フリースケール、半導体技術を医療機器分野に積極展開

Freescale社がコンセプトモデルとして開発したリファレンス・プラットフォーム「Home Health Hub」(レファレンス・ボードの画像クリックで拡大)

画像診断機器、家庭用医療機器や診療用機器の進化や高度化を支えているのがマイクロコントローラ、センサ、アナログ、そしてワイヤレス技術だ。

しかし、医療機器にはリスクに応じたクラス分類制度あり、基礎から臨床・開発、承認審査、製品の改良、製造販売管理、安全対策など課題も多いため、半導体メーカーの中には、高い成長率を期待できる分野と認識しながらも、なかなか医療・ヘルスケア機器向けの技術提供に踏み切れない企業も多い。

また、医療機器メーカー側からみても、半導体メーカーから供給される製品が安定的に調達できるのか、あるいは長期的に保証されるかどうかについては大きなポイントとなっている。

米国モトローラ社の半導体部門を前身とするFreescale Semiconductor(以下、フリースケール社)では、世界20ヶ国以上の自動車用、民生用、産業用およびネットワーキング市場で培った組込み処理ソリューションを医療機器産業向けにも積極的に供給すべく、強固な社内体制を組み、各種ハードウェア、ソフトウェアおよびツール、エコシステム・ソリューション、ならびにリファレンス・システムなど包括的なソリューションを医療機器メーカー向けに提供している。

日本でも積極的に医療機器分野でビジネス展開をするため先月来日したFreescale社のSteven Dean氏。

例えば、一般医療機器(クラスI)や高度管理医療機器(クラスII)はもちろんのこと、高度管理医療機器(クラスIII)についても、社内ルール・検討組織を設置し案件ごとに対応している。植込型除細動器のワイヤレスインタフェイスや、体外除細動器、着用型除細動器などに実際にソリューションを提供している事例もある。

また、同社では医療市場向けの幅広いデバイスに対して、最低15年という長期製品供給プログラム(Product Longevity Program)を導入している。このプログラムの対象となる同社の製品は、出荷開始から製品ライフがカウントされ、自社工場、外部ファウンドリ、その他さまざまな製造リソースを通じて、長期製品供給プログラムを管理しているという。

「せっかく苦労して承認を取った医療機器の一部製品がすぐに供給ストップになることのないように15年という長期の製品供給に心がけている」とフリースケール社のコンシューマー&インダストリアル戦略営業部門のディレクターSteven Dean氏は自信を持って語る。

さらにフリースケール社のCPUの中に、英ARM社が開発したマイコン向けCPUコア(基幹技術)を利用しているのも、医療機器メーカーにとってもプラス要因だ。マイコンのCPUコアは通常、メーカーによって異なるため、開発済みのソフトウェアを他社のマイコンに転用する際、ユーザーは手直しを余儀なくされるが、ARMコアであればアーキテクチャも同じで開発ツールを共通化できるというメリットがある。

その中でもARMアーキテクチャをベースとするフリースケール社のi.MXシリーズ(アプリケーション・プロセッサ)は、性能とバッテリ寿命の最適なバランスを実現しており、プラットフォームの要としてARMコアを活用しているVybridシリーズは、非対称型マルチプロセッシング・アーキテクチャをベースとしており、患者モニタなどの医療機器などに適している。また、ARM Cortex-Mコアを採用したFlash内蔵MCUのKinetisシリーズは、8/16ビットMCU並みの価格帯の製品から、大容量/高性能の製品までの業界屈指の幅広い製品分を互換アーキテクチャでラインナップしている。アナログ回路の内蔵化や低消費電力によってヘルスケア機器に最適なプラットフォームといえる。

Freescale社の医療機器開発マネージャーJosé Fernández Villaseñor氏はエンジニアだが、現在も医師として臨床現場に立って患者のニーズを製品に反映させている。

そして、なによりフリースケール社が医療機器向け事業に力を入れていることがわかるのが、同社が設置している医療機器向けの製品・ソリューションの研究開発拠点である「Medical Center of Excellence」だ。同研究所の所長は、フリースケール社のマイクロコントローラー・ソリューショングループの医療機器開発マネージャーJosé Fernández Villaseñor氏だが、氏は電子技術者(エンジニア)であるだけでなく、神経外科医師として現在も臨床現場に立っている。

同研究所では「現場のニーズをきちんと把握し、次世代のハードウェア・ソフトウェアの開発するために(社内外の)約50名の専門家集団で取り組んでいる」(Villaseñor氏)という。

「実際に半導体メーカーで、医師として活躍している人材を中心に、コンセプト立案から開発および試作評価を徹底している組織は他にあまりないだろう」とフリースケール・セミコンダクタ・ジャパン株式会社の事業開発・戦略室の喜須海 統雄インダストリアル・セグメント・マーケティング担当部長も語る。

また医療機器分野における戦略的パートナーとして、ファブレス半導体メーカーで医療機器向けチップを手掛けてきた米Cactus Semiconductor社や、心臓の電気活動のモニタリングと解析を行うための技術開発を行っている米Monebo Technologies社とも手を組んでいる。

Cactus社とは医療機器向けミックスト・シグナルASICやカスタムIC事業を、Monebo社とは心電図(ECG)技術を用いた医療装置向けの包括的プラットフォームの開発を進めている。

 

以下に、フリースケール社の技術が活用されている医療機器の一例を挙げてみた。

  (1) DDS: インシュリン送達システム

米Insulet社の「Insulet Omnipod」(ワイヤレスでチューブ不要のインシュリン・ポンプ)にはフリースケール社のi.MX21、RF搭載の8ビットMCUが採用されている。これらのセミコンダクタ技術により、ワイヤレスで小型の耐久性の高い使い捨てドラッグデリバリシステムが、手頃な価格の提供が可能となっている。

(2)健康管理・アラートシステム

米pomdevices社の家庭用ヘルスモニター機器「Sonamba」のアプリケーションプロセッサにはフリースケール社のi.MX27、電力管理には同社のPMIC、ワイヤレス機能には同社のMC13224Vトランシーバが搭載されており、「スマホなどを使いこなせないシニア層などでも簡単に自宅で健康管理がおこなえる製品」(Dean社長)となっている。また計測数値に異常がみられた場合など、介護人に注意を喚起するアラーム機能もついている。

(3)無線医療ソリューション

米Qualcomm Life社の家庭向け無線医療ソリューション「2net」にもフリースケール社のi.MX28が活用されている。2netはクラウドベースのプラットフォームで、在宅患者の体温、脈拍、血糖値などの生体データを医療機関や患者が常時閲覧できる仕組みで、もともとフリースケール社がコンセプトモデルとして考案・開発したリファレンス・プラットフォーム「Home Health Hub」を基にしている。

FDA(米国食品医薬品局)にMedical Device Data System(MDDS、医療デバイスデータシステム)として登録されており、世界中で240社あまりのベンダーが参加するヘルスケア業界団体Continua Health Allianceも2netへのサポートを表明している。

(4)ヘルスケア・ロボティクス

米VGoCommunications社の「VGoロボティック・テレプレゼンス」は、患者の血圧や体温などのバイタルサイン(生命兆候)をモニタリングし、投薬のほか、患者の傷の画像や体調を遠く離れた病院にいる医師に送信するロボットで、「顔」の部分にカメラ、オーディオ機器、テレビ画面が搭載されており、テレビ画面を通して患者は自宅から医者や医療専門家と話すことができる。ここにもフリースケール社のi.MX27やi.MX31Lアプリケーションプロセッサ、静電容量式タッチ・センサ・コントローラMPR084などのユーザインターフェイス(UI)、3軸加速度センサモジュールMMA7361Lなどの技術が活用されている。

この他にもフリースケール社のMedical Center of Excellenceでは、同社の種々の高性能アナログフロントエンド技術を搭載した「Intelligent Hospital」を開発し、レファレンスデザインとして提供している。これはバイタルサインを読み取ったり、体重・心拍数・血圧・血糖値・体温などの基礎的な検診ができるバイオメトリック・データー収集システムで、同センター長で医師のVillaseñorが勤務する病院で既に導入している。半導体を利用したこの設計図を参照(あるいは、そのまま導入)して製品化することで、高い技術力を持たなくても製品化が可能となっている。

前述の家庭用のテレヘルスケア・システムに向けたリファレンス・プラットフォーム「Home Health Hub」に内蔵するレファレンス・ボードやソフトウェアおよびUIを提供するなど、フリースケール社ではリファレンス・デザイン分野でも医療機器向けの事業を加速させている。


フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン株式会社

東京都目黒区

www.freescale.co.jp

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