日本の医療機器業界についての率直な意見を聞いて

By Rich Nass(弊誌姉妹誌MD+DIコンテンツディレクター)

先月開催されたMEDTEC Japan 2012に合わせ、日本を初めて訪問した。日本の医療機器メーカーをはじめてとする多数の医療機器産業界に関連する方々と話す機会を得られたが、その中でも特に驚いた(というよりも、その率直な意見に触れることができ、感激しているのが)アドバンスト医療機器開発研究所の代表である片山國正氏との出会いだ。

片山氏は日本光電工業株式会社で心電図自動診断システムなどの開発に従事された後、テルモ株式会社でカージオペーシングリサーチ・ラボラトリーの研究所長として国産心臓ペースメーカーの研究開発に従事された。その後、テルモ研究開発本部長付き担当部長兼MEセンターアドバイザーとして活躍されるだけでなく、数々の工業会や政府関連の専門委員を務められ、『医療における技術革新—最新の診断・治療技術−』など著書も多い。

今年の1月にテルモを退社されてからは、2月にアドバンスト医療機器開発研究所を設立され、引き続き我が国の医療機器産業力の向上に尽力・支援・協力をされている。

<リスク・ベネフィットの概念の違い>

今回の来日に際し、実のところ、日本人は何につけても遠慮がちで、私の質問に対してもはぐらかされてしまうのではないかという懸念・先入観があったのだが、片山氏は、私の質問に対して非常にストレートに応えてくれただけでなく、医療開発をする上での日米の違いについても簡潔に説明してくれた。

例えば、米国製の製品はそのまま日本では受け入れにくいのだという。それというのも米国製は概して日本人の体型・嗜好に適しておらず、サイズが大きすぎたり操作性に難があり、品質に対する考え方も大きく異なるという。

また米国人はリスク・ベネフィットを天秤にかけた際、ベネフィットを大きく評価するので、例えば、埋め込み型の医療機器に対しても抵抗が少ない。その例として片山氏が挙げたのが、植え込み型人工心臓だ。初期の人工心臓を植え込んだ患者が、そのお陰で100メートル歩け、数日延命できたことを米国は高く評価するが、日本では数日後に死亡したという点を重視し、数日間の延命だけのメリットであれば安全性を優先して埋め込まないという。これには私は本当に驚いた。「それでは日本では患者は最先端の治療を受けられないのか?」と疑問を呈したところ、ハイリスクの治療については「米国などに行かなければならない」という応えだった。

PMDAFDAの姿勢の違い>

規制当局の考え方の違いも勉強になった。日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)は、承認した医療機器に問題が発生した場合に、責任が自分たちに及ばないように考えているため、どうしても難しい判断を伴うものについては自分の任期中に承認をせずに先延ばしにする傾向があるという。それは、「PMDAの医療機器に関する審査官の多くが薬学出身者で工学系の出身者が少ないこと、大きな問題が発生した時にどうしても行政が法的責任を追求される傾向にあること、先端的・革新的医療機器であればあるほど、先例となる判断基準がないため審査が難しくなり審査官に高い能力が求められることなど、さまざまな要因に起因する」(片山氏)。

日本のデバイスラグが問われて久しいため、レギュラトリーサイエンスとして産官学で取り組み、先端的医療機器の開発ガイドライン・評価ガイドラインの作成を進め、PMDAも承認までの期間の短縮化に尽力しているものの、皮肉なことに「埋め込み型左心補助人工心臓」の開発ガイドライン・評価ガイドラインを有効に活用し承認したテルモのDuraHeartでは、ケーブル内の導線の一部断線又はその疑いの不具合が報告され、昨年末に新規埋め込みの見合わせを発表している。

<イノベーション推進に対する考え方の違い>

また、米国にはIDE(investigational device exemption)という治験医療機器に対する一部規則の適用免除の制度があり、簡単な手続きで未承認の機器を評価できるが、日本にはそのような体制が無く、これが医療機器の前進を阻む大きな障壁の一つとなっているという。医療機器開発を川の流れに喩えると、これは(製品完成直前)の下流に関わる問題で、本質的には最上流にも問題がある。すなわち、絶対的な医師不足と医師の工学的センスの欠如。まず日本の医者は寝る時間もなく臨床に追いまくられており研究する時間的余裕がない。それから医師に最先端の機器を生み出す理工学的教育がほとんどなされていない」と片山氏。

その他にもFDAは国民の安全を守ることと同時にイノベーションを推進し産業を振興する視点を兼ね備えているが、日本の規制当局には「産業振興の視点がほとんど無い」という片山氏の発言にも驚かされた。規制における欧米からの出遅れは医療機器ソフトウェアにおいても顕著という。薬事法における医療機器の定義(第2条第4項)は、「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具などであって、政令で定めるものをいう」ということで、日本ではスタンドアロンソフトウェアは医療機器として認められていないという。

日本には優れた先端的な技術力、高品質のものつくり力があるのに、それをフルに活かしきれていない現状が片山氏への取材で明らかになった。

Rich Nass (翻訳:安西)


片山國正氏は、1969年に日本光電工業株式会社入社。心電図自動診断、リアルタイム不整脈解析、重症患者監視システムの研究開発に従事。1991年にテルモ株式会社入社。医療機器開発部門責任者、心臓ペースメーカー開発国家プロジェクト責任者などを歴任し、研究開発センター医療機器開発部門のアドバイザー、電子情報技術産業協会(JEITA) 医用電子システム事業委員会副委員長、ME標準化・技術専門委員会委員長、医機連(日本医療機器産業連合会)医療機器安定供給タスクフォース主査、5か年戦略WG標準化推進SWG主査などを務める。2009年〜2012年1月までテルモ(株)研究開発本部長付き担当部長兼MEセンターアドバイザー。今年2月にアドバンスト医療機器開発研究所を設立し代表として新しい医療機器の開発プロジェクトのマネージメント、医療機器に関するコンサルタント、調査研究、講演・執筆・人材育成などに力を入れている。サンリツオートメイション株式会社の顧問、『医療設計と製造技術』誌の編集顧問。社団法人科学技術と経済の会、センサーネットワーク研究会アドバイザーとしても活躍されている。