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外部磁場を利用した生体内デバイスの操作

外部磁場を利用した生体内デバイスの操作

磁性を持つ物体を相互に近づけたとき、物体間に生じる磁力は極めて大きい。しかしながら、磁石を使って遠距離にわたり物体を操作することは容易ではない。本記事は、磁場を利用して胃および食道内でカメラカプセルを操作し、正確な位置に配置することを目的とした欧州プロジェクト1の研究における進展について説明する。body A. Schneider and F. Volke, Fraunhofer Institute for Biomedical Engineering, Sulzbach,Germany B. Manz, Magritek Ltd, Kelburn, Wellington, New Zealand 磁力を活用して 永久磁石は、ボード上にメモを固定したり、磁気クランプで貨物を輸送したりなど、さまざまな用途で日常的に使用されているツールである。永久磁石は多様な形状と大きさで大量生産され、既製の製品として販売されており、特定の形状に作られた特殊合金から成るものも製造されている。 現在市販されている最も強力な永久磁石はネオジム・鉄・ボロン(NdFeB)合金製である。NdFeB 磁石は最大約 1.3 テスラ(T)の残留磁束密度(Br)まで磁化することができる。 単純な静磁場に関する問題に対してすら、その解決策を見いだすことは、複雑かつ困難である。過去数年間、Fraunhofer IBMT (生物医学技術研究所) の研究活動は、核磁気共鳴に対応できる均一磁場の生成や無菌マイクロ流体環境における細胞の無接触操作など、さまざまな生物医学的応用に関する磁力の研究に重点を置いてきた。2,3 経験に基づき、磁気操作に置ける異なるオプションの評価には計算、シミュレーション、実験を一つにした混合アプローチが最も有望である。

 永久磁石での磁場のシミュレーション(長さ=100mm、半径=25 mm)、Br=1.3T。磁石外側で磁場が急速に衰える。

図1: 永久磁石での磁場のシミュレーション(長さ=100mm、半径=25 mm)、Br=1.3T。磁石外側で磁場が急速に衰える。

磁石は磁場(B)を形成し、この磁場において磁石表面上の磁力は Br よりずっと小さく、距離の増加に伴い急速に減少する(図1)。小さい磁石を外部磁場に持ってくると、より小さい磁石は外部磁場の磁力線に沿って並ぶ。不均一な磁場の作用によって、対極で相互に吸引し合い、より小さい磁石でトルクが形成される。 小さい磁石上のトルクの大きさは、その小さい磁石の位置の磁場強度に正比例する。磁力は小さい磁石の長さにわたる磁場強度の差に比例するため、磁場強度の導関数または勾配に比例する。磁力とトルクの両方が残留磁束密度と小さい磁石の体積に比例する。磁石から遠い位置では、磁場強度(B)は距離の3乗に反比例する(Bx ∞ x-3)。このため、小さい磁石上でトルク(x-3)と磁力(x-4)の両方が、大きい磁石からの距離の増加に伴って急速に減少する(図2)。電場や超音波と比較して磁場は正常な人体組織で減衰を生じないため、この磁力とトルクの減少は正常な生物組織によって激化されることはない。

磁石表面から20~200mmの距離の棒磁石の軸に沿った磁場と勾配強度。 

図2:磁石表面から20~200mmの距離の棒磁石の軸に沿った磁場と勾配強度。 

磁石上に異なる形状の磁極部を加えることで(図3)、磁石周囲の磁場分布とその性質を操作することができる。ただし、シミュレーションによると、前述の応用条件において、磁極部は特定の点で磁場に対しわずかな影響しかないことが示されている。 要約すると、外部磁場による生体内物体の操作に関する主要な設計オプションは次のとおりである。 -磁性材料:操作する物体と外部磁場間の距離は、通常磁石の大きさより大きく、磁場は距離の増加によって急速に低下するため、強力な磁性材料が必要である。現行では、NdFeB 合金が最も強力な磁性材料である。NdFeB 合金はさまざまな形状で提供されており、十分な安定性がある。 -体積:磁石の体積はその磁場強度を決定する。通常、既製製品の大きさは限られている。ただし、複数の磁石を配列して連結し、有効サイズを増加することができる。 -形状:磁石の形状は磁場および勾配に影響する。外部磁場の勾配は物体上の磁力トルクを決定する。 -配置:外部磁場に対する内部磁石の配置は、外部磁場における特定の位置の磁力とトルクに影響する。 -距離:磁石間の距離は物体の可操作性に対して影響する主要な要素である。 磁性操作のリスク 静磁場は正常な人体組織を減衰することなく貫通し、磁場強度が 3T未満であれば、鋼板などの強磁性インプラントや、補聴器またはペースメーカーなどの電子インプラントがない限り、人体に害はないと考えられている。4

異なる形状の磁極部を加えることで、磁石周囲の磁場分布とその性質を操作することができる。

図3:異なる形状の磁極部を加えることで、磁石周囲の磁場分布とその性質を操作することができる。

磁気操作は、磁気共鳴(MR)法に対応していない。MR スキャナ内または付近で磁石を使用することは極めて危険である。スキャナ周囲の強力な磁場が使用される永久磁石に強力な磁力を及ぼす。 NdFeB 磁石は、腐蝕の影響を受けやすく酸化しないよう保護する必要があるため、通常ニッケルや錫、亜鉛、クロムなどでコーティングまたはメッキされている。合金またはコーティング材料のいずれも生体適合性がなく、また生体内または移植用デバイスの応用向けに承認されていないことは明白である。一部のケースでは、金またはポリテトラフルオロエチレン皮膜が提供されているため、システムおよび応用によっては、適切な対策を講じて磁性材料から人体を保護する必要がある。一般に、磁石が交番磁界内に配置され、かつそのキュリー温度を超える温度にあるとき、磁石は完全に磁性を失う。NdFeB 磁石は、高温グレードでも提供されている。NdFeB 磁石の動作温度は、最高240℃に達し、このため蒸気や乾熱滅菌などの標準的な滅菌法に耐えることができる。医療手順において、生体内の物体及び続いて組織にかかる可能性のある磁力を注意深く制御する必要がある。組織によっては、磁力が許容応力を超過し、外傷を引き起こす場合がある。 カプセル内視鏡の遠隔操作 欧州連合フレームワークプログラム(FP)6に基づき実施されている NEMOプロジェクト1では、上述の調査結果がカプセル内視鏡に応用されている。PillCamカプセル内視鏡は、医師による消化管の疾病の検出と診断に役立つ効果的、かつ貴重な診断ツールであることが証明されている。PillCamカプセルは、大きさが11mm x 26–31mm、重さが4g未満である(図4)。PillCamカプセルは、マイクロチップカメラ、フラッシュとして動作するLED、バッテリー、アンテナ、送信器チップを搭載している。

図4:磁石とカメラを搭載したNEMOの概略図。挿入図は2種類のPillCam(Given Imaging社提供)。

図4:磁石とカメラを搭載したNEMOの概略図。挿入図は2種類のPillCam(Given Imaging社提供)。

患者が容易に飲み込むことができる使い捨てのカプセルは、体内を自然に移動し、その動きに合わせて消化管の画像を捉え、患者が装着しているデータ記録装置にその画像を送信することができる。その後、画像はワークステーションにダウンロードされ、カメラの移動を記録したビデオが作成され、臨床医により画像診断がなされる。5,6 既存のPillCamは、理論・シミュレーション・実験結果に基づき、改良がなされ、特定の配列の磁石が加えられた。強力な外部ステアリング磁石を組み合わせ、データ記録装置へのデータ送信を妨げることなく、食道内のカプセルを停止、回転、解放することができるようになった。また、胃の壁面上でカプセルを動かし、180度回転させることもできるようになった。7 NdFeB 磁石は密封されたカプセルの中に封入されているため、生体適合性の問題はない。改良が加えられたカプセルは現在臨床試験中である。研究と開発の次のステップは、想定される日常的な臨床用途におけるデバイスの安全人間工学及び可用性の最適化に重点が置かれる。 参考文献 1.     European FP6 project NEMO, Nano-Based Capsule-Endoscopy with Molecular Imaging and Optical Biopsy, www.nemo-strep.org. 2.     WO 2008/145167 A1, “Magnet Arrangement for Generating an NMR-Compatible Homogeneous Permanent Magnetic Field“ (2008). 3.     S. Fiedler et al., “Touch Less Component Handling - Towards Converging Assembly Strategies,” mstnews, 3, 25–27 (2008). 4.     DIN EN 60601, Medical Electrical Equipment - Part 2–33: Particular Requirements for the Safety of Magnetic Resonance Equipment for Medical Diagnosis. 5.     J. Gerber et al., “A Capsule Endoscopy Guide for the Practicing Clinician: Technology and Troubleshooting,” Gastrointestinal Endoscopy, 66, 1188–1195 (2007). 6.    P. Swain, “The Future of Wireless Capsule Endoscopy,” World J. Gastroenterol., 14, 26, 4142–4145 (2008). 7.    F. Volke et al., “In Vivo Remote Manipulation of Modified Capsule Endoscopes Using an External Magnetic Field,” Digestive Disease Week 2008, San Diego, California, USA (May 2008). Dipl.-Ing. Andreas Schneider* is Group Manager, Biomedical Competence Centres, Fraunhofer Institute for Biomedical Engineering, Industriestrasse 5, D-66280 Sulzbach, Germany, tel. +49 6897 907 142, e-mail: andreas.schneider@ibmt.fraunhofer.de www.ibmt.fraunhofer.de Dr Frank Volke is Senior Scientist, Simulation, Visualisation & Magnetic Resonance at Fraunhofer Institute for Biomedical Engineering, St. Ingbert, Germany. Dr Bertram Manz is Senior Scientist, Magritek Limited, Kelburn, Wellington, New Zealand, www.magritek.com * 記事に関する質問などの連絡の窓口はSchneider氏にお願いします。 本記事は、European Medical Device Technology2010 1月、第1巻、第1に英語で掲載されました。

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