トップインタビュー:生体吸収性ステントの開発・製品化に成功した京都医療設計【伊垣敬二氏】

京都医療設計:伊垣 敬二社長

ー京都発、画期的な生体吸収性ステントの誕生秘話

心筋に血液を送る冠動脈は、生命維持には不可欠である。従って、狭心症や心筋梗塞といった疾病には、閉塞したり狭窄した病変部をカテーテル(チューブ)を使って拡張する血管内の手術が行われる。

近年、外科的手術と比較して短時間・低侵襲のPTCA(経皮経管的冠動脈形成術)が主流になっているが、それに併用して、合併症の予防効果が高いとされる冠動脈ステント(冠動脈壁を内部から支えて血管を拡張する医療器具)が使われている。しかし、これまで市販されてきた冠動脈ステントはほとんどが金属製で、体の中に異物として残留してしまう。そこで誕生したのが、京都医療設計が開発した、体内に分解吸収される「からだに優しい」素材で出来た「溶ける」ステントだ。

欧米を中心に吸収型ステントの研究が進む中、世界初の商品化に成功した株式会社京都医療設計の伊垣敬二社長に、故・玉井秀男 医師と二人三脚で取り組んだ画期的なステントについて話を伺った。


『医療設計と製造技術』(JMDMT: まずは、何故、生体吸収性ステントに着目したのかお聞かせ下さい。

伊垣社長:「もともとは、1990年に米デューク大学のRichard Stack氏が中心となって、ポリ乳酸製のステントを開発し、イヌの動脈に6〜8本程度のステントを入れて良い結果を出し、世界中が沸き立ちました。 

ただ、Stack氏の着想は非常に良かったのですが、製品化は遅々として進まなかったようです。そんな中、Stack氏のアイディアに触発された日本の滋賀県立成人病センター副センター長玉井秀男氏が、是非、吸収型ステントを日本で作れないかと弊社に相談を持ちかけて来られたのです。

実は開発の初期段階では、製品化を阻むのは原材料のポリ乳酸であると考え、ポリグリコール酸(PGA)を使用していました」

JMDMT: 何故、ポリグリコール酸で作り初めて、結局はポリ乳酸に変更されたのでしょう?

共同開発者の故玉井氏(左)と伊垣社長(右)

伊垣社長:「ステントは、溶けるだけがポイントなのではなく、埋め込んだ後の一定期間(およそ4〜6ヶ月)、狭窄部位を物理的に広げて血流を確保する役割をきちんと果たせないと意味がありません。

ポリ乳酸だとどうしても強度が劣るので、京都工芸繊維大学の先生方とも相談してPGAで作ろうということで研究を始めました。ところが、PGAでステントを作製してイヌやブタに埋め込んだ実験を何度も試みましたが、どうしても良い結果が出ませんでした。

PGAは分解速度が速すぎて、ステントの機能を短期間しか保持できず、埋め込み部位が高頻度で再び狭窄してしまうのです。先生方と検討の末、ポリ乳酸で再挑戦することにしたのですが、これが大変困難な作業でした。

最終的に、分子量などを工夫することで、血管組織への適合性と強度を併せ持たせることに成功しました」

JMDMT: ステントとしての機能を発揮する期間と溶けるスピードはどのくらいなのでしょうか?

伊垣社長:「6〜9カ月間は外側へ拡張する力を体内で維持でき、その後、血液内の水分の存在によって、しだいに水と二酸化炭素に代謝され、1〜2年以内で体内に完全に吸収されます。乳酸は、もともと人間の体内にある物質なので、安全性についても懸念がありません」

JMDMT: ステントのサイズはどのくらいですか?

伊垣社長:「直径0.17ミリメートルの釣り糸のようなひもを網目状の筒型に成形します。極細のポリマー管をつくる当社の技術をステントの開発にも活かすことができました。現在欧州で販売している弊社ステントの長さは3/6/7/8センチ、直径は5〜8 ミリの8種類があります」

JMDMT: 金属製に比べて、体内で自然に分解、吸収されると適用範囲も広がりますね。

伊垣社長:「金属アレルギーや成長過程にあることが原因で、金属ステントを埋め込むことができなかった患者さんにも使用できるし、ステントを埋め込んだ箇所が再び狭くなっても、再びステントを埋め込むなどの再治療の妨げになりません。
また、金属ステントに比べ、ステント内に薬剤を付着させることが容易であり、薬剤溶出ステントのプラットホームとしても期待されています」

JMDMT: そうして開発された生体吸収性ステント(下肢用)「REMEDY」は、世界に先駆け、2008年末に、欧州連合(EU)承認の「CEマーク」を取得しています。

伊垣社長:「2003年からドイツとイタリアで計90人に臨床試験を実施し、その後、EUの第三者委員会が製品の安全性を評価しました。EU内で商品を流通させる際に必要なCEマークの取得は、比較的容易でした。

これは医療機器に対する責任の所在についての考え方が日本国とEUでは基本的に大きく違うからです。CEマークは商品として販売できる最低基準を満たせば取得することができ、何か問題が生じた時には、国や認証機関ではなくメーカーが直接原告と向き合います。

つまり承認は比較的容易に得られますが、製造者の責任は無限にあるといえます。ですから、製造者の方がより販売に慎重になり、弊社の場合はCEマークを取得後、さらに製品に改良を加え、ドイツで販売を開始したのは1年後でした」

JMDMT: 今年10月には経済産業省による平成23年度「課題解決型医療機器の開発・改良に向けた病院・企業間の連携支援事業」にも選定されました。どのような改良を進めていかれる予定ですか?

伊垣社長:「京都工芸繊維大学とタイアップして、1年目は産学共同でポリ乳酸製ステントの強度を更に上げ、2年目には慶應義塾大学で治験を実施、3年目でPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)の承認を受けて国内での販売をめざしています」

JMDMT: 今後の展開は?

伊垣社長:「今回の経産省のプロジェクトは、下肢の血管が詰まる閉塞性動脈硬化症などの治療用ステント(下肢用)にフォーカスしていますが、心臓疾患用のステントも開発済みで、既にドイツ・ミュンヘンの大学病院で治験を始めています」

JMDMT: 最後に、日本発・京都発の画期的な生体吸収性ステントが実現した秘訣をお聞かせ下さい。

伊垣社長:「医療機器産業は、厳しい許認可制度、販売まで時間がかかる、万が一事故が起きた場合、企業の受けるダメージは致命的であるなどさまざまなハードルがあり、たとえすぐれた技術を持っていても、大企業ですら参入が難しい業界です。

われわれは、循環器科、放射線科、脳神経外科で使用される医療機器、医療材料を中心に、あらゆる機器や材料を取り扱う商社としてスタートしたため、患者や医師から現場でのニーズを吸い上げるシステムが出来上がっていました。ですから、生体内で吸収されるステントという画期的で市場性のある製品であれば、世界の舞台でも勝てるという確信が持てたのです」

 


株式会社京都医療設計は、従業員約60名の中小企業で、ステント担当はうち7名。

技術者でもある伊垣社長が先頭に立ち、日本発・京都発の画期的な低侵襲ステントの開発を世界に先駆けて進めてきた。

開発過程で数々の壁にぶつかっても、必ず「的確な助言」をして「パスウェイを示してくれる人がいた」ので、「苦労は全く無く、むしろ楽しかった」と言い切る伊垣社長。1990年代のバブル崩壊後、日本全体が落ち込んでいる時期に、伊垣・玉井両氏は、「元気な日本」を印象づけるべく、日本発のポリマー製ステントの臨床使用の有用性を海外の学会で説いてきた。

2009年に大切な開発パートナーだった玉井氏は急逝したが、みごとに製品化されたIgaki-Tamai stent (イガキ・タマイ ステント)は、日本の誇る技術力の真髄として海外での存在感をますます高めている。

(取材:編集部 安西)

 

伊垣 敬二氏

株式会社京都医療設計 代表取締役社長

工学博士

1948年京都に生まれる。1974年吉田工業株式会社(現YKK)を退社後、カナダモントリオールに渡り、北米の衣食住及び真善美について遊びながら学ぶ。帰国後、1980年に株式会社京都医療設計の前身である伊垣医療設計を設立。代表者を経て、1985年同社代表取締役社長、現在に至る。

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