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生体医療用途向け超低電力インチワーム型アクチュエータ

生体医療用途向け超低電力インチワーム型アクチュエータ

マイクロプローブに組み込まれた新しいインチワーム型静電アクチュエータについて本記事で説明する。疎水性の原則を利用したこの防水性デバイスは、脳での適用におけるマイクロニードルの正確な位置制御を含めたさまざまな生体内用途に適している。 By: M. Erişmiş, H. Pereira Neves, P. De Moor and M. Van Bavel, IMEC, Leuven, Belgium マイクロアクチュエータの可能性 Erismis-mainマイクロアクチュエータは MEMS (micro electro mechanical system) 技術を使用して、エネルギーを微小移動に変換し、数マイクロメートルまたはナノメートル単位の高精度で素子を配置または制御することを可能にする。それらは生体やその環境を顕微鏡スケールで制御する必要があるとき、生体医療用途において役立つ。 今日マイクロアクチュエータは、マイクロマニピュレータ、顕微手術ツール、マイクロポンプ、マイクロバルブ、マイクロニードルとして、またはそれらに組み込んだ形で使用されている。具体的な用途の一つが、脳の用途向けのマイクロプローブとの統合である。この統合によって、脳の三次元スキャンなどの用途における使用の可能性が高まる。現在、脳の研究において脳インプラント向けアクチュエータがすでに使用されているが、それらは体外に配置されている。体内に配置できるようになれば、長期的な患者の治療が可能になる。この願望を現実にするための取り組みが行われている。 厳しいインビボの要件 生体内での生体医療用途にマイクロアクチュエータを使用することは困難である。アクチュエータは位置の制御に使用されるため、十分な力を広範囲に提供できなければならない。 その用途においてバッテリーの寿命は重要な設計基準の1つであるため、アクチュエータは動作電圧が低く、消費電力も低い必要がある。また、アクチュエータは水性の環境で作動するため、適切なパッケージが必須である。これらのすべての要件が適したアクチュエータの構造を必要とする。現存のマイクロアクチュエータは、静電アクチュエータ、サーマルアクチュエータ、共役ポリマーアクチュエータ、電気化学アクチュエータ等、いくつかのカテゴリに分類される。それらの長所と短所を精査することにより、上述の困難を克服するにはインチワーム型の静電アクチュエータが最も適していることが分かった。マイクロ加工されたインチワームアクチュエータは、出力を低下させずに広範囲(数ミリメートルが可能)を達成できる。さらに、ナノメートル域の分解能がすでに実現されている。本記事は、革新的な防水封入式インチワーム型静電マイクロアクチュエータトポロジについて説明すると共に、それらが生体内医療用途に適していることを提示する。 コンセプトと作製 「インチワーム」という語は本来、シャトルを捕捉・解放でき、行き先へとシャトルを徐々に変位させることができる、直線状段階式圧電アクチュエータの特定のタイプに与えられた名称である。現在、インチワームは少しずつ小さいたわみを加えてより大きな変位を達成するアクチュエータの一群を指す一般的な名称になっている。圧電、静電、サーマルなど異なるインチワームアクチュエーション機構が存在する。モデリングが容易で、MEMS に組み込みやすく、大きい出力を提供できる、静電インチワームトポロジが選択されている。

アクチュエータの概略図(a、左)

図1a: アクチュエータの概略図(画像クリックで拡大)

図1. 6 ステップの動作原則(b、右)

図1b: 左図における6ステップの動作原則(画像クリックで拡大)

インチワームアクチュエータは、駆動ユニット、2つのラッチユニット、シャトルの4つの主要ブロックを持つ。駆動ユニットはシャトルに沿ってステップ移動を形成し、ラッチユニットは1つずつこの動きを維持する。図1aとbにアクチュエータの6ステップの動作サイクルを示す。始めにラッチAとラッチBが共に作動され、シャトルアームを捕捉する(ステップ0)。ステップ1でラッチAが左アームを解放する。ステップ2では引っ込むことでドライブがステップ移動を形成する。ドライブのトラスが電極に向かって引かれるにつれて、面内角度変換が自由なシャトルアームの右移動ステップを形成する。ステップ3で、この移動がラッチAにより維持される。ステップ4とステップ5では、ラッチBとドライブがそれぞれ解放される。ドライブが解放されると、右アームで獲得した移動ステップが左アームに受け渡される。最後に、ラッチBがそのシャトルアームを固定し、この移動ステップを保持してサイクルが完了する。ステップ1でラッチAに代わってラッチBを作動させることで、逆の移動も達成される。 この研究の目標は、広範囲で大きい出力を提供する低電圧アクチュエータを獲得することである。この目標に関して、この研究で紹介したトポロジは機械的な前進の調整段階を含んでいるため、過去の既存のトポロジより優れている。六角形の中で形成されたベントビーム角度(図1a)が面内角度変換を形成し、それが調整可能な機械的前進を提供する。この調整可能な機械的前進が、ステップ生成中に力と変位の交換達成を助ける。この角度は、低電圧と低電力の応用向けにインチワームの設計を最適化するための重大な設計パラメータである。

 作製されたアクチュエータの光学顕微鏡画像。

図2: 作製されたアクチュエータの光学顕微鏡。

このアクチュエータは SOI(シリコンオンインシュレータ)に基づいたマルチユーザプロセス、すなわち SOIMUMP(SOI Multi-User MEMS Process)を利用して作製された。SOIMUMP は、応力に関連する湾曲がほとんどなく、高品質、高アスペクト比のシリコン構造層を可能にする商用利用可能なプロセスであり、より好ましい技法である。これは、設計の極めて高速な作製を可能にする商用マルチユーザプロセスである。図2 に作製されたアクチュエータの光学顕微鏡画像を示す。 防水封入 生体内での生体医療用途に静電マイクロアクチュエータを組み込むことは、次の2つの理由で困難である。第一に、静電アクチュエータが正常に動作するには環境が厳しすぎる場合がある。イオン性で生物粒子を含む体液は、腐食や粒子汚染、スティクション(別のものに接触している 1 つのものが動き始めるために必要とする力)を生じる場合がある。第二の理由は、静電アクチュエーションの本質から生じる。電解と分極がデバイスの動作を妨げる場合がある。これらの用途にはアクチュエータの防水封入が不可欠である。これは水が櫛歯に浸透できず、かつアクチュエータの運動が封入によって妨げられないないような方法で行う必要がある。

 封入型アクチュエータ。

図3: 封入型アクチュエータ。

しかしながら、これは問題を生じる。生体内医療用途に必要であるパッケージの密封性を維持しながら、どのようにアクチュエータによって制御される外部のプローブを前後に動かすのか?この研究でアクチュエータは、アクチュエータの動きを許容する小さい空間を形成したフリップチップ実装のガラスキャップを使用してパッケージされている。 空間を介した水の浸入はさらなる疎水性表面処理、すなわち、誘導結合プラズマシステムにおけるテフロン堆積とダミー櫛歯によって形成した表面の粗さによって、空間の壁を疎水性にすることで防止される(図3)。この概念の最大の利点は、空気中のアクチュエータと同様の特性が水中でも得られることである。したがって、出力には大きな損失も一切なく、小さい電圧での操作が可能である。 この理由により、弾性材料の中にアクチュエータを完全に封入して、出力が制限される方法よりも、この封入法が好ましい。 アクチュエータのテスト これらの作製技術を使用することにより、異なる特性を持つアクチュエータが作製され、テストに合格している。アクチュエータの性能は、100 倍率のカメラを搭載したプローブステーションを使って評価された。 デジタル画像相関法を使用し、微小な変位が測定された。プロトタイプの性能は、過去に報告されているその他インチワーム型アクチュエータの結果と比較して目覚しいものがあった。最大範囲 (±50μm) を持つアクチュエータは 11V で動作した。その最大出力は ±195 μN、平均ステップサイズ 1.1μm であった。最低動作電圧の静電インチワーム型アクチュエータは 6V で動作し、範囲 ±18μm、±25 μN を示した。これらアクチュエータの寿命については 2000 万ステップまでテストが行われた。 このアクチュエータはテフロン堆積後の水中で動作可能であった。動作は水性環境でも大きな影響を受けなかった。アクチュエータは大きな問題なく水中で1週間動作し、封入法の実現可能性を示すことができた(図4)。 インチワーム型アクチュエータの可能性 広範囲アクチュエータは、低電圧、低消費電力、広範囲、大出力の用途向けの最先端技術であると考えられている。これらアクチュエータはその静電性質のため動的電力だけを消費する。さらに、このアクチュエータの概念は、異なる用途向けの多様なステップサイズのアクチュエータの設計可能性を実現できる。面内角度変換が力と変位の交換を提供し、設計における小さな変更のみで数ナノメートルから数マイクロメートルまでの多様なステップサイズの設定を可能にする。

しかしながら、ここで説明したインチワーム型アクチュエータは、小型、低電力、広範囲の動作を防水性と長い自律性を組み合わせている。この革新的な特性の組み合わせによって、このアクチュエータは生体内医療用途、および一般に長い自律性と小さいバッテリーを組み合わせる必要があるような、あらゆる用途での使用に特に適している。このデバイスで、長期的な患者の治療が現実のものとなり得る。特に、このアクチュエータは、脳での用途で使用されるマイクロニードルの位置を正確に制御するために使用することができる。これは特異的疾患において神経細胞の正しい群に到達させるため、そしてより良い信号対ノイズ比を得るために神経細胞付近に配置するために必要である。 これらの応用を実現すべく、人体と完全な互換性を可能にする生体適合性皮膜が開発されている。
図4. 水中で動作する封入型アクチュエータ。

図4: 水中で動作する封入型アクチュエータ。

技術の拡張 マイクロプローブに組み込まれ、SOI に基づいたマイクロ加工を用いて作製される広範囲、低電圧、低電力、大出力の静電インチワーム型マイクロアクチュエータは、10V 未満で動作し、消費電力は100nW 未満で、50µN を超える出力と 20µm 超のストロークを提供する。動作電圧は現在利用可能なアクチュエータの 3 倍低くなっている。フリップチップ実装ガラスキャップと疎水性表面処理による革新的な封入法で、マイクロプローブを水性環境で動作させることができる。これら特性のすべてがこのデバイスを脳での用途を含めた生体医療用途に特に適したものとしている。 Mehmet Akif Erişmiş¸ is a BioMEMS researcher, Hercules Pereira Neves is Principle Scientist and Programme Manager, Piet De Moor is Group Leader Heterogeneous Component Integration, and Mieke Van Bavel is Scientific Editor at IMEC Kapeldreef 75, B-3001 Leuven, Belgium, tel. + 32 1628 8010, e-mail: mieke.vanbavel@imec.be, www.imec.be 本記事の初出は、European Medical Device Technology 2010年3月号です。 Copyright © 2010, Canon Communications LLC

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