放射線滅菌における高分子の色と透明度の維持

ガンマ線と電子線滅菌法は高速且つ有効である。しかし、これら属性を完全に活かすには、医療機器メーカーがガラスの様な透明度、色安定性、および医療従事者の必要とする使用中の強靭性を備えたコポリエステルの新しい製品群を研究する必要がある。

 

Theo Wubbels, Eastman Chemical Co., Capelle aan den Ijssel, Netherlands

 

図1: 50kGyのガンマ線による滅菌処理後の樹脂別の変色結果。(画像クリックで拡大)

従来のオートクレーブを使用した医療機器の滅菌は減少し始めている。オートクレーブは 30 psi (または2バール) の高圧蒸気を適用することで機器の温度を132℃まで上昇させる。微生物を死滅させるために高温と蒸気を使用することで、一般的に使用されるポリマーの多くにたわみや変形を生じ、機器の有効性が損なわれることがある。さらに、一部ポリマーでは加水分解により分子破壊が生じ、機器が破損しやすくなることがある。

オートクレーブ滅菌に必要な高温は、一部プラスチック製品を溶解し、鋭利な器具を鈍化させる可能性もある。さらに、オートクレーブ滅菌は最も時間のかからない滅菌法ではなく、また機器周辺で十分な循環を保ち、かつ滅菌温度に対応するため相当の空間を必要とする。しかし、オートクレーブ滅菌には梱包や機器に使用される高分子材料に大きな変色を生じることがほとんどないという利点がある。

オートクレーブ滅菌の制限を克服するため、多くの医療従事者 (HCP) が放射線ベースの滅菌法を使用するようになったが、これは異なる課題をもたらしている。

 

放射線滅菌への移行

図2: Eastman社の特性プラスチックやモールド樹脂を50kGyのガンマ線照射した後のb*値(黄変度)。(画像クリックで拡大)

ガンマ線と電子線はより好まれる滅菌法となりつつある。これらの技術は大量スループット、速度、高温処理の排除によってコストを削減する。

ガンマ線または電子線法は、放射線が外側の梱包を貫通して内部の機器にまで達するため、キット全体を一度に滅菌することができる。これにより開梱と再梱包の手間を省き、人為ミスを減少し、無菌性を高めることができる。

ガンマ線滅菌の主なデメリットは、特殊な取り扱いと追加コストを要するコバルト60放射能源が必要なことである。電子線放射は放射線源を必要としないが、金属など高密度材料への貫通が制限される。

また、適切な材料選択によって機器の光学的性質に対する滅菌法の影響を最小限にする方法を理解することも重要である。

材料に対する滅菌の最も重要な影響の一つが変色である。

放射線に暴露された高分子は往々にして黄色く変色する。医療機器の機能性と信頼性において色による識別と透明度は不可欠の役割を果たすため、HCPにとってあらゆる変色または性質の劣化は懸念の原因となる。

医療従事者にとっての透明度

図3: 50 kGy の電子線滅菌を施した後のEastman社の特製プラスチックおよびモールド樹脂の変色b*値(画像クリックで拡大)

HCPはよく色による識別で迅速な識別を行うため、医療機器が滅菌プロセス中にガラス様の透明度を維持し、変色しないことは重要である。医療処置中、HCPは色に基づいて素早く、効率的に、正しく識別を行い、正確な機器を選択しなければならない。これは機器のサイズ、種類、機能を示すためによく使用される。それに続く迅速な実行は医療ミスを最小限にし、時間を節約するために役立つ。

さらに、HCPの視界を妨げない優れた透明度は、より容易かつ迅速にかん流中の血液の色の変化、異物や気泡、血栓を識別することを可能にする。また液面を監視しやすくし、薬剤が適切に患者に送達されているか確認することができる。潜在的問題が大きくなる前にそれらを識別することで、塞栓症や挿入部位感染などのより重大な健康問題を防止できる。

透明度は患者の信頼にも影響する。これは感情的な影響であるがやはり重要な考慮点である。黄ばんだ、またはくすんだ機器は古い、または使用されたことがあるものという印象を与える。患者自身が受ける治療手順や自身に使用される機器に対して患者が最大限の信頼を寄せることは非常に重要である。

特定の材料の色と透明度に対する滅菌の影響は、その材料固有の化学的性質および使用する滅菌法によって異なる。放射線滅菌では、放射線の種類と量、放射後に滅菌された部材が放置される時間が最終的な色に影響する。

変色に関する研究

 

図4: 電子線による滅菌を施す前と後のモールド樹脂。(画像クリックで拡大)

Eastman Chemical社はさまざまな高分子に対するガンマ線と電子線の影響を調査する研究を実施した。この研究は、医療グレードのコポリエステル、ガンマ線安定化ポリカーボネート (PC)、透明アクリロニトリルブタジエンスチレン (TABS)、アクリル (PMMA) について調査した。最初の色と変化を判定するため、CIE Lab*スケールが使用された。(CIE Labは色値比較用の標準的方法としてInternational Commission on Illumination (国際照明委員会)  により確立された。)

試験結果によると、ガンマ線と電子線放射はさまざまな高分子材料に異なる影響を与える可能性が示された。50 kGyのガンマ線に暴露し、最初の暴露の3日後に測定したとき、各材料はより高いb*値への正シフト、すなわち黄ばみを示した。医療グレードのコポリエステルは2 b*単位のシフトのみを示し、最初の黄ばみ量は最小であった。アクリル、TABS、PC材料はいずれも20 b*単位以上のシフトを示した。

42日後、ガンマ線の照射を受けた各試験試料の黄ばみは異なる程度で褪せた。医療グレードコポリエステル試料の色は最終的に当初の色の0.2単位以内のb*値に変色が収まった。TABSとアクリル試料の最終的な色は、それぞれ当初の色の約6b*および9b*単位内に褪せたが、PC試料は最終的な変色が当初の色から17b*単位となり、色褪せが最小に留まった。

電子線放射に材料を暴露した後、同様の結果が観察された。医療グレードコポリエステルは黄ばみが他のどの材料よりも最小で、測定されたb*シフトは4.3単位であった。TABSとアクリルはそれぞれ約11および8 b*単位シフトし、PCは17 b*単位の変化となってシフトが最大であった。ここでも時間と共に色が褪せて当初の色に近づき、医療グレードコポリエステル試料は0.5b*単位内に収まった。TABSとアクリル試料の最終的な変色は3 b*単位よりやや少なく、PC試料の最終的な色は当初の色より9 b*単位高かった。

まとめると、医療グレードコポリエステルは、試験を実施したすべての高分子材料の中で変色が小さく、放射線滅菌後の変色が全体的に最低であった。ガンマ線と電子線滅菌後、最新のコポリエステル材料の一つであるEastman Tritanコポリエステルは、医療機器用途に利用可能な透明高分子材料のうちクラス最高の色保持性能を示した。

 

使用中の酷使に耐える

医療機器製造にコポリエステルを使用することにより、ガンマ線または電子線滅菌後の変色やくすみを最小限にできるため、最適な透明度と色を維持することができ、医療機器メーカーはこの滅菌法の速度と利便性のメリットを完全に活かすことが可能になる。

最近開発されたコポリエステルは耐熱性があり、強靭で滅菌安定性を備えているため、ガンマ線または電子線放射に最適である。さらに新しい材料は血液や油性溶媒、およびイソプロピルアルコール、殺菌剤、接着剤など化学薬品の暴露にも耐えることができる。

滅菌後の透明度と色安定性の性質を備えたコポリエステルは、透析器筐体や注射器、血液分離装置、創傷治療用途、採血チューブ、呼吸器、点滴用品など幅広い用途での使用に適している。コポリエステルは今日の射出成型医療機器の性能要件を満たす設計であり、同時に強靭性、化学耐性、加工性、透明度を提供することができる。

病院での使用条件は、医療機器を軽くたたいたり、意図せずぶつけたりするなど、応急処置的ニーズに対応することも必要としている。コポリエステルの内在的な強靭性は、日常的な臨床での酷使により耐性があることを意味する。滅菌後も重要な機械的及ぶ物理的性質を維持するため、コポリエステルは病院環境における材料耐性要件を満たすことができる。

油性溶媒やイソプロパノールなどの溶剤に対する耐性もあるため、この汎用材料はOEMおよびエンドユーザーの両者の特定のニーズに合わせてカスタマイズが可能である。加えて、コポリエステルはビスフェノールAを含有せず、一般的に生体適合性があり、無毒性で、環境にやさしい材料と考えられているため、環境配慮戦略を進めている医療産業にも最適といえよう。

 

Theo Wubbels
is Market Development Manager EMEA, Medical Specialty Plastics
Fascinatio Boulevard 602-614,
2909 VA, Capelle aan den Ijssel, Netherlands
Email: twubbels@eastman.com
Mobile: +31 61 383 2642

本記事の初出は英文姉妹誌European Medical Device Technology, 2012年11月12月号

 

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