英エコノミスト誌「医療機器—時を刻む時限爆弾」を読んで

今週の英国エコノミスト誌に掲載された記事「医療機器—時を刻む時限爆弾」(A ticking time-bomb)では、医療記録の電子化・ネットワーク化が医療現場にもたらす危険性について警鐘をならしている。

特に日本では、昨年の東日本大震災で計画停電が実施され、発電容量不足に由来する医療機器の使用停止がいかに診療機能に多大な影響を与えてしまうかを目の当たりにしたが、今回のエコノミスト誌の記事は、そのような停電などの非常事態のリスクではなく、恒常的に電子医療機器に時刻記録のズレが発生していることを指摘している。

本記事では、マサチューセッツ総合病院の麻酔医Julian Goldman氏が自身の驚愕の経験をもとに大規模な調査を実施し、その結果を報告している。事の発端は、2005年にGoldman氏が脳外科手術で抗凝血療法を施した際に、自分の電子カルテ上の数字が、実際に療法を実施した時刻よりも8分も早く記載されていたのに気付いたこと。もしこの記録をベースに他の医師が抗血栓薬の量を減量してしまったとしたら致命的なミスにつながっていた可能性もあったという。

この事件をきっかけにGoldman氏は助成金を受け、米国東海外の4大病院でモニター機器・人工心肺装置・薬物注入ポンプや院内の壁掛け時計に至るまで約1700台の機器を調査した。

驚くべき結果は、1700台の内、(3秒未満の精度で)機器が正確と判断されたのは、たったの3%。5台に1台は30分の誤差があり、ある超音波装置にいたっては42年(と数分)の誤差があったという。誤差の平均は24分という考えられない数字が出た。

電子機器に正確な時刻をフィードするために、コンピュータの内部時計を、ネットワークを介して正しく調整するプロトコルであるNTPが1985年に開発されている。これは最上位のサーバがGPS等を利用して正しい時刻を得て、下位のホストはそれを参照する事で時刻を合わせるものだが、米国食品医薬品局(FDA)などの規制当局も医療機器に電子カルテや医療用電子機器にNTPサーバの搭載を義務づけてはいない。

米保険局では、来年2014年から電子カルテにNTP技術を組み込むことを奨励しているものの、電子化・ネットワーク化に頼り過ぎると思わぬ落とし穴があることを忘れてはならない。医療機器メーカーはこうしたリスクにも十分に配慮して設計していく必要があるだろう。