つ。 6月29日・30日にパシフィコ横浜で開催される「MEDTEC Japan2011」(医療機器の設計・製造に関する展示会)の国際会議の座長を務めるテルモ研究開発センター統轄付担当部長の片山國正氏に日本の医療機器産業の現状、課題、今後の展望について聞いた。


『医療設計&製造技術』(JMDMT): 日本の医療機器産業の世界的プレゼンスが下がっている原因は?

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(写真提供:日刊工業新聞社)

片山氏 「従来よく言われてきたのは、未承認医療機器の臨床研究の問題。医療機器は薬と違って、改良・改善でモノを作る。ところが承認申請して評価された後、一部改良すると改めて承認を取り直さなければならず、常に再申請の苦労を伴い時間も余計にかかる。

アメリカではIDE(investigational device exemption)という治験医療機器に対する一部規則の適用免除の制度があり、簡単な手続きで未承認の機器を評価できるが、日本にはそのような体制が無く、これが医療機器の前進を阻む大きな障壁の一つとなっている」 「ただ、医療機器開発を川の流れに喩えると、これは(製品完成直前)の下流に関わる問題で、本質的には最上流にも問題がある。

すなわち、絶対的な医師不足と医師の工学的センスの欠如。まず日本の医者は寝る時間もなく臨床に追いまくられており研究する時間的余裕がない。それから医師に最先端の機器を生み出す理工学的教育がほとんどなされていない。

米国では医学部に進む前に理工系などの学部を履修しており、工学的センスのあるドクターが多い。彼らが自ら必要な医療機器を開発してベンチャー企業を興す例も少なくない。このような画期的な機器を生み出す土壌が日本に育っていないのが大きな問題と考えている」

 

JMDMT そうなると医学教育や医療体制に至るまで国家レベルの改革が必要では?

片山氏 「日本医療機器産業連合会(医機連—片山氏は前技術委員長)では、製品開発の最終段階(許認可・承認プロセスなど)に重点を置いて政府に提言をしてきたが、これからは開発の基礎となる人材育成に取り組むことも求めていく。昨年11月30日に政府は医療イノベーション会議(議長=仙谷由人官房長官)の初会合を開催したが、医療機器産業界の立場からの意見を聞く場が作られたのは大変有り難いこと」

JMDMT 国の支援体制に変化は出てきているのか?

片山氏 「今まで革新的医療機器についての開発への予算はつきやすかったが、実際は地道な改良改善を施すことで患者の安全が確保される。例えば、医療機器がからむ医療事故でもっとも多いのは人工呼吸器。装置本体だけでなく呼吸回路や操作、医療行為を含めてトータルに安全確保をする必要がある。

今回、経済産業省が2010年度の補正予算、2011年度の概算要求で、それぞれ30億円を“課題解決型医療機器の開発・改良に向けた支援事業”として予算をつけてくれたが、この予算で人工呼吸器の課題解決にも着手されることが期待される。こうした動きが医療機器産業力の向上に結びついていくと思う」

エバハート(提供)

2010年12月8日に薬事承認を取得した純国産補助人工心臓エヴァハート(サンメディカル技術研究所提供)

JMDMT 治療系医療機器は特に輸入品が多いが、機器の安定供給への取り組みにも尽力されている。

片山氏 「例えば、心臓ペースメーカーは100%輸入品で、何か輸送手段が途絶えたら非常に困る。心臓ペースメーカーの国家プロジェクトの責任者を8年やったが、常に国産品を作るべきだと主張してきた」 「昨年12月に国産初の埋め込み型の補助人工心臓「デュラハート」(テルモ株式会社)と「エヴァハート」(サンメディカル技術研究所)が製造販売の承認を得たが、人工心臓は重要な生命維持装置として世界的に開発研究状況がオープンになっていたことと、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の定める開発ガイドライン、厚生労働省の評価ガイドラインの中の一つとして高機能人工心臓システムが決められていたため合意形成がうまくいった。症例6件で早期承認に結びついたのは画期的なこと。ただ、合意形成ができていない機器については臨床の症例数も多く要求され、デバイスラグ

12月8日に製造販売承認を受けた左心補助人工心臓システム『デュラハート』(テルモ株式会社提供)

同じく12月8日に製造販売承認を受けた左心補助人工心臓システム『デュラハート』(テルモ株式会社提供)

の解消はとても一朝一夕には出来る状態ではない」

JMDMT 「デュラハート」はデバイスラグ解消の成功例だが、実際は承認の遅い日本を避け、2004年に欧州で臨床を開始している。

片山氏 「今でこそ日本では“医療機器の審査迅速化アクションプログラム”が進んでいるが、実用化へのハードルはまだまだ欧州のほうが低い。日米は規制として政府当局が医療機器を承認するが、欧州は第三者認証制度が導入されており、基本的には機器メーカーの自己責任。結局、患者の安全のために大事なのは市販後調査。これは、薬と医療機器とで全然違う」

JMDMT 医薬品医療機器総合機構(PMDA)では審査員を2013年までに現在の倍以上の104名に増員予定だ。

片山氏 「増員予定人数でも、1,000名近い要員でやっている米国のFDAと比較すると一桁違うので、もっと増員しないとデバイスラグは解消しない。また最先端の医療機器であればあるほど判断基準の前例がなく、何か問題がおきたら大変ということで承認がされにくい状況」 「審査員の専門知識も重要。薬学系の知識を有する人材だけでなく医療機器系の人材も増やしているがまだまだ足りず、産業技術総合研究所との人材交流もまだ数名程度にとどまっている」

JMDMT 停滞気味の医療機器業界だが、新規参入の余地がまだまだある産業としても注目されている。

片山氏 「中小企業で優れた技術を持っているところは多い。自動車部品メーカーの朝日インテックによるカテーテルのガイドワイヤ製造や船舶用プロペラメーカーのナカシマプロペラによる人工関節製造など他業種からの参入は大歓迎だ」

 MEDTEC Japanの展示会風景

MEDTEC Japanの展示会風景

「4月に医機連が後援するMEDTEC Japan2011は、医療機器メーカーと異業種の技術の出会いの場としても大いに期待している。医療機器は自動車や家電などの大量生産品と比較すると絶対数が少ない。そのため、医療用のみの部材や電子部品の技術開発は難しい。まだまだ、我々の知らない医療機器向けにも優れた技術を持つ中小企業は相当あると思う」

JMDMT ただ、まだ多くの国内企業は風評被害や製造物責任追及を恐れて医療機器への部品提供に慎重になっている。

片山氏 「例えば、国内企業は心臓ペースメーカー用とわかると高分子材料も電子部材も協力してくれない。断ってきた企業の中で米国のペースメーカー用には部品を提供しているところもあるくらいで、これは契約社会としてしっかりと法に守られている米国と、風評被害など契約を結んでも心配という日本との大きな違いもある」

MEDTEC Japan国際会議

MEDTEC Japan国際会議

「しかし、我々の調査では米国で医療機器に部材提供した企業で訴追され敗訴された例は無いという結果も出ており、MEDTEC Japan国際会議二日目のセッションでも、東京大学の佐藤智晶特任教授より『米国における医療機器の部材等に関する製造物責任の考え方』というテーマで講演をしてもらう予定になっている」 「異分野から医療機器参入はまだまだ掘り起こせばあるはずで、もっと確率よく出会えれば良いと考えている。

その意図も含めて、今回のMEDTEC Japan国際会議のプログラムではPL法をはじめとして、レギュラトリーサイエンス、医療機器の臨床研究などもテーマに取り上げている」 「これらを理解してもらった上で、医療機器産業は他の産業に比べれば成長率は高いので、今後も異業種にはどんどん参入してもらいたい」

(取材・文責:編集部 安西)

 


 片山國正氏 テルモ研究開発センター統轄付担当部長。 1969年 日本光電工業(株)入社。 心電図自動診断、リアルタイム不整脈解析、重症患者監視システムの研究開発に従事。1991年 テルモ(株)入社。医療機器開発部門責任者、心臓ペースメーカー 開発国家プロジェクト責任者などを歴任し、現在、研究開発センター医療機器開発部門のアドバイザー、電子情報技術産業協会(JEITA) 医用電子システム事業委員会副委員長、ME標準化・技術専門委員会委員長、医機連(日本医療機器産業連合会)医療機器安定供給タスクフォース主査、5か年戦略WG標準化推進SWG主査などを務める。

Miki Anzai

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