産総研、生体内で発電できる光熱発電素子を開発

独立行政法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)は、光によって容易に発熱可能なカーボンナノチューブ(CNT)の特性(光発熱特性)を熱電変換素子に組み入れることにより、生体内で発電できる新たな光熱発電素子を開発した。心臓ペースメーカーなどの数多くの体内埋め込み型ウエアラブル型医療機器などへの光による遠隔電力供給システムの実現が期待される。

CNT-高分子複合材料の特性

カーボンナノチューブ(CNT)は、ナノ炭素材料の一つとして大きな注目を集めているが、溶媒に分散しにくい点が応用上の制約となっていた。今回、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)を用いると、CNTをシリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン;PDMS)中に均一に分散できることを見いだした。このCNTを分散させた樹脂は生体透過性の高い近赤外レーザー光によって発熱する。この樹脂フィルムをビスマス- テルル型の固体熱電変換素子の表面に接合した光熱発電素子は、近赤外レーザー光によって樹脂フィルムが発熱して熱電変換素子に温度差を生じ、それによって 体内で効果的な熱電発電動作を示した。 

心臓ペースメーカーをはじめさまざまな体内埋め込み型医療機器の需要が世界中で高まっている。また、健康状態などを常時モニタリングできる生体貼り付け型 のウエアラブルデバイスに注目が集まっている。しかし、このような機器を持続的に駆動させるための安定した電力供給システムが問題となっている。プルトニウムを使って半永久的に使用できる原子力電池は、被曝の恐れや多くの規制、法的な問題があり普及には至らなかった。現在は、リチウムイオン電池が主流と なっているが、その寿命は10年程度であり、電池交換やデバイスメンテナンスのための大掛かりな外科的手術が患者への大きな負担となっている。また、手術 を伴わない方法として電磁誘導によるワイヤレス充電があるが、電磁波による生体への影響や、医療機器内の電子回路の誤動作などが大きな問題となっている。そのため、生体内に埋め込まれたデバイスへの安全な遠隔電力供給システムが求められている。

今回、産総研の健康工学研究部門【研究部門長 吉田 康一】ストレスシグナル研究グループ【研究グループ長 萩原 義久】 都 英次郎 研究員らが、生体内に埋め込まれたデバイスなどへの新しい遠隔式電力供給技術として生体透過性の高い近赤外レーザー光により容易に発熱するCNTの特性(光発熱 特性)を、温度差によって発電する熱電変換素子に組み入れることで、生体内で機能する新しい発電技術の開発に取り組んだ。

試作部品は、最小で幅4.0 mm×高さ4.0 mm×厚さ4.4 mmのサイコロ型。この試作した素子に各種レーザー光を30分間照射すると、熱電発電動作を示し、各 レーザー出力に応じて効果的に電気エネルギーを得ることができたという。また、SWCNT、多層CNT(MWCNT)、グラファイト、フラーレン(C60)などのさまざまな炭素材料を用いた場合の発電量を比較したところ、P3HTによってPDMS中に高分散化させたSWCNTが最も高い発電量(≒185 mV)を与えることが明らかとなった。さらに、この光熱発電素子をラット背面に埋め込みレーザー光を30分間照射したところ生体内においても発電動作が起こることを実証できた。また、CNTの光発熱特性により、ラット体表面(素子埋め込み部位)の温度が30℃から40℃付近まで上昇することがわかった。このとき、この光熱発電素 子は、生体外と同様の発電挙動を示し、P3HT−SWCNT−PDMS複合材料を用いたときには、最大の発電量(≒8 mV)が得られた。

今後は、CNT−高分子複合材料や熱電変換材料のナノ構造制御、レーザーの効率的な照射システムの構築などによって、素子自体の光熱発電効率のさらなる向 上を目指す。同時に素子の生体適合性評価や耐久性試験を行い、生体内で安心・安全に利用できる光熱発電素子の開発を目指す。また、共同研究企業を募集し、 製品化に向けた研究開発を行うという。

本技術の詳細は、ドイツの化学誌Angewandte Chemie International Editionに2011年10月27日(日本時間)にオンライン掲載された。

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