東京医科歯科大と東工大、体外設置型の磁気浮上遠心式補助人工心臓を開発

東京医科歯科大学と東京工業大学の研究者らは、1週間から1ヶ月程度使用できる生体適合性にすぐれた「使い捨て式の体外設置型磁気浮上遠心血液ポンプ」の開発に成功した。既に開発メンバーらが出資してベンチャー企業「メドテックハート株式会社」を設立しており、中期間使用可能な循環補助装置として、まず欧米において製造販売承認を取得し、海外での実績を積んだうえで、国内に逆輸入・販売する予定だ。

これと並行して経皮人工肺装置の血液ポンプとして市販されている人工肺と組み合わせることにより、簡便な経皮人工心肺装置を作成し、製造販売承認を取得することも計画している。

また、コスト低減を目的として、使い捨て部分に永久磁石を使用しない磁石レス磁気浮上遠心血液ポンプの研究開発も進め、世界初の磁石レス磁気浮上ポンプの実現も目指す。さらに、システムの小型化を図り、新生児から小児への応用を展開することや循環系以外への応用として、透析装置の研究開発を進め、製品化を図ることも視野に入れている。

 

現在国内で認可されている人工心臓には、

1)手術時に6時間程度の心肺機能を代行する人工心肺装置の血液ポンプや、

2)救急救命医療として1週間程度の生命維持を行い、手術などに橋渡しする経皮人工心肺(PCPS)の血液ポンプ、

3)心臓移植を前提に2年以上の長期間循環を維持する植え込み式補助人工心臓がる。

 

しかし、1週間から1ヵ月の中期間の循環補助に適した、小型で生体適合性に優れた装置はなかった。この期間に対応した補助循環装置は、救急救命治療室に運び込まれる急性心筋梗塞などの患者への中期的な循環補助・治療を可能にし、次の治療手段の構築や選択につながるなど、ドナー不足により心臓移植が困難な重症心不全患者の生きるための福音となることが期待される。

図1 機械式ベアリングの血液ポンプと非接触式血液ポンプの構造比較

接触軸受(ピボット軸受)を用いてインペラーを支持し、Z方向の磁気カプリング力でインペラーを回転させる従来の遠心血液ポンプ(左)。機械式軸受 を用いず、磁気によって回転体であるインペラーを磁気浮上させ、完全非接触の状態で回転させる磁気浮上型血液ポンプ(右)。従来の遠心血液ポンプ(左)で は、軸受の摩耗、せん断力、滞留などにより、耐久性の低下、血球破壊(溶血)、血栓形成を生じるが、非接触軸受ポンプでは、それらの問題は防げる。

 

従来の体外式ポンプ技術では、血液を押し出す羽根車を機械式ベアリングで支持するため(図1)、ベアリングの摩耗や熱発生などが原因で起こる血球破壊や血液の凝固などにより、ポンプ内に血栓ができて、24〜48時間でポンプ交換が必要だった。

 

そこで、研究者らは磁気により羽根車を浮上させて摩耗を防ぐとともに、ポンプの取り外しも簡単にできる構造について試作改良を行った。さらに血栓ができないように、血液接触面に生体適合性の優れた素材であるMPCポリマーをコーティングした。

 

牛を用いた動物試験では、この試作血流ポンプを使い、ポンプ交換せずに60日間の連続運転に5頭で成功し、本血流ポンプの実用性と安全性を確認することができたという。そこで、1ヵ月間安全に使用可能な、ディスポ式磁気浮上遠心血液ポンプ技術の実用化に目途がついた。

 

開発代表者の東京医科歯科大学 高谷 節雄教授・副学長と分担開発者の東京工業大学 進士 忠彦教授らが開発した本血流ポンプには、従来のものと比較して、次のような大きな特徴がある。

  •  機械式ベアリングの短期使用血液ポンプと比較して、耐久性、抗溶血性、抗血栓性、ポンプ内充填量などにおいて優れている。また、1ヵ月間の使用が認可さ れている拍動流補助人工心臓と比較して抗溶血、抗血栓性などにおいて優れているのみならず、拍動流ポンプには欠かせない弁を必要とせず、小型化、構造の単 純化が可能。
  • (ポンプ性能が原因で人工肺の性能低下を招くと考えられている経皮人工心肺治療において、本ポンプを用いることで人工肺の寿命を延長し、2〜3週間安全な心肺補助を通じて生命維持を可能にし、次なる治療方針の構築を可能にする。
  •  血液ポンプ、人工肺その他関連する回路部品を含めた一式をポータブル化することで、救急車やドクターヘリに搭載して患者サイトへ運び込み、早期装着を施すことで、救命率の向上にも寄与する。
  •  使用する際は、左側開胸または末梢血管からカテーテルを挿入して循環維持ができ、正中切開を要する植え込み式補助人工心臓と比較して低侵襲で使える利点がある。
  •  植え込み式補助人工心臓の前段階に本デバイスによる治療を行うことで、本当に心臓移植や植え込み式補助人工心臓を必要とするかどうかの判断を可能にすると同時に、高度侵襲治療に耐えうる健康状態を創出する。
  •  植え込み式補助人工心臓の適用となった患者において左心を補助した場合、右心に負荷がかかり右心不全を発生するケースが報告されているが、本血流ポンプはそのような状況において一時的に右心補助ポンプとしての使用に適している。
  •  国内には、小児用補助人工心臓はありませんが、本血流ポンプの充填血液量は20ccと、ほかのポンプに比べて少なく、小児心疾患の治療にも適しており、心臓移植への橋渡し治療を可能にする。
  • 透析治療への応用において、血液・透析液ポンプとしてクリーンな血液や透析液の循環を可能にする。

 

今回のベンチャー企業の設立は、科学技術振興機構(JST)の「独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進」プロジェクトによる研究開発成果によるもの。

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