阪大、キャノン、生体組織を高速かつ無染色で観察する顕微鏡を開発

大阪大学キヤノン株式会社、名古屋大学の研究チームが波長の高速切替が可能なレーザーを用いて、生体組織を高速かつ無染色で観察する顕微鏡を開発した。この装置と独自に開発した解析アルゴリズムを用いることで、生体組織の3次元構造や構成物質の組成差を、あたかも各種の染色剤を使って染色したかのように可視化することができるという。

図1 波長可変レーザーを用いたSRS分光顕微鏡の動作の模式図。500 x 480ピクセルの誘導ラマン像を1秒間に30.8フレーム取得しつつ、フレーム毎にレーザー波長を変化させる。その結果、各ピクセルにおいて生体試料の分 子振動スペクトルの情報を得ることができる。(画像クリックで拡大)

生体組織を観察することは、病変部位の診断や組織形成の研究のための重要な技術だが、多くの生体組織は透明であるため、観察する際は組織の加工や染色が必要で、多くの工程と数十分程度の時間を要し、熟練も必要だ。

また、生体組織の構造を3次元的に可視化するためには、組織を薄片化し、多数の2次元画像を重ねる必要があるなど、大変コストと手間がかかる。

今回、大阪大学大学院工学研究科 小関泰之助教、伊東一良教授らの研究チームは、波長を高速に切り替えられるパルスレーザーを開発するとともに、2色のパルスレーザーを用いた誘導ラマン (Stimulated Raman scattering, SRS)顕微鏡を実現させた。

この顕微鏡は500 x 480ピクセルの画像を1秒間あたり30.8フレーム取得可能。そして、フレーム毎、1秒間に30.8回レーザーの波長を変化させることで、様々な周波数の分子振動を短時間に検出することができます(図1)。

図2 ラットの肝臓の血管周辺の線維構造の3次元無染色観察例。

さらに、わずかな振動スペクトルの違いを画像化するための解析手法も開発した。これらを用いてラットの肝臓(厚さ0.1 mm)を観察し、データを解析したところ、脂肪滴、細胞質、細胞核、線維、及び類洞などの2次元分布や、血管壁の線維の3次元分布(図2)を可視化することに成功した。また、マウスの小腸の絨毛を構成する細胞の3次元的な配置をとらえ、細胞の種類を形態的に識別することにも成功した。さらに、観察性能の高速性を活用し、息をして動いているマウスの皮膚内部の構造も可視化できた。

今回開発した顕微鏡は、基礎医学・分子生物学における研究ツールとして、また、医療分野においては組織の異常を調べるための高感度で再現性のある検 査技術として応用され、患者および医師の負担を軽減することが期待される。本技術は今後、レーザー光源の実用性を更に高めることで、数年以内の実用化が可能と見込まれる。

本成果は2012年11月11日(英国時間)に英国の論文誌Nature Photonicsのオンライン速報版に掲載された。

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