整形外科向け製品における新境地

将来的課題に対応し、先端技術の水準を高めるために、材料研究者らは生物活性材料と有効な人工関節軟骨の開発に焦点を合わせる必要があるだろう。

By: Xiang Zhang, Ceram, Stoke-on-Trent, UK

 

医療技術における進歩は、人々の寿命を延長したり、より健康な生活を送れることなどに役立っているが、いくつかの身体の部分はその過程で摩耗してしまう。米国整形外科学会(American Academy of Orthopaedic Surgeons:AAOS)によると、米国では2008年、47万8千件の人工膝関節と23万4千件の人工股関節の交換が行われている。1 またAAOSは、2030年までに人工膝関節置換術は340万件に達し、人工股関節置換術は倍以上になると予測している。その上、再置換術の件数も高止まりしており、米国では2004年に膝再置換術が4万件、股関節再置換術が4万6千件実施されている。EUの統計も同範囲である。現在280億ユーロの市場といわれている整形外科セクターはこの先も長く成長を続けていくことが明白である。

本記事では、整形外科的応用で使用される人工材料のいくつかを検討し、それらの利点と欠点を論じる。骨置換術による生物活性材料の重要な役割についても述べる。

図1: 人工関節軟骨の基礎的微細構造。算定方式はアイオワ大学の整形外科手術のJoseph Buckwalter教授によるAAOSの教育講座(2005)第54巻465-480頁に基づいたもの。

人工整形外科向け材料

人工材料は数十年間にわたって整形外科的応用で使用されている。最初の金属股関節置換術は1940年に行われた。PMMAセメントが同じ目的で最初に使用されたのは1951年のことである。 現代のセラミックス全股関節は1995年に使用が開始されている。これまで、金属、重合体(超高分子量のポリエチレンまたはUHMWPE)、セラミックス、およびこれら材料の組み合わせが整形外科的応用で使用されており、そして材料の開発も続けられている。整形外科装置の設計と開発に最適な材料を選定することは今でも難しいことであり、メーカーは材料選定に関連する失敗を最小限に抑えようと取り組みながら、高性能の製品開発に努めている。

ステンレスなどの金属は、埋め込み可能な医療機器の製造に最初に使用された材料であった。メタルオンメタル(MOM)インプラントは1950年代以来使用されており、特定の用途でうまく作用し続けている。過去60年間にわたり、より多くの金属製の器具が医療用途に導入されているが、何らかの性能及び品質の問題がある。 整形外科用金属インプラントに関連する懸念には、血流中に金属粒子が放出され、腎臓機能に影響を与えることが含まれる。また粒子は妊娠中胎盤にも入り込み、金属粒子(主にコバルトクロム)が癌を引き起こす可能性がある。我々が自問すべきは、60年間にわたる開発作業を経てもなお、より良い、または本当に完璧な埋め込み型装置がないのはなぜか?ということである。

生体物質としての骨

埋め込み可能な材料に関しては全て生体適合性とより高度な生物活性の概念に尽きる。材料または結果的に出る破片は人体に適合性があるか?本当に原子、ナノ、ミクロンレベルで耐食性があるか?強度はどれくらいか?弾性率は?そして何よりも、我々は体の天然生体物質ついて重要なことを何か学んだだろうか?骨を含めた体の構成要素のすべてが生体物質であることを理解しているだろうか?非金属の骨置換材料について調べる前に、自然骨の基礎をいくつか見ていく。

図 2:  人工股関節の基本構成要素。

(左からステム部、ネック部、大腿骨頭、PEライナー、寛骨臼)

例として長骨を見てみよう。長骨には3つの基本的な構造層がある。表面の関節軟骨、表面近くの緻密骨、そして海綿骨である。当然、骨は生体物質であるため、人工の整形外科装置の構成は自然骨のミクロ構造に匹敵するものではない。骨細胞が再吸収と沈着を通して治癒のプロセスを行う。健康な骨は使用により消耗するため、骨はナノ破壊または微小破壊を形成し、弱くなる。骨はこの弱化に対し、ほかの修復タスクと同じように反応する。再吸収が行われるとき、破骨細胞が弱い骨を攻撃するために送り込まれ、そして、さまざまな全身ホルモンの助けを得て、劣化している骨が溶かされ、コラーゲンとミネラル成分が再吸収される。骨の粒子はカルシウムとして体に吸収され、破骨細胞によって本質的に掘削された小さな領域が残される。次に骨芽細胞が登場し、破損した部分の周りに集まる。骨芽細胞は新生骨で損傷した部分を埋める。新生骨は体内のカルシウムを吸収し、健康な骨組織になる。

関節軟骨

関節軟骨は、人工股関節と膝の設計および開発に際して十分に注目されていない生体材料である。骨の接合面は強いが潤滑された関節軟骨の層で覆われている。ほとんどの大きな関節において、この層は厚さが約5mmあり、関節の表面がお互いに損傷を与えずに滑ることを可能にしている。材料はそれ自体が非常に強く、負荷に堪え、体の一部から別の一部に負荷を移すことができなければならない。また関節軟骨は、衝撃吸収材としても作用し、応力の集中を緩和して軟骨下骨へのピーク圧力を最小にする。関節軟骨の主な構成を図1に示す。

関節軟骨の主要な一つの構成成分は間質液であり、軟骨の起始と完全性によって、軟骨総重量の最大80%までを占める。コラーゲンは総重量の12~24%を占め、軟骨細胞は体積の約1%を占めるにすぎない。プロテオグリカンモノマーは軟骨重量の6~12%を占める。

関節軟骨は非常に多孔性の材質である。構造は簡単で、架橋して網状組織を形成するコラーゲン原線維のみから成る。図1に網状組織のモデルを示す。コラーゲンが関節軟骨に占める割合はわずかである一方で、全体的な構造に動的な強度を与えている。他の組織成分が集合的かつ相乗効果的にコラーゲン原線維と作用しないと、この単純構造は負荷がかかったときに崩壊するだろう。

コラーゲン原線維は金属ほど強くなく、また耐用性もない。にもかかわらず、我々はまだ関節軟骨と同じように活性があり、有効な人工材料を見つけることができていない。この原因の一部は材料開発の難しさであるが、同時に健康な体内で軟骨がどのように100年間以上にわたって動作し続けることができるのかに関する無理解に根ざしている。生体物質であるため、その再生可能メカニズムと生物学的過程を理解することが生物活性材料の開発の鍵である。

図3: 異なる材料別の年間・線形摩耗量(Me =メタル; Ce =セラミック; XPE =架橋PE).

ポリエチレン

ポリエチレン(PE)は、1960年代後半にイギリス人整形外科医ジョン・チャンレー卿によって導入された。PEは簡単な重合体構造を持ち、ポリマーの長鎖に沿って繰り返すCH2単位から成る。

全関節コンポーネントで使用される医療グレードのPEは、1モル当たり4~600万グラムの間の異なる分子量を持つ。この材料は超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)として知られている。

UHMWPEは非常に丈夫ながらも柔軟な材料である。図2に人工股関節のコンポーネントを示す。ここでPEはライナーとして使用されている。理論上、PEライナーは少なくとも部分的に、関節軟骨として動作し、関節の硬い金属表面が相互に損傷を与えることなく滑ることを可能にすることが期待された(PEが優れた機械的性能を提供すると仮定した場合)。

残念ながら、この材料は期待通りの成果を上げることができなかった。特に長期的な性能を見た場合、標準のUHMWPEは完璧な材料ではない。PEはMOMより摩耗率が高いため、MOMインプラントに見られるように、PEもまた粒子を生み出す(図3参照)。加えてPEは、特に架橋UHMWPEを生産するために高エネルギー照射に暴露された場合に、疲労破損が起こることもある。2

ポリマーの化学的、物理的、機械的な性質に対する高エネルギー照射の影響は非常に複雑である。本記事の著者は、モデルポリマー(ポリプロピレン)を調査・使用し、異なる分量のガンマ線照射により延性から脆性までさまざまな機械的性質を取得した。3 4

 

セラミックス

図4:: Ceramで開発されたジルコニア(明るい部分)強化アルミナ(暗い部分)のミクロ構造。

過去25年間で整形外科的応用向けの材料において最も重要なブレークスルーは、セラミックス股関節の使用である。セラミックスには、金属とポリマーより優れたいくつかの利点がある。

セラミックスはあらゆる材料の中で最も化学的かつ生物学的に不活性である。また、強度と硬度にも優れている。したがって、セラミックスは人工関節表面の間に時折付着する小さな粒子(例えば、骨セメントや金属の屑)による傷に対して耐性がある。これまで、ほとんどすべての報告された結果において、セラミックスが金属またはPEと比較して摩耗粒子の生成が最も少ないことが示されている。5-13 報告されたデータにばらつきは存在するものの、全般的な傾向と結論には説得力がある。

図3にCeramTecにより蓄積かつ公開された異なる材料の線形摩耗量の比較を示す。メタルオンPE(図中のMe/PE)は磨耗量が最も多く、セラミックオンセラミック(Ce/Ce)は最も少ないことが分かる。

医療グレードセラミックスの主な欠点はその脆性である。金属やポリマーと異なり、セラミックス材料は圧力に応じて変形することができない。医療用セラミックス材料にかかる圧力が一定の限界を超えると、セラミックスは破裂してしまう。過去に見られた全人工股関節のセラミックスコンポーネントの破裂骨折は、その当時のセラミックス材料の低品質によって引き起こされている。

しかしながら、現在の医療用セラミックスもやはり壊れやすい。したがって、高靭性セラミックスの開発にこれまで同様、これからも焦点が置かれるだろう。さらなる微細損傷力学の発展とマイクロおよびナノセラミックス化合物の設計は、医療用途のより高度なセラミックスを生み出すことにつながる。

図4にCeramで開発されたジルコニア(明るい部分)強化アルミナ(暗い部分)のミクロ構造を示す。このセラミックス化合物は、これまでの最高破砕強度である7.2MPa m1/2という優れた破壊靭性を達成している。

 

整形外科デバイス開発と設計のための材料選定

整形外科的応用にセラミックスを使うことのメリットには次が含まれる。

・ポリマーまたは合金と比較して摩耗量が最低で長寿命である

・生体不活性の特性をもち、体が粒子に反応しない

・新しい骨の成長を刺激するように材料が設計された場合に、生物活性の性質を持つ

図5:セラミックスハイブリッド材料の一例。セラミック化合物はセラミックフォーム(明るい部分)と、Ceramにより開発されたポリマー混合物(暗い部分)で構成される。

セラミックスは、ポリマーなどその他の材料と組み合わせてハイブリッド複合材料を形成するために使用することができる。

図5にセラミックスハイブリッド材料の一例を示す。このセラミック化合物はセラミックフォーム(明るい部分)と、Ceramにより開発されたポリマー混合物(暗い部分)で構成される。このハイブリッド材料はセラミックの生物活性および硬度、そして強化されたポリマーの柔軟性を活かしている。

さまざまな形式のセラミックハイブリッド化合物から、脊椎固定術、縫合アンカー、固定用および外傷用ネジ、大腿骨インプラント、歯科用インプラント、関節の部分および全置換術を含み、またこれらに限らない、異なる用途向けの多様なミクロ構造を形成することができる。すべてが設計と開発の基本である、特定のインプラント装置向けの特定の材料という原理に従っている。やはり、プロジェクトの開始時および設計管理に先立つ、材料の評価と選択が成功の秘訣である。

ポリエチレンのほか、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が最近、整形外科市場に導入されている。これは、工学材料として使用される熱可塑性有機ポリマーである。好例の1つが、Medtronic社によって開発されたInfuse骨移植材である。

 

生物活性材料の未来

では、整形外科的応用のための材料にはどんな未来があるだろうか。新しい生物活性材料の開発が基本的な要件となり、これが材料専門家の課題となることは明白である。整形外科用医療機器は生物活性を念頭に置いて設計されなければならない。

もう1つの課題は、新しい人工関節軟骨の開発である。材料は生物活性があるだけでなく、膝の場合体重の6.5倍もの大きな負荷に堪え、かつ関節の潤滑層として作用しなければならない。図1に示したように、新材料の設計と開発は、強くてアクティブなものにするため、大量の間質液、若干の軟骨細胞、プロテオグリカンなどを含むことができなければならない。

 

参考文献:

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2.    J. Furmanski, et al., “Clinical fracture of cross-linked UHMWPE acetabular liners,” Biomaterials,  30, 29, 5572−82 (2009).
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4.    X.C. Zhang, et al., “The Morphology of Gamma-ray Irradiated Isotatic Polypropylene,”  J. Appl. Polym. Sci., 74, 2234−2242 (1999).
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9.    J.M.Martell, J.J. Verner and S.J. Invaco, “Clinical performance of a highly cross-linked polyethylene at two years in total hip arthroplasty: A randomized prospective trial,” J Arthroplasty, 18, 7 suppl. 1, 55−59 (2003).
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12.    C.R. Bragdon et al., “Steady-State Penetration Rates of Electron Beam–Irradiated, Highly Cross-Linked Polyethylene at an Average 45-Month Follow-Up,” J Arthroplasty, 21, 7, 935−943 (2006).
13.    D.W. Manning, et al., “In Vivo Comparative Wear Study of Traditional and Highly Cross-linked Polyethylene in Total Hip Arthroplasty,” J Arthroplasty 20, 7, 880−886 (2005).

 

著者:

Xiang Zhang, PhD, is
Principal Consultant,
Division of Medical Materials and Devices, Ceram,
Queens Road, Penkhull,
Stoke-on-Trent,
Staffordshire ST4 7LQ, UK  |  Tel. +44 1782 764 428
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www.ceram.com/healthcare

 

本記事の初出は、European Medical Device Technology、2011年9月号

 

 

 

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