MEDTEC Online

トップインタビュー【法制度関連セミナー・座長 飯田隆太郎氏】

トップインタビュー【法制度関連セミナー・座長 飯田隆太郎氏】

 ---医療機器規制の現在と未来---

今年のMEDTEC Japanでは、第2日目の4月19日(木)に「医療機器に関する規制関連」のセミナーをパシフィコ横浜で開催する。より良い医療機器や先端的医療技術開発の成果をより早く医療現場に届け、機器の安全な使用を確保するためには、制度やルールを医療機器の特性に適った合理的なものにする必要がある。

今回セミナーの座長を務められる日本医療機器産業連合会の法制委員会委員長でサクラ精機株式会社グループ統括本部・担当部長の飯田隆太郎氏に、当日プログラムの主旨・目的・構成について伺った。


『医療設計&製造技術』(JMDMT): 今回の法制度関連セミナーの主題は「医療機器規制の現在と未来」ということで、全体のプログラム構想をお考え頂いたようですが、セミナーの主旨と概要をお聞かせ下さい

飯田氏MEDTEC Japan参加者の大半は医療機器メーカーということもあり、参加者の皆様に国内市場だけでなくグローバルな展開も視野に入れた企業戦略を立てて頂きたいという願いもこめて今年のプログラムを考えました。

まずターゲット市場である日本、米国やEU、そして急成長を遂げている中国・インド・ブラジルなどの医療機器規制動向の概要を各スピーカーから説明して頂こうと思っています。実際に各国の許認可を得るために開発企業はどのような組織活動を行い、社内システムを整備し、リスクマネジメントをはじめとする設計開発プロセスを管理しつつ臨床試験を含む製品評価などを行い、かつ市販後の安全管理体制を構築すべきかについての解説をして頂く予定です。

また、後半はスピーカー(講師)全員による総合討論の時間を設け、そもそも医療機器の特質に合致した法制度とはどのようなものか、明日の医療機器規制はどうあるべきなのか、について自由に討論をしながら模索していきたいと考えています。

日本においても薬事法を改正する議論が始まっており、医療機器に相応しい法規制のあり方についても各種の検討が行われていますが、、一方、米国や欧州でも医療機器規制の見直しがそれぞれに検討されており、、こうした動向や、それに対して企業はどう対応していくべきなのかについても今回のセミナーで示唆を与えることができればと考えていますさらには、こうした国内外の動向を踏まえて、我が国の医療機器規制はどのような形が望ましいのか、討論の中から未来像を描くことが出来ればと考えています。

臨床の現場からは、東京女子医科大学先端生命医学研究所の伊関洋教授にもご登壇頂けるので、実際に患者と向き合って治療をされている先生が考えておられる理想の医療機器規制のあり方についてのお話は、ユーザー視点を活かした将来の提言にも重要な意味を持ってくると期待しております。

JMDMT: 昨年、飯田様には「薬事法に基づく承認申請等の手続きについて」体系的にまとめてご講演頂き、大変好評でした。

飯田氏: 去年の聴衆の方々の反応をみて、企業は具体的なノウハウに関する情報を求めておられるのがよくわかりました。それなので、今回のセミナーでも徹底的に企業の実務者の視点に立った解説をおこなって行きたいと思っています。

もとより各国の法令体系はそれぞれに独自の思想的背景を持ち、規制のあり方もさまざまに異なるので、医療機器メーカーや、これから医療機器産業への参入を計画している企業の方々には、国内外市場の規制システムを十分に理解し、それに基づく製品開発、製品評価、また社内体制の整備などを是非、計画的に実行して頂きたいです。

また、近年の医療機器規制に関わる国際整合化の動向を踏まえ、各国の規制システムもさまざまな見直しが計画されています。セミナーでは、それぞれの規制方針がどのように変化し、企業はどのような対応が求められることになるかについても考察して行きたいと考えています。

JMDMT:  飯田様は日本医療機器産業連合会(以下、医機連)の法制委員会委員長として政府関連の検討部会でもご活躍ですが、平成24年の通常国会で審議予定の「薬事法改正案」についてはセミナーでも触れられるのでしょうか? 

飯田氏:丁度、厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会(全10回)が昨年暮れに終了し、現在法案提出に向けた内部調整が行われているものと思いますが、今年の通常国会で審議されるか否かに関わらず、規制のあり方については早急な議論が必要です。

タイムリーなことに今月2月からは厚生労働省と医療機器業界団体(医機連、米国医療機器・IVD工業会、欧州ビジネス協会)による「医療機器規制制度タスクフォース」がスタートします。

究極的には医薬品寄りの現法制度を改めて「医療機器に特化した独立法」を具体的に検討すべきだと考えますが、政令や省令・通知の改正など、法改正によらない運用の改善を前倒しでやっていくべきという合意はあるので、まずはこのような形で運用の改善を迅速に進めて行くのが現実的な選択だと考えます。

今年度(3月31日)内に方針決定できるものもあれば、4月以降も継続審議するものも出てくると思います。MEDTECセミナーは4月開催ですので、今回有識者たるセミナー講師の方々に自由闊達にご発言を頂き、それを集約して提言としてまとめ、この「タスクフォース」へインプットすることも可能ではないか、そうすることで何らかの意志決定プロセスに貢献できるのではないか・・・ということまで視野に入れてプログラムを組んでいます。

JMDMT: 現在、法令対応で一番問題になっているのは何でしょうか?

飯田氏: 医薬品の概念を医療機器に引いてきてしまっていることで必要以上に煩雑・複雑なシステムになっている点でしょう。新規参入を考えている企業は特に設計開発プランを立てる前に日本の規制システムがどうなっているかを把握し、それに対応するためのリスクマネジメント・システムを作らないと、予算・時間・労力が無駄になってしまいます。全体像を捉えて、そこからステップを踏む設計開発をしないと、規制に対応できず、せっかく作った製品が市場に投下できなくなってしまいます。

JMDMT: 飯田様は従来より、デバイスラグ解消のために、新規性の低い、改良医療機器や後発医療機器の審査期間の短縮化を唱えておられます。

飯田氏: 医療機器の申請区分は大きく3つに分かれていますが、後発医療機器の定義は非常に難しいです。後発医療機器は、市場に既に出ている製品と、使用目的、機能、使用方法などが実質的に同等であり、新規性の低い医療機器のことを指しますが、審査する側からするとこの新規性の度合いに対する判断が難しく、十分に経験を積んだ臨床や開発のプロではないと的確な見極めができない。そんなところから、後発審査に必要以上の時間を要する結果になっているものと考えます。つまり、審査における「専門性」が大きく問われているのだと思います。

一方、米国では簡易審査システム510(k)があって、新規性の低い医療機器に対しては短期間の審査を実現していますし、欧州でも中リスクの医療機器はQMSと市販後監視システムの維持を前提に自己認証で迅速に市場投下が可能となっています。新規性のない機器の審査に1年以上をかけるというのは国際競争上もマイナスであり、デバイスラグだけではなく、デバイスギャップにまで発展しかねません。

日本は必要以上に規制が厳しく、コストも高いということで日本パッシング(日本離れ)が起きると、新しい製品の申請を日本では断念、あるいは後回しとし、結局は諸外国に比べると日本は世代の古いものしか入手できないということになってしまいます。

JMDMT: デバイスギャップとなると患者さんが先進医療機器にアクセスできないという弊害も生まれてきますね。

飯田氏: やはり医薬品発想の承認制度をあらためることが必要になってきます。また、審査のあり方だけでなく、製造業の考え方なども見直す必要があります。医薬品の製造は化学物質を精製するプロセスであるのに比べ、医療機器は電子技術、機械・工具的要素、映像技術、放射線技術、メカトロニクス、ソフトウェアなど多種多様な産業の技術が総合化された複雑な生産物です。

つまり医療機器メーカーが最終製品を仕上げるまでにはさまざまな周辺産業が関わっており、アウトソースの多様さは医薬品とは比べものになりません。それが、医療機器メーカーに部品や技術を提供している支援企業までを含めて「医療機器の製造業者」と見なすという混乱した解釈が存在する現在の法制度は、医療機器に係る産業構造の実態を考慮したものにはなっておりません。

結局、ここでも医薬品の発想なわけです。医薬品の場合、特定の薬物(化学成分)を人体に投与することによって薬効の発現に必要な受容体(標的タンパク質)に特異的に結合させることにより、期待する結果を得ようとするもの、あるいは抗生物質のように細菌のタンパク合成を阻害して増殖を抑制するものなど、いずれにしても分子レベルでの生理作用を意図して用いられるものであり、その化学成分(分子構造)の特定は、当該薬物の主作用において決定的に重要となります。一方、医療機器の材料はそのほとんどが一般的な金属材料や樹脂材料であり、(一部を除いては)生理活性を意図して用いられるものではなく、必然的に生体接触におけるリスクの考え方は医薬品と大きく異なります。このような医療機器について原材料を詳細に特定する審査手法や、また化学物質を特定するように医療機器の寸法、形状、使用方法等まで詳細に特定しようとする発想も医薬品由来であり、こうした「個品特定」の思想を背景に承認の範囲を限定化し、仕様変更のたびに再審査を必要とする制度は医療機器に相応しいものではなく、これでは企業もイノベーションに対して後ろ向きになってしまいます。

JMDMT: 逆に今まで行政と交渉されてきた中から何か大きな前進があったものはあるのでしょうか?

飯田氏: 今申し上げたイノベーション阻害要因の一つである設計変更、仕様変更のたびに再審査を必要とする制度(一部変更承認申請の制度)の見直しについては、具体的な進展がみられています。厚生労働省の医療機器審査管理室では、昨年の12月から今年の2月にかけて、広範囲にわたる製品群ごとの企業ヒアリングを実施し、この結果を踏まえて企業におけるリスクマネジメントや設計開発活動の適正な実施を前提に、一部変更承認申請を必要とする範囲を限定する方法論について検討していただいていますので、今年度中には一定の方針が示されるものと期待しています。

これは山積みになっている問題のほんの一部ですが、このような取り組みを通じて運用の改善が図られることには大きい意義があると思います。

JMDMT: 申請コストも諸外国に比べ日本は高いと言われています。

飯田氏:米国の510(k)の手数料は4千ドル(40万円弱)程度ですが、日本の後発クラスIIIは書面審査手数料だけで約150万円かかります。この書面審査費用にQMS調査費が上乗せされるので比較になりません。さらに米国では小規模企業に対するユーザーフィーの減額制度もあり、またベンチャーに対しては出世払い制度まで導入しているなど、国民医療向上への国の考え方そのものが違うことがわかります。

JMDMT:昨年7月に医機連は「薬事法改正に向けた医療機器業界からの要望」を政府に提出されました。その中でもまず第一に医療機器の特性を重視した法体系にするために「医薬品・医療機器法」への改称も要望されています。

飯田氏: 医療機器業界では、もう十数年も前から薬事法から独立した医療機器に特化した法律、つまり医療機器法の制定について要望を出してきており、本来であれば新法の制定がもっとも望ましい主張と言えますが、今回はあくまで「薬事法改正に対する要望」という位置づけで取りまとめられた結果、新法制定に向けた準備作業という意味合いを込めて「医薬品・医療機器法」という要望になった経緯があります。

ともあれ、先に述べた医薬品発想の制度設計を改めることはもとより、現行の薬事法の枠内では扱えないようなソフトウェアやIT技術などもきちんと評価できる法律にしないと、マンパワー不足による医療崩壊がますます深刻になっている中、産業界から遠隔医療や遠隔診断に係る様々な技術を提供しようとしても、制度の壁がこれを阻害するという事態にもなりかねないので、表示や流通に対する規制や業態許可に関する規制など、医薬品とは独立した枠組みが必要であり、独立法のためには、昨年の要望よりもっと踏み込んだ提案が必要になってくると考えられます。

しかし、まずは運用改善を推進しつつ、医療機器に適した規制システムのあり方を模索するのが有効な方法論ではないかと考えます。

昨年のMEDTEC Japanセミナー風景

今年は、初日を「医療機器のイノベーション」、二日目を「医療機器に関する規制関連」のテーマに絞って開催する。

JMDMT: 最後に本セミナーへの抱負をお聞かせ下さい。

飯田氏: 「医療崩壊」が叫ばれる現在、医療の現場や医療機器開発に対する苛察な規制要求が「医療の萎縮」や「イノベーションの断念」をひき起こすことはあってはならないことです。

国民がより質の高い医療を継続して受け続けられるようにするためには、医療機器はどのような役割を果たすべきなのか、またどのような規制体系であれば医療技術の継続的革新が担保され、医療の質と安全性の向上が確保され得るのかといった問いも背景に置きながら、真に国民の利益を重視したレギュラトリーサイエンス構築のための基本思想の確立をも視野に入れたセミナーにしたいと考えています。

 

 (取材・文責:編集部 安西)

 


飯田 隆太郎氏:サクラ精機株式会社グループ統括本部 担当部長。 医療機器メーカーにて開発、薬事、QMSの責任職を歴任後現職。日本医療機器産業連合会 法制委員会 委員長、一般社団法人 日本医療機器工業会 薬事委員会 委員長。

 

 

カテゴリー: