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医療用合金粉末

医療用合金粉末

股関節・膝関節インプラントなどの医療機器製造にガスアトマイズ合金粉末の使用がコスト面で有利 K. Murray, M. Kearns, N. Mottu Sandvik Ltd, Holbrook, Sheffield, UK 粉末冶金は、高品質、高価値の医療機器を製造する際、数々の利点をもたらします。粉末冶金は、均質特性を備えた精密微細構造の創製を実現し、NNS(ニアネットシェイプ)製造を可能にするため、材料の利用度を高めることができます。NNS 製造は廃棄物を減らし、機械作動コストを削減できるため、原料費の価格変動が続いている現今、ますます重要度を増しています。本記事では、既存・新興の各種プロセスにより医療機器が製造される際に使用されるガスアトマイズ (GA) 合金粉末の発展について論じます。金属射出成形 (MIM) および整形外科インプラントのラピッドマニュファクチャリングで使用されるコバルト合金粉末、および医療機器や歯列矯正用ブラケットに使われるステンレス粉末の MIM などの例にも言及します。 ガスアトマイズ (GA) 粉末 機械的特性、耐食性、および生体適合性といった医学的応用上の厳格な要求を満たすためには、専門の粉末冶金プロセスが必要とされます。ここで論ずるNNS(ニアネットシェイプ)部品のラピッドマニュファクチャリングを提供する技術はすべて、粉末カプセル化、MIM、あるいはラピッドマニュファクチャリング用のレーザーまたは電子線法を用いた新興技術により緻密部品を生産する熱間等方圧加圧法 (HIP) です。股関節および膝関節インプラントは HIP 、人工関節や腫瘍後の骨再建などの整形外科インプラントはレーザーおよび電子線技術を利用して作られますが、歯科器具、腹腔鏡、生検器具および歯列矯正用ブラケットは、レーザーまたは電子線法を使用して製造されます。

図 1 (クリックで拡大)ニアネットシェイプ粉末製造ルートがそれぞれ何処に適用されるかを示した図:HIP は少量の大型部品、MIM は大量の小型部品、ラピッドプロトタイピングは少量の比較的小型の部品向け。

これらの製造プロセスの成功に欠かせない粉末には、清浄さ、球形、良好な流動性という共通の属性があります。それらの粉末は不活性ガスアトマイズ法で生産され、さまざまな粒径を有し、その粒径はアトマイズ プロセスで制御されます。HIP 粉末は通常粗く、サイズは 500μm 未満です。 MIM 粉末は微細で通常 32μm 未満です。そしてラピッドマニュファクチャリング向けの粉末は、その中間のサイズです。図 1 に示すように、各プロセスには部品サイズ対部品数のチャート上でそれぞれに明確な区域があります。 各 NNS 技術の異なる要求に応じたプロセスは最適化されており、ステンレス全種、一般的なコバルト合金、さらにニッケルフリー合金や専用合金など、さまざまな合金粉末が利用可能です。緻密化のレベルによって、GA 粉末部品は、鋳造または鍛造材料よりも優れた性能を発揮できます。最小の含有レベルで精蜜化された均質の微細構造は、粉末のサイズを 50 µm 未満に制限することで達成できます。これにより、従来の鋳造において50 µmを超過するような潜在的ダメージを与え得る含有物は、直ちに除外されるのです。 合金の開発 MIM やラピッドマニュファクチャリングなどの比較的新しい粉末冶金技術の結集と、適切なサイズや化学組成を兼ね備える実用的な医用合金粉末が増えてきたことで、より多様な医療機器が製造されるようになってきました。例えば、永久的な股関節・膝関節のインプラントや医療機器、歯列矯正用ブラケットなどです。医療用の合金粉末には、各種ステンレス、コバルト ニッケル クロム (Co35Ni20Cr10Mo) 合金、コバルト クロム (CoCrMo ASTM F75) 合金など、さまざまな選択肢があります。 合金粉末は、それぞれ個別対応で組成でき、例えば、316L ステンレス粉末は、高低それぞれのニッケル レベルで入手可能ですが、高レベルでは残留磁気の発生を減少し、低レベルでは焼結密度を最大化できます。また、ISO5832-1(外科用インプラント国際規格--金属材料、第I部、鍛造ステンレス鋼)に準拠した医療用インプラント等級も付与されています。同様に、ASTM F75 CoCrMo も、高低の炭素レベルで生産されており、最終的な機械的特性および耐摩耗性を制御できます。 GA 粉末は、篩いにかけるか空気分級し、標準サイズおよび特注サイズの両種類を作り出せます。MIM の等級は篩いを通して サイズが32μm 未満のものから、 80% が 5μm 未満の最も微細のものまで等級の幅が広いです。サイズが小さくなるにつれ、易焼結性は、精度、表面仕上げ、許容差制御と共に高まります。 金属射出成形 MIM は、高性能材料の形状の複雑さと寸法の制御をうまく組み合わせながら、低生産コストと低製品コストを実現しています。医療機器の大量生産も、生体適合性合金粉末が安定供給され、主要製造プロセスにMIMを採用できることになったので、メーカーにとってより現実的なものになりつつあります。 MIM による部品の生産には 3 段階のプロセスがあります。第 1 段階は原料の配合であり、これは合金粉末(容量で 60% または重量で 94%)と、表面活性剤および焼結中に粉末粒子を潤滑させて結合させる高分子とを混合する作業です。バインダーと原料配合は、粉末のサイズに応じて、適切なメルトフローインデックス(MFI)と射出性能を達成できるように調整する必要があります。 第 2 段階ではプラスチック射出成形機と同様の設備を使用して、原料の射出成形を行います。立体的な製品を形成するための成形ツールは、焼結中に起こる最大15% の収縮を考慮して設計されています。 プラスチック射出成形とは対照的に、MIMプロセスにおける最終かつ最も重要な段階が、加熱脱脂と焼結サイクルです。バッチまたは連続焼結炉で、わずかな仕上げ作業のみを必要とする高密度(97% 以上)の焼結部品を生産します。これらの仕上げ作業として、特定の製品の寸法および許容誤差を保証するための研磨や若干の機械加工をすることもあります。 整形外科および歯列矯正向け用途 従来のインベストメント鋳造 ASTM F75 CoCrMo 歯列矯正用ブラケットは、MIMによって作られた製品に大きく取って代わられています。MIMは工程数を減少でき、スクラップ発生率を大幅に低下させられるため、費用対効果のかなり優れた生産ルートを提供できます。成形された部品は再度粉砕し、新しい設計に再度成形することができます。最近の報告で Williams は、受賞歴のある数々の設計を含め歯科セクターにおける MIMの成功例を強調しています。1

図 2 SLMプロセスの概略図

ASTM F75 CoCrMo とステンレス粉末は、その他の医療用途にも利用されています。既によく利用されている小型の歯列矯正用ブラケットや小型医療機器だけでなく、膝関節インプラントなどより大型インプラントにも使用されていく可能性が高いです。新製品の採用認定に長時間かかるという保守姿勢は自然なことですが、いまや医療機器メーカーは、大型インプラントについてインベストメント鋳造に頼ってきたメーカーを含め、MIMというオプションに注目しています。原料価格の上昇と硬質合金の機械加工コストが、 MIMの利点をより際立たせています。MIM工法で満足のいく大型人工装具を製造できるかどうかは不透明ながら、この方法を使って、より小型の関節および部分的なインプラントを生産することができるのです。 CoCrMo 合金にとって、炭素含有量は機械的特性を決定づける上で重要です。低レベルの場合、 CoCrMo は微小な粒径と高い疲労強度を有しますが、耐摩耗性が低くなってしまいます。炭素レベルを上げると、耐摩耗性は向上しますが、疲労強度がその犠牲となってしまいます。低炭素合金の窒素化は高性能を達成するための代替的アプローチであり、Johnson らによって異なる焼結雰囲気の使用で強度と延性レベルを制御する方法が報告されています。2 GA と水アトマイズ化 (WA) された粉末は、鍛造された ASTM F75 CoCrMoに匹敵する優れた機械的特性を提供できることが示されています(0.2% の降伏強度~680 MPa、最大引張強度 (UTS) ~1000 MPa、硬度 ~26 HRC、破断伸び率~18%)。しかしながら、WA 粉末の高い初期酸素レベルは、含有物が疲労性能に悪影響を与える懸念を生じるものの、GA 粉末製品は酸素レベルが低く、満足できる清浄度レベルを確保しています。 ラピッドマニュファクチャリング

図 3 SLMプロセスにより形成される単位格子構造

ラピッドマニュファクチャリングプロセスのタイプの 1 つである選択的レーザー溶融 (SLM) は、コンピュータ支援設計 (CAD) ファイル、コンピュータ断層撮影 (CT) スキャン、または磁気共鳴画像法 (MRI) データ、あるいは義歯などのレーザー走査金型によって駆動される付加形成プロセスです。CAD データは区分され、粉体層に構造を二次元で形成するため、表面に線形パターンで直接レーザーによって描き直されます。その後、粉体層は、層の表面にわたって圧延またはワイピングで堆積された追加の合金粉体層として下がります。これにより、次の固形二次元セクションを形成するためにレーザーが動作する新しい表面が提供されます。このプロセスが繰り返され、ファイルは後続の粉体の各層によって三次元化されます(図 2)。プロセスの解像度は高さ 20μm の追加層で微小な詳細までを形成する見事なもので、同時に階層的な単位格子タイプの構造が構築されます(図3)。このタイプの多孔質表面は、骨や組織の内部成長3 にとって理想的であり、整形外科インプラント(関節人工装具)や腫瘍後の骨の再建など軽量級の構造部材の基礎を形成することができます。 SLM を利用した医療機器のラピッドマニュファクチャリングは、骨切術やドリルガイドなどのさまざまな用途で採用されています(図 4)。SLM 技術の商用化は、クラウンやブリッジのフレームや部分床義歯のフレームなど、カスタム設計された人工装具の製造を含む歯列矯正用途で進められています。4 不完全真空で実行される非常に制御可能なプロセスである電子ビーム溶解 (EBM) と対照的に、SLM は粉末粒子の溶解と結合にハイパワーレーザーを利用します。電子ビームはより粗い粉体層に用いられ、従って解像度はより低く、より粗い表面の仕上がりとなります。後者は骨内部成長に有利である可能性があります。

図 4 EBMを利用して生産されたチタン合金内の臼蓋カップ

EBM によって作られた頭蓋顎顔面インプラントは、特に交通事故による重傷の頭部外傷患者に適用され、その数は増加し続けています。3 ヨーロッパでは、年間約 5,000 のオーダーメイドのインプラントが、それぞれ概算で6,000~7,000米ドルの価格で提供されており、これは約 3,000~3,500万米ドルの市場価値を意味します。CTスキャン、コーンビームまたは MRI データは適切な CAD データを作成するために頭蓋骨の相対的な対称を使用して逆行分析され、CAD データは電子ビーム溶解プロセスによるコンピュータ支援製造に適したSTL(光造形法) ファイルを作成するための専門家向けソフトウェアで処理されます。 生産される緻密な ASTM F75 CoCrMo 製品は ASTM 最低要件(0.2% の降伏強度~600 MPa、UTS ~900 MPa、硬度 ~34 HRC、破断伸び率~10%)を超える優れた特性を具備しています。5 将来の有効なオプション GA 粉末は HIP、ラピッドマニュファクチャリング、MIM などのニアネットシェイプ製造プロセスにおける高度なパフォーマンスに不可欠な前駆体です。各製造ルートは最適な性能を得るためにさまざまな粉末サイズを必要としますが、それらは適切にアトマイズ条件を調整することによって実現できます。利用可能な粉末組成物の種類はISO5832-1 等級のステンレスと CoCrMo 合金など含め増えています。ここで論じたようなネットシェイプ技術は、製造時間の短縮と材料利用度の向上において有効です。このため、今後もこれらの分野での成長が見込まれます。 参考文献 1. B. Williams, “Powder Injection Moulding in the Medical and Dental Sectors,” Powder Inj. Moulding Int., 1, 12–19 (2007). 2. J.L. Johnson and L.K.Tan, “Processing of MIM Co-28Cr-6Mo,” Advances in Powder Metallurgy and Particulate Materials, MPIF, Princeton, New Jersey, USA, Part 4, 13–21 (2005). 3. J. Poulkens, “Rapid Manufacturing of Cranio-Maxillo Facial Implants,” 2nd International Conference on Rapid Manufacturing, Loughborough, UK, 11–12 July 2007. 4. R. Bibb, “Rapid Manufacturing of Medical Devices Using Selective Laser Melting,” 2nd International Conference on Rapid Manufacturing, Loughborough, UK, 11–12 July 2007. Keith Murray, Sales and Marketing Manager; Martin Kearns, Director; Natalie Mottu, Global Tecnhincal Marketing Manager for Sandvik LTD, Long Acre Way, Holbrook, Sheffield, S20 3FS, UK, tel. +44 1142 633 100, e-mail: medicalsolutions@sandvik.com, www.sandvik.com/medical. 本記事は、Medical Device Technology および European Medical Device Manufacturer 2009 年 9 月号に英語で掲載されました。 Copyright ©2009 Med-Tech Machining News

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